僕は【戯れ記事《ゴト》遣い】

「戯れ言遣い」ならぬ「戯れ記事遣い」を名乗るブロガーです。 雑記系ですが、読んで損したと憤慨されても困ります。 だってコレは「戯れ言」だから――

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【実際に通過作で解説】戯れ言――ラノベ新人賞の一次通過のコツについて【第6回】

【実際に通過作で解説】戯れ言――ラノベ新人賞の一次通過のコツについて【第6回】

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さあ、戯れ言 記事 ゴト を始めようか――

 

 

例によって前の第5回については、下のリンクを参照ねがいたい。

予想よりも、現在放映中である『戦姫絶唱シンフォギアXV』の番組レビュー記事に、時間というよりも労力というか集中力を吸い取られてしまい、思う様にこのサブブログに取り組めなかったりしている。いや、下書き状態の記事(未完成)はあるのだが、やっつけの記事を投稿してもマイナスだし、月間アーカイブの数字がとても寂しい状態だが、グッと我慢の時だと自分に言い聞かせている次第だ。

ってなワケで、当面の課題としてこの『ラノベ新人賞の一次通過のコツ』企画を完結させてしまおうという意向である。記事のアクセス0でも、とにかく終わらせたい。需要がなくても、サイト設計の上での自己満足である。

◆合わせて読みたい◆

第五章 思惑(MITHUKI)

 

       

 

 美月 みつきのと清香 きよかは日曜の街中を散策していた。
 快晴だが、二人の心境は曇天といったところか。
 楽しそうな周囲の喧噪から切り離されているかの様な少女達は、遊楽が目的ではない。
 清香がぼやく。
「今頃どうしているのかなぁ、刀路 とうじ
「頑張っているんでしょ、色々と。あっちの世界で」

 

 刀路が『【パンドラ】に入る』――と書き置きを残して、早くも一ヶ月が過ぎていた。

 

 その間、音信不通が続いている。
 鏡子との連絡もとれない。しかし刀路の学籍は残っていた。
 いつか帰ってくるのだろうか? それとも……
 一連の真相は、【ケースDD】に係わった清香にも特例的に報されていた。奇しくも秘密を共有する者として、そして刀路を心配する者同士として、美月と清香はいつの間にか友人関係になっていた。周り以上に本人達が信じられないが、意外と馬が合っている。
 仲が悪かった頃の反動のように、今では親友的に打ち解けていた。
「ひょっとしたら、もうトージは帰ってこないかもね」
 美月は思う。刀路の心の傷が癒えて、新しい人生を歩んでいるのならば、それでいいと。
 そんな美月の横顔に、清香が溜息をつく。
「それでいいワケ? いってみれば美月って態よくヤリ棄てられたってやつだけど」
「ま、あたしは何も後悔してないしね」
 その言葉に嘘はない。虚栄もない。しかし――悔しさはあった。
 美月は微笑む。刀路は新しい道を見つけて頑張っている。
 その新しい道に自分は邪魔だろう。だから、刀路が幸せならば文句などないのだ。
 清香が呆れた。
「ねえ、美月。アンタ、自分に嘘ついてない?」
「今日は随分とからんでくるじゃない。また喧嘩友達に戻りたいって事かしら?」
「それが理想といえば理想なんだけどね。本音をいえば、私は刀路を諦めてない。でも、もう可能性がないって分かっているからさ。だからせめて美月にはね……って感じ。というか、この会話ってこれで何度目?」
 美月は苦笑する。もう十回以上は繰り返していた。
 会話が止まり、二人の歩調が早まっていく。
「いい時間帯になったきたわ」
 美月も同意する。もう夕刻が終わり、夜に差し掛かろうとしている。
 もう真夏だ。流石に陽は傾いていた。
 街中での聞き込みは、今日も成果はゼロだったが、これからは違う。情報収集ではなく、こちらから噂になっている霊障スポットに乗り込むのだ。
 過日の事件で、美月と清香は霊感が強い方だと判明している。【神使い】にはなれなくとも【 眩夢 げんむ 】を感じ取るくらいは可能かもしれないのだ。もしも【 眩夢 げんむ 】を発見できれば【パンドラ】との接触も……
 場所は、空き屋である。
 まだ廃墟という程ではないが、数年前に一家が無理心中して以来、買い手が見つからないまま不動産にも放置されてしまった塩漬け物件だ。
 大胆に窓の鍵を壊して家屋に侵入する。機械警備は掛けられていない。
 こういった手口を繰り返しているうちに、二人はすっかり泥棒のノウハウを会得していた。警察沙汰になりそうになった時は、佐倉家の力で裏から手を回して、金銭で解決すればいいと開き直ってさえいる始末だ。
 玄関から一階の各部屋を点検していくが、空気が淀んでいてカビ臭い。
「埃臭いわね。湿気が凄いし」
「ええ。かなりの時間、掃除されていないわ」
 貴重品どころか家具一つない。
 調査を終えるのは早そうだ。つまり、成果は期待できないという事である。
 一階は異常なし。二階に上がる。まずは寝室に踏み入った。
 ぎイ。ギイ。ギい。

 

 ――部屋の中央に、首吊り死体が揺れている。

 

