【7回KO】井上尚弥がモロニーを倒し統一王座を防衛【WBAスーパー&IBFバンタム級】
さあ、戯れ言《
モンスター、ラスベガスでの第二章を開始
世界最大手の1つである「トップランク社」との契約、そしてアメリカ・ラスベガスでのメインイベンター。試合報酬(ファイトマネー)は軽量級および新型コロナ禍での無観客試合において破格ともいえる1憶円の大台に。
東洋の小さな島国――日本国内を主戦場にしてWBSSを制したまでを「ボクサー井上尚弥の第一章」とするのならば、「トップランク&ラスベガス」という夢のネクストステージへと駒を進めた今は「ボクサー井上尚弥の第二章」と定義できるだろう。
本格的な世界(ラスベガス)進出の初戦。
KOで勝つという最低限の仕事(使命)を、想像を絶するであろう重圧の中、“モンスター”は見事に果たしてみせた。それも鮮烈なワンパンチノックアウトで彩って。
10月31日(日本時間11月1日)
会場:米ラスベガス
MGMグランド・カンファレンスS
WBA&IBF世界バンタム級タイトルマッチ
KO7回2分59秒
勝利 2団体統一王者
井上尚弥(27=大橋)
戦績:20勝(17KO)無敗
VS
敗北 WBA2位/IBF4位
ジェイソン・モロニー(29=豪)
戦績:21勝(18KO)2敗
※)井上はWBAはV4、IBFはV2に成功
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試合内容を振り返る
モロニーは咬ませ犬だが強敵でもあった
新型コロナ禍におけるスケジュールの乱れがなければ、井上の相手はWBO世界バンタム級王者、ジョンリル・カシメロ(比)との3団体統一戦になる予定だった。
井上と同じ世界3階級王者であるカシメロは34戦30勝(21KO)4敗
獲得タイトルはIBF世界Lフライ級暫定王座、IBF世界Lフライ級王座、WBO世界Lフライ級暫定王座、IBF世界フライ級王座、WBO世界バンタム級王座(暫定から正規に統一)の5つだ。
階級を上げる度にKO率が下がっていくタイプではなく、カシメロはバンタムに上げてからパワーを増し、バンタム級では6戦6KO勝ち。階級の壁どころか適正はバンタムからSバンタムと思われる。バンタムに上げてから、とにかくパワフルだ。
そんなカシメロだが井上との試合のために早くから(フィリピンより)アメリカに滞在していたにも関わらず、スケジュールは後ろに倒れていく上にファイトマネー減額の話まで出て、WBO1位との指名試合を優先した(3回TKO勝ち)
3団体統一戦はリセットという格好になり、井上は対戦相手の変更を迫られた。候補はIBFの指名挑戦者――マイケル・ダスマリナス(33戦30勝20KO2敗1分、比国)か、モロニーの2者であった。世情が世情で相手選びも難しい。
ぶっちゃけると、世界戦での実績0のダスマリナスよりは、モロニーの方がラスベガスお披露目の相手としてマシ、という判断だったのだろう。モロニーも世界戦はロドリゲスとの1試合のみ、しかも判定で落としている。
戦績も良く、バランスがとれておりまとまったスキルフルな良ボクサーという評価は得ている反面、KO率に対してパンチ力には欠けているなという印象だ。ハッキリいって怖さはない。カシメロと比較しても格落ちだ。
苦戦は許されても、KOを逸したり、間違っても敗北する様な事があれば「ボクサー井上尚弥、第二章ラスベガス編」は開始早々バッドエンドになってしまう。今回のモロニーはそんな相手であった。
戦略性とゲームメイクで進化をみせた
ファーストラウンドは様子見か。
表情が固いなぁ。
2ラウンド以降、井上はプレスを強めていく。威力のあるジャブが良く出ていた。
しかし1年前よりも雑だしバランスが悪い。
スピードも落ちている?
パンチ力も明白に上回っているものの、普段よりも威力がない感じだ。
メンタルや技術よりもフィジカル面で、調整も含めてブランクの影響だろうか。
ひょっとしたらトップランク社との契約後の初陣、ラスベガスお披露目という事もあり、海外人気を獲得する目的で「強引にでも」序盤KOを狙っていたのかも。
でもモロニーはガードが高く、井上の打ち終わりを狙っている。手数もあるし、ガードを固めて前に出ようとしている。あまり上手くいっていないが。
井上は普段よりも雑な分、パワーショットは貰っていなくてもジャブを被弾していた。試合後は左顔面が少し腫れていたし。
それでも「力づく」ではなく「計算して」戦っているなと思えるシーンが。
アッパーの使い方とポジショニングが印象的だ。
序盤KOを諦めて、中盤からはカウンター狙いに切り替えたのも見事だった。
モロニーは全くポイントを取れていなかったから、余裕をもって組み立てられたのだろう。フィジカルの状態は明らかに(昨年の)ベストより劣っていたが、それでも技術面がしっかりしているので、ゲームプランを計算して戦える。それはボクサーとしてとても大切なファクターだ。
インターバル中に足を気にしていた(脱水症状で吊りかけた?)
