【モンスター】井上尚弥がカルデナスを8回TKO、4団体統一王座V4【Sバンタム級】
さあ、戯れ言《
無名の咬ませ犬に予想外の試合展開
“モンスター”井上尚弥が、予想外の試合展開で苦闘した。圧倒的なオッズ差がありワンサイドのKO勝ちが期待されていたが、試合内容としては過去最低であったと評しても過言ではない(2R以外フルマークだったが、スタッツは過去最低のデータ)。2ラウンドのダウンは完全に効いていた。攻防における欠点を露呈した様な試合になってしまう。バンタム級までならばパンチングパワーで付け入れられなかった欠点だったが、Sバンタムでは「パンチ力のバリア」が通じずに、モンスター攻略のパターンを晒してしまったと思う。正直いって衰えが垣間見えた。
5月05日(現地時間4日)
会場:ラスベガス・Tモバイル アリーナ
4団体統一世界Sバンタム級タイトルマッチ
TKO8回0分45秒
勝利 4団体統一王者
井上尚弥(32=大橋)
戦績:30勝(27KO)無敗
VS
敗北 WBA1位
ラモン・カルデナス(29=米)
戦績:26勝(14KO)2敗
※)井上はWBC/WBOはV5、WBA/IBFはV4
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世界戦歴代KO最多記録を更新
自身の最多記録を更新しての25勝23KO無敗。
世界戦連続KOは11に伸ばし、ジョー・ルイスの22度を抜いて通算23回という世界新記録をマークした。おそらく今後、破られることがない不滅の記録だろう。
◆合わせて読みたい◆
井上尚弥は続くも「モンスターは終わった」のか
そりゃ、ボクシング関係者は「井上尚弥がピークアウトしているかも」とは、口が裂けても言えないだろう。でも、フラットな目線で見ると、超ザコ挑戦者(急遽代役だから仕方がないが)の、世界下位ランカーのキム相手でも、兆候は見えていた。
キム戦の記事から引用しよう。
キムの攻撃パターンは、YouTubeにアップされている試合通りであったが、仮想キムとのスパーなしだと、井上尚弥といえど割とアカン感じでパンチを被弾していた。
守勢に回った際のポジショニングも悪く、反応も「?」というのが正直なところである。特に1Rの左ストレートと2度に渡る左オーバーハンドの貰い方は、ちょっと頂けないという感じだ。パンチが伸びて深く入る強打者の一撃なら、たぶんダウンしている。
攻撃中の被弾回避と攻防一体のバランスが、バンタム時代よりも落ちている気が。防御に徹すれば完璧なディフェンスワークを披露するモンスターであるが、そうでないケースは「パンチで相手を威嚇できなければ」そこまで防御が凄い、という印象は薄れている。
キム戦の内容に関しては、「急遽、オーソドックスからサウスポーに対戦相手が代わって、対策を練られなかったから仕方がない」「相手のパンチをわざと受けていた」「井上もわざと受けてパンチを確かめたと言った」との擁護があった。
しかし、信者がいかに擁護しても「以前よりも明らかに反応が悪くないか?」という疑念は拭えなかった。
「次の試合でわかる」という信者たちの談であったが、案の定、大して強くないカルデナス相手にイマイチの試合内容を晒してしまい、どっこい信者たちは「カルデナスが強かった」とゴールポストを後方へ、大きくズラすという結果に。
むろんボクシング関係者は「弱いカルデナスに苦戦した」とは絶対に言えないので、カルデナスを持ち上げるしかなかったのだが。
モンスター対策の戦法が明白になった
バンタム級の頃の相手は、井上のパンチの威力に慄いて(パンチ力に威嚇され)守勢に回らされていた。カウンター一閃も含めてとにかく一発で切って落とせていたし、ボディショット(特に左ボディフック)もワンパンチが強烈だった。
それとパワージャブ&右ストレートの破壊力が、対戦相手の対してバリア的な役割りを果たしていたのだ。だから井上は最小限のバックステップと強打の威嚇だけで、自分の距離をキープできて、かつ、そこからステップインして神懸ったブローを体現させていたのである。
で、Sバンタムに階級を上げて、当たり前であるが「パンチの相対的な効果」は半減した。フレームがデカいヤツが骨格的な適正階級に近づいていくケースならば、階級アップの度に「骨格が適正階級を超えない限り」パワーとスピードは増していく。正確に言えば「フレーム的に自然なパワーとスピードに戻る」と表現すべきかもしれない。中谷潤人が好例だ。フレーム的にフェザーが適正と思われるので、バンタム⇒Sバンタム⇒フェザーまでは「耐久力は別にして」パワーとスピードは普通にアップする。
フレームがデカい中谷とは違い、井上はフレーム的にはバンタムが適正である。
つまりSバンタムだとフレーム的に適性を超えているので、頑張ってビルドアップ(筋量増加)していかなければならない。現実問題として、ウェイトトレーニングの数値や陸上トレ的な記録はアップしても、ボクシングのパワーとスピードは筋量増加ほどには上がらない。元阪神の糸井が好例だ。フィジカルアップしたら野球の動きが悪くなって、下手クソになってしまったという。