 二階の窓が全開だ。そこからの風が揺れの原因か。ギシ、ギシ、と死体が振り子する。
 いきなり風景が反転したような錯覚。
 清香が息を飲む。美月は両手で口元を押さえ込み、悲鳴を堪えた。
 二人とも心構えが出来ていたので、辛うじて悲鳴をあげずに済んだ。前に、同じケースで盛大に悲鳴をあげてしまって、騒ぎになってしまい、色々と痛い目をみた経験の賜である。
 大きく吐息をつく美月と清香。
 ぎイ。ギイ。ギい。ロープの音が耳障りだ。
 この首吊り死体は幻像とか幽霊という類ではない。
 まだ死後それほど経っていない本物の首吊り死体である。足下の糞尿が酷い。
「これで三度目、か」
「けど一番マシでしょ。腐乱したり蛆がわいていないんだから」
 こんな真似をしていれば、それなりの確率で自殺死体や事故死体とご対面していた。
 自殺したのは、ビジネススーツを着ている若い女だ。
 正確には『おそらく自殺した』というべきか。自殺に見せかけた他殺、というトリックや真犯人が介在する余地があるとは思えないが。
「出たら、匿名で通報しましょう」
 美月の意見に、清香も反対しなかった。公衆電話がある場所は確認してある。
 直視に耐えられない。二人は首吊り死体から背を向けて――
 ぐげゲゲゲゲげげげげ。
 ぐるんぐるん、と女の首がロープを支点に、何度も何度も回転しはじめた。
 笑い声に、美月と清香は恐怖する。
「で、でた」
「うん。そうだね」
 探し求めていたはずの【 眩夢 げんむ 】だというのに、嬉しさは微塵も湧かない。実感したのは、自分達がいかに危険な真似をしていたのか――という、今さらながらの自覚だけだ。
 美月と清香は、共に一度ずつ【 眩夢 げんむ 】を体験した。
 しかし、その時は近くに霊能力を有する刀路が傍にいたのである。今、刀路はいない。
 ぶつん。頭部の回転が終わった。
 女の首が捻れ切れたのだ。頭が床に転がる。女は着地して、自分の頭を小脇に抱えた。
 笑い声と共に、おぞましい瘴気が噴き出してくる。

 

「ねえ? どうしてワタシ、彼に振られちゃったんだろう? お願い、教えて?」

 

 掠れた声で問いかけてきた。小脇に抱えられた貌が――歪に嗤っている。
 狂っている、と美月は恐怖した。
 足が竦んだ美月の手を、清香が強引に引っ張って出口へと走った。
 ばたん。しかしドアが独りでに閉じて、開かなくなる。
「助けてっ! 助けてってば!!」
 我に返った美月がドアを叩くが、ビクともしない。
眩夢 げんむ 】――暫定的に名称するのならば『首吊り女』が、ヒタヒタと歩み寄ってくる。半狂乱になる美月。パニックに陥る寸前だ。
 意を決した清香は、ファイティングポーズをとると『首吊り女』へと殴りかかった。
 その光景に、美月は唖然と立ち尽くす。
 清香のパンチが次々と『首吊り女』にクリーンヒットした。
『首吊り女』は無防備にパンチをもらう――が、平然と立っている。倒れる気配がない。
 ノックアウトを狙おうにも、『首吊り女』の頭は小脇に抱えられているのだ。脳を揺らして失神させられない。そして清香のパンチ力では、ボディでのKOは無理だ。
 無謀にも戦っている清香に、美月が言う。
「逃げよう、清香!」
「どうやってさ!? 出口を塞がれている以上、倒すしかないって!!」
「で、でも!」
 清香のラッシュが止まる。一端、飛び退いてから、走り込んで身体ごと打ち込むしかない。
『首吊り女』が右手を伸ばす。清香はそれをヘッドスリップで躱した。
 ボクシングで染みついた最小限の動きが仇となり、そのまま髪の毛を掴まれてしまう。
「し、しまった……ッ!!」
 左手で胸を握られて――『首吊り女』に怨念を流し込まれた。
 ぎゃぁぁぁあぁぁぁぁっぁぁ!! 悲鳴というよりも、甲高い叫び声をあげる清香。
 絶望して、美月は座り込んでしまう。失禁してしまいそうだ。
 ガシャァァアアアン!

 

 派手に窓ガラスが吹き飛んで、小柄な人影が突入してきた。

 

 突然の闖入者に、『首吊り女』は清香を離す。
 清香は意識を失っていた。
 前転受け身をとり、すかさず起き上がると、突入者の少女は両手を頭上に掲げる。
 美月の目が見開かれた。少女を知っているからだ。

 

顕現 なさい――我が使神《月皇 つきおう )}}》」

 

 セーラー服を含めた姿のみならず、その【言霊】も記憶の通りである。
 半物質化している霊体( 霊子構成物体 アストラル )――太刀の【 使神 シシン 】を顕現させ、試しに一振りした少女へと、美月が呼びかけた。
「緋文さん!」
 彼女――紅瀬 緋文 くぜ ひふみは美月を一瞥もせずに、『首吊り女』へと斬りかかっていった。

 

       

 