減量の方法を「水抜き」重視で、計量後に水分をしっかりとリカバリーできる様に変えるべきかもしれない。試合中に脱水症状が起こったり足が吊るという事は、明らかにリカバリーの仕方が間違っている。栗原慶太や京口紘人は「水抜き」を研究かつ理解しているので、そういったコンディション的なミスは犯さない筈だ。
体重の戻りも甘く見えたし、今日のフィジカルだとSバンタムに上げるのはちょっと賛成できない。フェザー級は論外だ。
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練習していたカウンターが決まる
被弾も目立ったが、5ラウンドには強烈なレバーブローがモロニーをえぐる。
守勢に回ったシーンもあったが主導権を明け渡すことなく、ボディも効果的に決まりだしてきた印象だ。ジャブは試合全般を通してグッド。手数の割に右ストレートが少ないのが気掛かりか。まさか(右を)痛めたのではと危惧してしまった。
圧倒的、怪物的なイメージとは違い「完璧に支配」している感じだ。
モロニーは井上に対抗する手段がなくなっていた。
手数で対抗していたが、それも井上の手数に相殺されてパワー差は歴然。
成す術なしで下がる場面が目につく。
ガードに傾倒して倒されない為の戦い方になっている。相手の手札を技術的に封じていき、着実にダメージを刻み込んでいく井上の姿は、ボクサーとして理想的な試合運び(ゲームメイク)かもしれない。
6ラウンド――狙っていたカウンターが炸裂。
ダブルジャブの後に前に出る癖がモロニーにあるのを見抜いていた井上は、そのダブルジャブにカウンターを合わせる練習を繰り返していた、と試合後に述べている。
鮮やかな左フック。
コンパクトで最短距離だ。
偶発ではなくこれを狙って打てるのだから、モロニーとしてはたまったものではないだろう。この回からモロニーは効いている感じを隠せなくなっていた。
井上はKOを逃がすと評価が落ちる立場。
フィナーレは次の7ラウンドだった。
ワンツーに対して、ドンピシャのタイミングでカウンターを一閃。
ライトクロスだ。
数あるライトクロスのパターンでも最も効果的なカウンター。相手の左に右を十字に被せるライトクロスよりも遙かに威力がある一発。
正面から右と右が交差した瞬間、モロニーは腰砕けになって崩れ落ちる。この一撃の為に右ストレートを温存していたとは。
センセーショナルなKOシーンで幕を閉じた。
スタッツで見てみると
ヒット率に差があった。特に強打の着弾が段違いであり、パンチ力の差を考えると井上が圧倒しているデータだ。気になるのは7Rでジャブ30程度の被弾だったのに井上の顔が腫れていた事くらいか。本来よりもスピードが遅くバランスが悪かったので、苦戦の印象があったが、データ的には「満点に近い」結果が残っている。特にモロニーのジャブを8割以上も外しているのは感嘆の一言だ。
井上尚弥 | J・モロニー | |
トータル | 107/338(32%) | 62/334(19%) |
ジャブ | 44/164(27%) | 30/209(14%) |
パワーショット | 63/174(36%) | 32/125(26%) |
試合後のコメントと今後
井上のコメントは以下だ。
上手く調整もいってリングに上がった。やっぱりラスベガスというのがあって硬くなった。前半は攻めていったけど、(マロニーは)足も動かすし、上体も動かすし、なかなか当てられないという印象だった。だから中盤からカウンター狙いにした。(ダウンを奪った)左も右も練習してきたパンチ。左ジャブもダブルで打つ勉強をしてきて思うように入った。
目?(眼窩底骨折は)100%完治しているので大丈夫です。無観客試合? リングに上がれば気にならなかった。ラスベガスの第1戦に無事KOで勝てたので次はWBCかWBOをターゲットにしていきたい。
フィニッシュのパンチは納得いく形で終われた。
自分の判断力をドネア戦で学んだ。パワーアップしている。
次戦のターゲットはWBCタイトル(王者ウバーリと1位ドネアの勝者)か、前途したカシメロになる。WBA正規のリゴンドーは興行的にスルーでOKだろうが、問題はIBFの指名試合だ。
個人的な希望としてはウバーリ⇒カシメロ、それからリゴンドー⇒テテかな?
井上尚哉の第二章が楽しみで仕方がない。