カルデナス「パワーがそれほど凄いとは思わなかった。もっと強いパンチを過去に打たれたこともある。ただ、彼の凄いところは6発、7発、8発と一気に打ってくる、そのラッシュに圧倒された」
Sバンタムに上げてから対戦相手がディフェンシブなスタイルになっていたのは、バンタム時代とは異なり「井上のパンチ力が脅威だから」ではなくなった。彼の最大ストロングポイントである「反応と動きのスピード」に対応する為である。
信者はここを決定的に勘違いしているのだ。
元からして井上尚弥自身「自分のパンチは衝撃的な数字としては普通(意訳」とコメントしている通り、同じ大橋ジムの武居とか前途した中谷みたいに「インパクト時、サンドバッグに拳がめり込む」様な物理的な破壊力が売りではない。急所とかガードの着弾点にロスなく衝撃を伝える技術が卓越しているのである。
Sバンタムに上げた結果、とにかく「パンチの効き」が悪くなった。タイミングの良さは健在で、フルトン戦の一発、タパレス戦の最初のダウン、ネリ戦でのダウン連発と、倒している事は倒している。ちなみにタパレス戦でのKOラウンドの右ストレートは、なんか偶然っぽい。タパレスが首を振ったところ、運悪く右ストレートがテンプルにヒットしてしまい効いたと、タパレスは言っていた。
過去最高の出来だったフルトン戦を除けば、キム以外の対戦相手全員が、井上の反応とスピードに対応し切れないけれど、下がりっ放しもアレだから前に出るか――みたいな感じで、前に出て打ち合おうともしている。
ネリなんかはガップリ四つで井上と打ち合おうとしていた。1Rのダウン云々はあまり関係なく、真っ向から向かってきていた。ただあの試合、井上のダウン後のディフェンスはキレッキレで、ネリは返り討ちに遭ったが。
そして次のドヘニー戦で「少しだけ」おかしいな、って感じになる。
フェザー級進出を見据えたビルドアップの結果で見た目はゴツくなっているし、水抜き導入+筋量アップで戻し幅が増えたのは良いが、ドヘニー相手に「上を」効かせられない。以前よりも力強く打っているボディショットは強烈だったが。
そのドヘニーであるが、後にWBA世界フェザー級チャンプのニック・ボールに挑み、顔面をボコボコにされた挙句、心を折られてノーマス負け(棄権TKO)している。
話はようやく今回のカルデナス戦にいく。
カルデナス陣営の作戦は割とシンプルだった。というか、カルデナスの実力と技術ではプランAが精一杯で、プランB、プランCと用意できなかったと思う。
まずハイガードをキープして、最速のジャブを真っ直ぐ突く。
普通、世界レベルのボクサーになると、ジャブも様々なタイミングだったりスピードだったりを織り交ぜる。出だしとか軌道も変化をつける。中谷潤人の多彩なジャブが分かり易い。めったに最速で打たないし、最速で引かない。レーダーと左拳のブラインド、そして相手の出鼻をつっかえ棒として使っていなす。とにかく多機能だ。で、ここぞで最速のジャブ。それを伏線(導線)にロングから左ストレートをズドン、だ。
そもそも打つ&引きを最速かつ真っ直ぐ(最短距離)に連発すると、タイミングが読まれてしまう。単調なジャブは引きに合わせてカウンターをもらうリスクもある。余談だが、カルデナスのジャブだと、中谷潤人に連発すると引き際に左ストレートをカウンターで直撃されて、それで終わると予想する。ってか、カルデナスもバカじゃないから、あんな一本調子な真っ直ぐオンリーのスピードジャブを、中谷には連発したりしないだろう。
ところが、井上尚弥には「真っ直ぐオンリーのスピードジャブ」が思いの外、有効に機能してくれたりする。理由は、井上もハイスピード・パワージャブでの左の差し合いを好むからだ。脇を開けて、ステップイン+左肩も捻じ込む弾丸の様なパワージャブ。
井上はガードの上からでもこの強ジャブで威嚇することによって、リズムと距離・出入りを作っていた――のだが、カルデナスも「普段はタブー」である強ジャブ連打とハイガードによって、井上のジャブの機能を半減させるのに成功する。
トータルジャブの命中率は「井上28%」「カルデナス22%」であったが、カルデナスはハイガードでジャブを止めることが主目的であったので、十分な効果だ。
カルデナスは井上の打ち終わりを狙って、左フックをメインに左右をフルスイング。ガードされれば、再びハイガードからのジャブの交換に戻る。井上がリターンパンチに合わせて下がってくれれば、カルデナスは肩から半身で、井上に密着しにいく。
これでバンタム時代の対戦相手が実現不可能だった、井上をショートレンジより近いクロスレンジ引き込む、という状況を作るのに成功である。
バンタム時代の対戦相手は、ショートレンジより先に接近できなかった。誰一人として。密着しようとしても、井上の強ジャブ+鋭い反応とバックステップで、最低限ステップイン可能なスペースは井上に確保されていのだ。