 緋文は《月皇 つきおう )}}》の刃を一閃させた。
 その斬撃は必殺を狙った一振りではなく、清香から『首吊り女』を遠ざける牽制である。
 刀は空を切った。飛び退く『首吊り女』を、緋文は追撃にいかない。
 すかさず倒れている清香の安全を確保した。
 清香を奪われた『首吊り女』が鳴き声で訴えてくる。
「どうして? どうして邪魔をするの? ワタシ、彼とよりを戻したいだけなのに」
「執念深い女は男に引かれるわよ」
 輝く霊刀を構え直して、緋文は相手のとの間合いを計る。
 勝てない――と本能的に察した【 眩夢 げんむ 】は、人質にしようと美月を狙って駆け出した。
 自分に駆け寄ってくるに『首吊り女』、美月は身を竦める。
 ニィ、と緋文は微かに笑んだ。

 

「――刀路、出番よっ!!」

 

 その言葉を合図に、ドア板が内側に吹き飛ぶ。
 強烈な炎の噴射によってだ。位置関係的に、辛うじてドア板は美月を躱していく。
 ドア板は『首吊り女』に激突した。
 美月は扉がなくなった出入り口を見た。其処に立っているのは、見知った少年である。
「トージっ!」
「あ、あれ? なんで美月がいるんだ!?」
 刀路は美月を見て驚いた。
 ドア板をぶつけられたて怯んだ『首吊り女』に、緋文が霊刀で袈裟斬りにする。
 ぎゃぁぁああああぁああっ!! 断末魔めいた悲鳴がこだまする――が、終わらない。
「ボサッとしない!! トドメよ、刀路!」
「わ、わかった」
 鋭く緋文に促されて、刀路は視線を美月から?首吊り女』へ移す。
 顕現させている【 使神 シシン 】――英霊《火巫御ヒフミ 》を『炎の太刀』へと変化させた。
 裂帛の気合いを込めて、刀路は炎剣《巫御乃火凰フミノカオウ
》を真一文字に振るう。
 その一撃が決着となり、【 眩夢 げんむ 】は遺体へと還った。

 

       

 

 戦いが終わった後、刀路はバツが悪そうに、美月を見つめるしかなかった。
 聞いていない。鏡子の指示で、急遽の出動だったのだが、まさか現場に美月と清香がいるだなんて。間違いなく《万里鏡 カレイド・スコープ 》で把握していたはずだが、鏡子は黙っていたのだ。
「トージ……。どうして」
 呆然と美月は刀路に問いかけた。責めるような視線だ。
 再会を喜び合うどころか、身に覚えがありまくる刀路は、言い訳するしかない。
「今は研修中というか実習中というか修業中というか、とにかく色々と面倒になっていて」
 美月が怒ってるのも当然だ――と、理解はしている。
 悪気はなかったのだ。けれども【パンドラ】内にいると、外部へのコンタクトに煩雑な手続きが必要となるので後回し、後回し――となっていた。いずれは自宅に戻るのだし、と。
 頭に血が上った美月が思わず怒鳴る。
「だからって無断で音信不通はないでしょう!!」
「悪い。時間が出来たらと思っていたんだけど、マジで忙しくて、つい……」
 その弁明に、美月の全身から力が抜けた。泣きそうな声で言う。
「あのね。あたし達、ホンットに心配してたんだから」
「反省している。気が付けば一ヶ月以上過ぎていたっていうか、休み一日もないし。明日には、明日には連絡って思っていたんだけど、マジで忙しくてさ。スマンスマン」
 二人のやり取りに、緋文が口を挟んできた。
「ちょっと刀路。まさか【パンドラ】での状況を連絡してなかったっていうの?」
「あ、うん。実は。悪かった」
 ちなみに緋文には「大丈夫、大丈夫」といって誤魔化していた。
 事実を知った緋文が呆れ顔になる。
「最悪ね。少しは刀路の専任教官としてのわたしの立場も考えて。連絡は大丈夫っていうから、鏡子にはそう伝えていたのに。後回しにしっ放しだったとは」
「いや。出かける前に書き置き残したから、問題ないかなぁ~~と。ほら、便りが無いのは良い報せ、とかいう諺だってあるだろ?」
「後から反省文よ、刀路」
「もういいわ。音信不通だった件は後に回すとして、今は清香の方が先だし」
 気持ちを切り替えて、美月は清香の様子を見る。
 外傷はないが、未だに失神から回復しない。
 緋文が緊迫した声で美月に質問した。
「物理的に頭部を打ったのが原因の脳震盪? それとも霊障を受けたの?」
 美月は見たままを正確に説明した。
 刀路が緋文に言う。
「ヤバくないか? すぐにでも専門の病院に運ばないと」
「ええ。救急搬送の手配したわ。可能な限り早い処置が望ましいわね」
 美月は確認した。
「前にトージが運ばれた病院に行くのね」
 二人は揃って頷いた。

 

       

 

 S県山林の麓にある大規模の総合病院。
 ここは病院だけではなく、国家機密事項を扱う医療研究機関も兼ねている。
 美月は刀路と緋文に連れられて、清香の病室に向かった。
 万一に備えて霊的に隔離されている個室である。一泊で六十万円もするらしい。
 連絡では、清香は意識を回復していた。
 入念な精密検査の結果、外傷等は問題なしだった。ただし懸念されていた通りに、清香は高濃度の瘴気――すなわち『怨念』に汚染されていた。その怨念の濃度が基準値まで下がるのを確認、かつ濃度の上昇を抑える為に、入院と定期検査が必要と判断されている。
 刀路は感じた疑問を口にした。
「思い切って一気に浄化した方がいいんじゃないか?」
 霊能者ならそうするわ、と前置きしてから緋文が説明する。
「醜い負の感情は誰の心にだって潜んでいる暗部よ。そういった元のパーソナリティにも少なからず影響を及ぼすから、可能な限り自然治癒が望ましいの。通常の心の傷だって同じでしょう? いつまでも薬に頼っていたら本当の心の強さは手に入らない。自分で克服するのがベストなのよ」
 それに投薬に頼ると、最悪で【 眩夢 げんむ 】化のトリガーが入り易くなると言った。耐性を得る為にも自力で瘴気を浄化していくのが一番という事だ。今回はカウンセリングと【 眩夢 げんむ 】封じの護符を併用して、自力で浄化していくのだ。
 緋文は病室前で足を止め、ノックした。
「入っていいかしら? 清香」
「美月? いいわよ。暇しているし」
 清香の声は明るそうだ。
 刀路と美月、そして緋文は病室に入る。
「と、刀路じゃないの! やっぱり【パンドラ】にいたのね。アンタ、どうして連絡よこさなかったのよ。私や美月だけじゃなく、クラスのみんなも心配していたんだよ?」
「いや連絡サボっていたのは悪かったけど、書き置きは残していただろ」
 言い訳する刀路を、美月と緋文がそれぞれ一睨みする。
 しどろもどろになった刀路ではなく、緋文が仕方なしに現在の刀路について説明した。
 英霊《火巫御ヒフミ 》と契約して【神使い】になった刀路は、それから――

 

       

 

 ――国際超常研究対策機関、通称【パンドラ】。

 

 正式名称を、【P.hantom A.nd N.arcotic D.evil a safety measure O.fficious R.aces A.ssociation 】といい、国際連合を母体とする非公表部門の研究対策機関だ。日本政府との繋がりは直接的に持っていない。
 時刻はすでに深夜。
 清香の見舞いを終えた刀路と緋文は、極東エリア日本支部関東局本部にやってきた。
 一緒だった美月は、そのまま清香の病室で一泊するという。
 関東局本部の所在地は、東京都中央区の某所。
 NPO法人が所有している施設に偽装されている巨大高層ビルディングである。
 表向きは、国連と繋がっている国際総合ボランティア団体である。偽装は完璧だ。ボランティア団体だけあって、世間一般に認知されている名称ではないが、一階のロビーに列記されている協賛企業には上場している一流どころが名を連ねていた。しかも美月の一族が経営している佐倉重工㈱も出資している。
 地下三階も含めた全部で五十二階という未来型超高層ビルには、様々な分野のNPOテナントが入っている。昼夜問わずに、不夜城のごとく多数の窓に照明が灯っていた。
 夜間にヘリコプターでダイレクトに屋上ヘリポートに乗りつけるという衆人の耳目を集める真似は避けた。ヘリから乗り継いだ専属契約しているハイヤーも、正門で屈強な男達に厳重なチェックを受けるのだ。完全にテロを想定している警戒レヴェルだ。全てが完全なプロフェッショナルだった。ビルは平和な昼間とは全く別の顔を見せている。
 二十四時間体制の正面受付ロビーで、刀路と緋文はマイクロチップが埋め込まれているパスカードを提示した。二十歳程度に見える若い受付嬢は、そのパスカードを専用のリーダーに通して二人の所属を読み取った。
「正常に照会完了です。四十七階にて面会アポを確認しました。予定時刻に変更はありませんので、そのまま真っ直ぐ向かって下さい。指定は五番エレベータとなります」
「ありがとう。夜勤、お疲れ様」
「どうも。そちらもお疲れ様です」
 受付嬢に提示したパスカードとは違うIDカードを受け取り、指定されたエレベータへと向かった。エレベータ内には、昇降する階上を示すボタン類が一切なく、カードリーダと液晶画面付きのテンキーのみだ。緋文が先ほど渡されたカードをスロットに通す。
 画面には『47F』のデジタル表示。
 加速を全く感じさせずに、高速エレベータは滑らかに上昇し始めた。

 

  到着した四十七階フロアの中央ロビー。
 エレベータの正面に位置する重厚なドアには、局長室のプレートが掲げられている。
 入口にこそ屈強そうな制服姿のガードマンが揃っていたが、広々とした室中には一組の男女しかいなかった。窓際のマホガニーの机。座っているのが大人びた三十代男性。オールバックの髪には白髪が交じっている。彼の脇に付き従っているのが、二十代後半から三十代前半にみえる理知的な女性だ。
 男性はビジネススーツを着ているが、女性は軍服のような服装だ。
 颯爽と前に進んだ緋文がビシッと敬礼を決め、毅然とした態度で報告した。
 清香という負傷者と再び美月と接触してしまった事も隠さすに話す。
 女性が労いの言葉を二人にかけた。
「ご苦労様。《ホークアイ》からの報告と差異はないわ。佐倉美月および浅間清香の両名との現時点での接触は望ましくないとはいえ、近くには他の適任者が不在だったので、二人と再会してしまった事は不問にします」
 後に報告書の提出するように指示されて、この案件は終わりとなった。
 そして緋文に話があるからと、刀路だけが退出を命じられた。