そして肉体改造のデメリットも顕在化しつつあるのかもしれない。
筋力アップ以上に筋量による重量アップが多いのか、身軽さと俊敏性が落ちていると思う。バックステップも前よりも上に跳ねているのは、身体が重いからしか考えられない。身軽ならば、跳ねずにスッと滑る様に後ろへと移動できる。
密着されたら井上の強みは、ほぼ消されてしまう。
小柄でフィジカルお化けでもない。
なにしろ井上には中谷潤人みたいな様々な種類のショートアッパーとか、逆に上や真横からの「巻き込み系」のパンチを持っていないのだ。ステップインを封じられた井上には、効果(威力)の低い「手打ちっぽい」左右のフックしかなかったりする。それも割と雑で精度が良いとはいえないパンチだ。当然、左ボディブローも効かない。
下からのパンチは、連打の最中に織り交ぜるアッパーしか、井上は打てないと思う。少なくとも実戦では。得意の中間距離からダイレクトにロングアッパーとか見た記憶がない。
そうしたらカルデナスは後ろに下がって誘い込めば良い。
井上はここぞとばかりに追って来る。苦手でストレスな密着状態からスペースができたからだ。そんでもって、最初から井上にはダイレクトのアッパーはないので、とにかくストレートを打たせない様に動くと、ほら、この通り――
しかも右ガードが落ちるという悪癖までオマケつき。
バンタム時代にはなかった、相手から密着可能という状況は、井上尚弥というボクサーのメカニズムおよび戦略において凄まじいマイナス要因と推察できる。
出入りのみならず、ポジショニングにおいてイニシアティブを井上は取れなかった。普段よりも被弾率がかなり高く、ジャブの差し合いで後れを取る場面もあり、なによりも右ストレートを危険なタイミングで放り込まれていた。
しかしカルデナスに用意できたのは、このプランAのみ。
この先に必要なプランB、そしてプランCはなかった。
元々からして咬ませ犬レベルのカルデナス。
距離を潰す、までで精一杯であり、結局は井上の手数に圧倒される結果に終わる。もうちょいレベルが上のボクサーなら、更に先の展開も見込めたのだろうが、スタミナ度外視で、スピードジャブと左フックを決め打ちフルスイングする――で策は終わりだった。
距離が生まれた要所要所では、井上とのスキルと回転力・手数の差は如何ともし難く――
最後には、あえなく捕まってしまった。
ストップのタイミングとしては、これ以上なく妥当だと思う。
パワーレスが露呈したと思う
「井上尚弥対策:序」が奏功した点を除いても、7R、カルデナスの右ショート⇒左ショートが井上の顎に入って、効いたシーンは衝撃だった。
ボディも効いている様に見えた。
そこから井上はロープまで真っ直ぐに下がり足が動かなくなる。パンチもらいまくって、ヘロヘロ状態のカルデナスに逆に仕留められそうになった。これ、相手がもうちょいマシなレベルだったら、そのまま連打でレフェリーストップまで持ち込まれていたと思う。
そもそもパワーパンチのヒット率49%もあって、総ヒット数108
8ラウンドで108発(ボディは28発)も当てて、7Rのロープダウンに最後はレフェリーストップである。クリーンノックダウンを奪えなかった。
数字だけ見ると、お世辞にもハードパンチャーとは言えない。ってか、普通にパワーレスの類と判断される数字だ。
増量によるスピードの鈍化。
反応が落ちているという疑惑。
パンチの効きが悪くなる。
密着状態を許してしまった。
2Rのダウンどうこうではなく、けっこう厳しい現実である。バンタム時代みたいにカウンター一閃で試合を決定づけるシーンもなくなった。タパレス戦も序盤にカウンターでダウンを奪っても打ち合いで盛り返された。
それに対して、ネリ戦とカルデナス戦、序盤に井上の方が左のワンパンチでコロッと倒れている。右ガードの甘さを突かれて効かされてもいた。正直いって厳しい、と思う。
次のMJ戦が正念場か
カルデナス戦を観るまでは、誰もが「確実に勝てる」と思っていただろう。
アフマダリエフが後半追い上げてのスプリットとはいっても、井上が10回KOしたタパレスに敗けているのだ。実際、フルトン戦・タパレス戦の井上尚弥ならば、MJも問題なく後半KOできたと思う。
だが、現在の井上の状態と「攻略法の序章」を曝け出されてしまった今、50%の確率で左フック被弾を起点にKO負けすると予想だ。
左フック対策で右を常にハイガードにしたとしても、使える右ストレートに制限がかかる。対サウスポーだと、右構えは左リードジャブよりも右の使い方が重要になるのだ。それだと、おそらく相手はインサイドからの左ストレートを狙い放題である。
フック対策でガードを上げればよいというのは安直な考えで、田中恒成なんかは、その方法でのディフェンス向上に失敗して、結局は元のスタイルに戻している。
ここから復活すれば、まさに伝説だ。
しかしカルデナス程度の相手に、このパフォーマンスだと落日は近いと思う。