 

       

 

  刀路のみが局長室を去って、中央ロビーに残ったのは三名になった。
 男性と女性に少女という組み合わせ。
 部屋の主である関東局長・山岸 真二 やまぎし しんじ
 山岸の右腕である織部 おりべゆり子。
 そして、ゆり子の配下であるSランクの対DD戦闘員《ブレード》こと、紅瀬 緋文 くぜ ひふみ
「さて……と。これからの貴女と刀路くんの予定を伝えます」
「わたしだけに?」
「ええ。彼はまだ一人前には程遠いので。貴女だけが把握していればよい話ですから」
 現在の緋文――《ブレード》は長期に渡る特別任務に就いている。《ホークアイ》の監督指揮下にて、津久茂刀路を【対DD戦闘員】として育成する為の専任教官をしているのだ。
【パンドラ】に所属するエージェントは、本配属前に各々専門教育を受け、本採用試験にパスする事が義務付けられている。その為の各種教官も当然組織内に存在している。契約後即仕事に従事するという例外は、基本的に他組織から職務経歴を評価されてスカウトされてくる技術スタッフと医療スタッフくらいである。
 つまり教官ではない緋文にとっては、門外漢の任務といえた。
 しかし刀路の教育と訓練に関して、今回、新しい試みがなされているのだ。
 現場でミッションをこなす【パンドラ】の職種は主にみっつ。
 ひとつは千璃 鏡子 せんり きょうこ のような諜報捜査員。
 上位判定を受けた一般的霊能者、もしくは非戦闘系【神使い】能力者によって構成される。
 もっとも幅広い形で一般社会において暗躍しているのが彼等だ。対【 眩夢 デーモンドリーム 】戦闘においては、個人レヴェルで解決可能な事件に限り、現場指揮権も発揮する上位権限を有する。
 もうひとつは【パンドラ】が抱えている私設軍に所属している【対G霊装兵士】。
 霊能者クラスには届かないが、一定レベル以上の霊感をもっている私設兵士である。対【 眩夢 デーモンドリーム 】戦闘において様々なバックアップを一手に引き受けているプロフェッショナルだ。戦闘時以外には、【パンドラ】の警備業務も引き受けている。
 彼等は基本として新兵ではなく、軍隊経験者や兵役経験者をスカウトしてくる。日本では自衛隊の特殊部隊や警察のSATなどからの引き抜きがほとんどだ。経験や練度が重視され、総合的な能力という視点ではズバ抜けている。唯一の欠点は、単体での戦闘能力の低さだが、それは極めて個人戦闘能力に秀でている【神使い】能力者と比較しての話だ。
 最後は、紅瀬緋文のような【対DD戦闘員】。
 戦闘系の【 使神 シシン 】を操る対【 眩夢 デーモンドリーム 】戦闘の専門家として育成された【神使い】能力者たちである。対【 眩夢 デーモンドリーム 】戦闘において最前線で死地に赴く超精鋭で、彼等の個人戦闘能力は、他の追従を許さない高レヴェルだ。ただし戦死も多く数が常に不足している。
 そして戦闘系【神使い】の育成、練成には、個々人の適正に合わせた複雑かつ高度な専門プログラムが必要となるのだ。
 諜報捜査員、【対G霊装兵士】などの現場要員だけではなく【パンドラ】構成員は、皆それぞれの職種用の教育カリキュラムに沿って一律に団体として訓練されている。その方式が最も効率的で確実性の高い育成方法だからだ。だが、【対DD戦闘員】だけは、その教育カリキュラムという枠組が規定されていない。
 何故なら、【対DD戦闘員】は『兵士』ではなく『戦士』として育成されるからである。
 各々の役割を果たす為に、画一化された技能と知識を追求するカリキュラム式の育成では、平均的な能力の人間は造れても、才能を最大限に利用する天才は造れない。というよりも、型に嵌ったカリキュラムでは天性のセンスを殺してしまう可能性さえある。よって、【対DD戦闘員】は各人オリジナルに調整された個別メニューで訓練される。団体での行動は模擬戦のみで、訓練員全てに専用トレーナーが付き、個人訓練がベースとなる。訓練メニューもその時の状態に合わせてリアルタイムで柔軟に修正されるものだ。
 非効率的で高コストな育成方法だが、その反面、大量規格生産される人材よりも能力自体は遥に高い。それ程までに【対DD戦闘員】の育成に力を入れる理由は、戦闘に適した【 使神 シシン 】を使役できる【神使い】能力者が、他の職種に比べて圧倒的に希少人材だからだ。
 そして対【 眩夢 げんむ 】戦闘において、現時点で唯一決定力のある有効戦力でもある。最先端科学が惜しげもなく投入されている【対G霊葬兵装】は、未だ有効戦力には程遠く、バックアップがせいぜいであるのだ。故に、対【DD】戦闘の要である戦闘系【神使い】能力者は、規律や連携よりスタンドプレーに傾倒しようが、一騎当千を目指して育成される。
 他の職種の基礎訓練期間が一年から二年であるのに対して、【対DD戦闘員】の訓練期間は最短で四年、最長だと実に八年となっている。
 対【 眩夢 げんむ 】戦闘に耐えられるような【神使い】能力者は、そのほとんどが驚異的霊感によって幼少時より周囲から忌避される。彼等は幼少時から【パンドラ】に委託されるケースが大半なのだ。そのお陰で【パンドラ】における【対DD戦闘員】の育成開始時期は、平均で十一歳と早い。そして、約七割の者が試験をパスして、平均十六歳で【対DD戦闘員】として、晴れて現場で実戦デビューする。
 他の職業とは違って、【対DD戦闘員】の活動期はアスリート以上に短い。肉体の全盛期を過ぎて勤まる任務でないのだ。【パンドラ】が戦闘系【神使い】を発見した時期、もしくは戦闘系【神使い】として覚醒した年齢が遅かった為に、育成を諦めて【 使神 シシン 】や霊感を封印するケースも少なくない。対【 眩夢 げんむ 】戦闘は過酷で、身心の負担を考慮して、定年は三十三歳と厳しく規定されている。もっとも生きて定年を迎えることのできる【対DD戦闘員】は一割弱で、残りはほとんど戦死で、死ななくとも精神障害で廃人になるかだ。
 今回、すでに十七歳になっている刀路の、現役戦闘員である緋文を教官にしたOJT(オンザ・ジョブ・トレーニング)による訓練と、【対DD戦闘員】としての新規採用は、慢性的な人手不足に陥っている【パンドラ】にとっては賭けに近かった。
 ゆり子がゆっくりと話し始める。
「……――これまで刀路には【パンドラ】と契約している宿で、一般人から離れて生活してもらっていましたが、次の段階に移ってもいいと判断しました」
「次の段階、ですか」
「ええ。今の彼ならば厳重な監視下に置く必要はなくなった、といえるでしょう。加えて、予定外だった佐倉美月と浅間清香との接触もあります。つまり刀路くんを元の生活環境に戻してみて【パンドラ】の一員として働けるのか――を、ついに見極める時期にきました」
「分かりました。これでわたしも晴れて自宅に戻れるというわけですね」
 ゆり子はニンマリと笑い、山岸は視線を逸らした。
 緋文は嫌な予感に襲われる。
 次に告げられたゆり子の台詞で、緋文は天を仰ぐのを堪えなければならなかった。

 

       

 

 緋文が辞した後、中央ホールは元の二人だけになった。
 ふぅっ、という溜息が大きく余韻した。
「……本当に、これで良かったのかしらね」
 先程とはうって変わった態度で、ゆり子は溜息混じりに傍らの山岸に訊いた。視線や表情にも親密さが見て取れる。
「どういう意味でだ?」
 山岸も気安い口調で訊き返した。
「これは上層部批判じゃなくてあくまで私見だけど、やはり津久茂刀路の【英霊】は封印すべきじゃないのかって意味。例の《バレット》にしても同じ。まあ、彼については【教会】絡みだから仕方が無いけど。でも津久茂刀路に関してはいくら【 使神 シシン 】が強力で封印は惜しいとはいえ、今回ような特例を認めるのは、賢明とは思えないの。確かに、人出不足が深刻な現場としても、人材育成の新しい道を模索する事自体は否定しないわ」
 どう聞いても上層部批判であるが、山岸はあえて指摘せずに聞き流した。ゆり子の口ぶりから察するに、私見というよりも愚痴に近い感覚で喋っているだろう。公私混同だが、彼女の愚痴ならばいくらでも聞いてよい。
「でも……、貴方も彼女の思惑に一枚噛んでいるのを知っていてあえて言うけど、やはり私は彼女のやり方は気に入らない」
 辛うじて組織人としの理性で感情を押さえ込んでいる、という口調だ。
「すまないな。結果的に君から虎の子の戦力である《ブレード》の運用権を、限定される形になってしまった」
 この計画で事実上、《ブレード》の直接的な運用権は《ホークアイ》に移ってしまった。
 彼の手元には『OJTによる対DD戦闘員育成計画』のコピー冊子がある。
 全ての流れは、かなり以前より計画されていたのだ。
「いいのよ、それはね。《ブレード》を事実上、彼女の支配下に入れる事と、紅瀬緋文を縛る現状から解き放つ事が利害として一致した以上しかたないわ。貴方は緋文の育ての父親だもの。納得している。それも彼女の計算内だと思うと、やっぱり癪だけど」
 ゆり子は忌々しげに爪を噛んだ。彼女の癖である。
 山岸は落ち着いた声で言った。
「ただ、僕が彼女の後押しをしなくとも、結果は変わらなかっただろう。それほどに彼女は巧妙かつ大胆、そして迅速に動いた。傍から見ていて見事だった」
「ええ、そうね。なにより彼女の頭脳は一流品だわ。私なんかよりもずっと」
《ホークアイ》こと千璃鏡子が上層部に提出した『OJTによる対DD戦闘員育成計画』という企画・立案自体は、いくら秀逸な物であろうが、二流の頭脳でも作成できる。
 ゆり子が感嘆せざるを得なかったのは、その企画を通す為に数々の方策を講じて、なおかつ大胆に実行に移した点である。これは一流の頭脳でなければ成し得ない芸当だ。
「……とはいっても、人事スカウト部門を敵に回したのは間違いないけどね」
「それだって貴方が裏からフォローしたんでしょう?」
「ああ。彼女の出した企画はそれだけの価値と魅力があった。千璃鏡子は、偶然ではなく狙ったタイミングで計画を動かした。津久茂刀路の存在を知った約一年前から練っていたであろう計画を。彼女は、佐倉美月を通じて協賛企業である佐倉重工㈱から上層部に圧力をかけ、同時に自らの企画書を立案した」
「対案や代案がない状態では、現状では上層部も安易に否定できないものね」
 揚げ足をとって否定するだけならば簡単だが、有用な他の案なしに否定してしまうと、自らの無能無策を政争のライバルたちに吹聴してしまうも同然だからだ。
 加えて、佐倉重工㈱からの圧力も軽視できない。経営者一族の個人的感情を除けば、津久茂刀路は企業が背負った不祥事の中核的存在である。いわば癌だ。戦死に期待しているというのが、佐倉重工㈱上層部の本音だろう。
?ああ。後手に回った上層部は、千璃鏡子の企画を泰然と通さざるを得ない。それに彼女は命を張って津久茂刀路の精神的適性を実証している。自ら監督責任も負う。その覚悟を上も評価しないわけにはいかない」
 審議に要した二日は茶番であった。実際は審議に入る前から勝負は決まっていた。最低限の人脈と資金で、現場の一諜報員が日本支部の上層部に一泡吹かせたのである。今回の案件だけで《ホークアイ》の名は、海外の上層部にも知れる事になる。
「上にいくんでしょうね、彼女。本気で現場から叩き上げるつもりだわ。今回の件だけに収まらず津久茂刀路の育成に成功して実績を作れば、将来に対して大きい布石になる」
「ああ。本当に将来は【パンドラ】のトップに立つ人材かもしれない。少なくとも僕の関東支局長の椅子など、あと五年もしない内に彼女に奪われるだろう」
「それどころか五年経てば、東日本、いえ、日本支部のトップに君臨しているかもね」
 二人は気軽に苦笑し合った。
 山岸は苦笑を戻すと、軽く頭を下げた。
「改めてすまないな、ゆり子。潔く認めるよ。俺は義娘の件で随分と公私混同してしまってる。今更とは判っていても、あの子に普通の子と同じ時間を味あわせたいと願って、この件を利用したのは否定できない。俺も所詮は現場ではなく上層部側の人間だ」
「気にしないでいいわ、真二。あの子は私にとっても、今では娘同然だもの」
 真二、という音にも同種の親しみが在った。
「私は来月のS県合同会議の準備があるから、これで失礼するわね」
「頼む。僕も残りの書類をやっつけるとするよ」

 

       

 

 翌日の早朝。
 場所は刀路の自宅マンションだ。
 あらかじめ引越しの手配を済ませてあったようで、夜が明けようとしている時間帯なのに、刀路が所有するフロアの玄関ロビーには、ダンボール詰めにされている緋文の荷物が引越し業者の手によって運び込まれていた。ちなみに緋文の自宅マンションはもぬけの殻どころか、賃貸に出されており、すでに新しい住人の荷物が運び込まれている始末である。
 総じて、見事な手際であった。
 今日から刀路と緋文は同居人だ。
 引っ越しの手伝いに来ている鏡子が言った。
「――っていうかさ緋文、荷物の整理は私たちがやるから、アンタは仮眠とって一休みしたら、とっとと学校の職員室に顔出ししに行って来なさいよ」
「学校ってどういう事?」
 緋文は怪訝顔になる。そんなの初耳だ。
「アンタさ、学校に行っていないって話じゃない。それどころかずっと通信教育で済ませているらしいけど、これを機会に、残り一年でも、ちゃんと小学校に通いなさいってコト。それに学校に通っている間くらいは、刀路にも【パンドラ】の件を忘れてリフレッシュして欲しいってのもあるし。気分転換って大切なのよ。刀路も聞いている? アンタもこれからはちゃんと毎日高校に通いなさい。これは上司兼監督官としての命令よ」
 刀路は渋々ながら了承したが、緋文は違った。
「必要ないわ。非能率的だもの」
「だ~か~らぁ~、そういう話じゃなくてね、これってば社会勉強をしろっていう局長からの立派な命令なの。め・い・れ・い。ンで仕事なのよ。し・ご・と。おわかり? だいたいねえ効率ばかりに目をやっていると、思考が固くなってイザって時に困るよ?」
 緋文は命令、仕事という単語と強調されて反論の言葉を失った。
「そういえば、鏡子さんはT大生と【パンドラ】のエージェントの二足の草鞋ですね」
 刀路のケツを叩いて荷物整理をさせていた美月が、ふと口を挟んだ。
 同じく手伝いに来ている美月も、運び込まれている段ボールの検品をしている。
「まぁ~~ね~~。あくまで【パンドラ】の仕事って秘密裏な裏稼業だから。兼業で表向きの本業を他にもっているエージェントの方が圧倒的多数よ。研究職や技術者、医療スタッフだって一部の機密機関所属を除けば、ほとんどは資本元の各企業に籍を置いているしね。肩書きはリーマンよリーマン。逆に【パンドラ】専属専業ってなると、NPO法人の事務職員の皮被っている人と、専属警備会社って体裁をとっている対G兵士の皆さんと、あとトップの人たちは国連職員の派遣って名目かな。ほら【パンドラ】って日本の国家機関じゃないから、構成員の社会的身分を公務員扱いで誤魔化せないのよ。その辺は旧陰陽寮の連中の方が楽でいいわね。ま、あの連中はあの連中で最悪だったけど」
「……別に学校に通わなくとも社会規範の習得くらいは問題ないわよ。これまでだって問題なく周囲に迎合できていたわ」
 緋文の台詞に込められている自信に、鏡子が容赦なく突っ込んだ。
「いや全然うまくいっていないと思うけど。なにを根拠にアンタそう思っているの? なんかこう、緋文には普通の若者らしさが欠けているっていうか、仮に来年の春から学校制服を着ていても全く女子中学生に見えないって、実際は」
 NGを断言されて、緋文も流石に怯んだ。
 悔しげに首を振ると、白旗をあげる。
「将来なんてどうでもいいけど、どの道、命令なら拒否できないし、学校には通うわよ」
「じゃ納得してもらったところで、朝になったらこれを着て学校に必要書類を届けるのと挨拶に向かってね」
 鏡子が差し出した真新しい制服を見て、美月が驚いた。
「あれ、それって名門お嬢様校の私立洸蘭女子学園小等部の物じゃない?」
 目敏い美月の言葉に、鏡子は嬉しそうにその制服を見せびらかす。
「そ。洸蘭女子の小等部六年に編入してもらうのよ。あ、なによその目は。誤解しないで。お嬢様学校に入れようとか仕込んだんじゃなくて、単純に私立の方が寄付金次第で融通が利くって理由よ。っていうか、私に緋文の学校を選ぶ権利なんて無いし。あくまで義娘 むすめ 想いのお義父とう様のご意向だから」
「くっ。なにがお義父とう様だ。あの男、わたしを嵌めたな」
 緋文は悔しさに歯ぎしりした。

 

 午前十時半。
 緋文が洸蘭女子学園に向かってから、僅か三十分後であった。
 鏡子のスマートフォンに、洸蘭女子小等部の職員室から電話着信がきた。
 通話に応じ、電話口からの言葉に耳を傾けている内に、鏡子の表情に苦笑が浮かぶ。
「どうしたんだ、鏡子さん? アイツ、なにか問題起こしたのか?」
 美月はすでに登校していたが、刀路は終わらない荷物整理の為に残っていた。
 鏡子は額に手を当てて天を仰ぐ。
「あのバカ。学校にバイクで行ったんだって」

 

       

 

 その日の夕食。
 メニューはデリバリーであったが、鏡子の奢りでそれなりに豪勢であった。
 緋文の歓迎会という名目であったが、食事を終えると美月はすぐにマンションから出た。
 実家に用事があるという口実は嘘である。
 佐倉家からの送迎車の後部座席に身を沈めている美月は、これまでにない後ろめたさを味わっていた。
 緋文の事が頭から離れない。
 どうしても彼女を亡きひふみと重ねてしまう。
(フォークとスプーンの持ち方、一緒だった)
 本当に彼女は別人なのだろうか?
 錯覚とは分かっているのだが、それでも疑ってしまう。一卵性双生児でもないのに、あそこまで顔の造形が一致する事があるのだろうか。加えて名前の音が同じ。
 一二三と緋文。
 共に過去は謎に包まれている。ひょっとしたら両者のDNAは完全に一致するかもしれない。まさかクローン。あるいは生まれ変わり。そんな考えに囚われる自分は、やはり……
 瞼にこびり付いて離れない。
 緋文の仮面が割れて、その素顔に刀路が魅入られている様子が。
 あまりに運命的で、美月も心を奪われていた。
 丘の上で刀路とひふみが結ばれた時を思い出してしまう。思い出したくないのに。
 あの時も美月は離れて見ているだけだった。
「このままじゃ、あたしは――」
 美月は窓ガラスにうっすらと映っている自分の顔を見て、苦笑した。
 なんて汚くて醜い貌だろうか、と。
 そう。この貌はきっと、あの【 眩夢 げんむ 】――『首吊り女』よりも醜悪に違いない。

 

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ここまでの解説

この章は、ラストに向けての筆休めに近い。

全体のテンポを考えても、実にあっさり風味だ。

尺を考えないのならば、主人公が姿を消している期間と事件を長くとっても問題ないのであるが、新人賞だとそうもいっていられないのだ。扱えるイベント数(山と谷)は文字数(頁)的に限られているので、取捨選択する必要がある。

下地作りを前章までで済ませており、ここからやっと主人公とヒロインを中心とした(霊能バトル系としての)ストーリー運びとなっていく。

この2名+事実上の真ヒロインといえる幼馴染(の思惑)が、どう絡んでクライマックス(の事件)へ突入していくのか。加えて、プロローグへと繋がっていくのかを、次章を想像しながら待っていてくれればと思う。

 

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