僕は【戯れ記事《ゴト》遣い】

「戯れ言遣い」ならぬ「戯れ記事遣い」を名乗るブロガーです。 雑記系ですが、読んで損したと憤慨されても困ります。 だってコレは「戯れ言」だから――

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【実際に通過作で解説】戯れ言――ラノベ新人賞の一次通過のコツについて【第4回】

【実際に通過作で解説】戯れ言――ラノベ新人賞の一次通過のコツについて【第4回】

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さあ、戯れ言 記事 ゴト を始めようか――

 

 

前の第3回については、下のリンクを参照ねがいたい。

多忙というか、なかなか時間が取れずに、現在はこのサブブログの更新を放置しがちである。むろん時間さえあればバリバリ更新したいし、その時間を工夫して捻出するというのが、目下、最大の課題である。

気が付いている方は気が付いているだろうが、『モバイル・ファースト』というか、スマホの5インチ画面で見やすくしようと、細かい調整を加えたりもしていた。サイトマップとかボクシング関連(対戦結果など)の記事とか。スマホ5インチだと想定外にレイアウトが崩れるので、その辺を改善した――つもり。5インチよりも小さい画面でのレイアウトは不明。小さいスマホで崩れたら、それはそれで仕方がないし、昨今のスマホは5インチ以上やタブレットが主流なので、それをメインに適切なレイアウトできればと。

なにしろサーチコンソールから「クローラがモバイルメインに切り替わりました」と通知を受け取ったのだ。今後はよりモバイル(スマホ)を意識せざるを得ない。

で、ようやく本編の第三章を公開しよう。

前回から脱落せずに残っている読者は、本当に極僅かだと思うが。

けれど、メインブログの『エガオノダイカ』レビュー記事も同じであるが、需要がないからといって安易に企画打ち切りをしては、短期的なPVは獲得しやすいが、長期的にみると読者さんも不人気記事の打ち切りを懸念して、結果としてブログそのものを信用しなくなってしまうだろうし。

◆合わせて読みたい◆

第三章 使神(BLADE)

 

       

 

 津久茂 刀路 つくも とうじには、幽霊が視えている。
 生まれつきの現象ではなく、約二年前から『視える』ようになった。
 現に、今も幽霊が傍にいる。
 眼前には一人の少女が漂っている。中学生くらいの女の子の霊だ。
 彼女に表情はなかった。
 目鼻立ちの造形が整っている為に、霊というよりは人形めいている。
 ベッドに横臥している刀路は、自分と向き合っている少女の霊へ手を伸ばした。
 しかし、触れる事はできない。
 意思の疎通もできない。
 暗く淀んだ表情のまま、刀路は伸ばした手を引っ込めた。
 部屋が窓から差し込んでくる太陽の光で、ゆっくりと明るくなっていく。
 それでも幽霊は消えない。
 ベッドとタンス、そしてトレーニング器具しかない実用一点張りの殺風景の中で、異彩を放つ物がひとつだけあった。部屋の隅には、ボロボロの竹刀に添えられるように置かれた拳大の台座に、銀色の指輪が乗っている。
 刀路は幽霊少女から、その銀色の指輪へ視線を移した。心が――冷えていく。
「……学校に行くか」
 気だるげな独り言を残し、刀路はベッドから身を起こすと、所属学年を示すツーラインが入った詰め襟の学生服を羽織り、ぺしゃんこの学生鞄を脇に挟むと、自宅マンションの殺風景な寝室から出発する。
 背後に、幽霊少女 ひふみが付いてきているのは、察していた。

 

       

 

 昼休みが終わる直前の教室での事だった。
 午後一になる授業は物理で、生徒の大半が自分の席に大人しくついていた。開始のチャイムが鳴った時に、整然と着席していないと先生が五月蠅いからだ。
「なぁーなぁー、ええやろ美月ちゃん」
 佐々木 憲太 ささき けんたはなんとか佐倉 美月 さくら みつきの気を引こうと、執拗に食い下がっている。
 美人で颯爽としている上、大企業の社長令嬢である美月は、とにかく男子にもてる。彼女の勝ち気さが同性に敬遠される事はあっても、異性には評判が良かった。
「だからっ。悪いけど気が乗らないの」
 最初の内はなるべく角が立たないように愛想良く断っていた美月だったが、つい語気が荒くなった。しつこい男は嫌いだ。
 愛しの美月に冷たくされて、深刻に傷付いた表情になる憲太。
 黙って遠巻きから眺めていた清香が、憲太の惨状を見かねて声をかける。
「そんなに嫌がんなくてもいいじゃない。別に二人きりのデートってワケじゃないし、みんなだって参加するんだしさ。私だって行くわよ。アンタも少しくらい顔を出しなさいよ。いってみれば非公式のクラス行事でしょ、これって」
 美月は辟易する。また清香か。お互いに公然と反目し合っているのだから、そのまま距離を置いておくべきだろうに。なのに彼女は常に自分に突っかかってくる。面倒くさい。
 予想外の助け船に、憲太は生気を吹き返して便乗する。
「そーそー。お願いや美月ちゃん。幹事の顔を立てると思って。この通りや!」
「頭を下げられても……、悪いけれど本当に苦手なのよ、そういうの。それにあの建物って以前は墓地だったそうじゃない。幽霊の噂とかもあるし」
「そや、だからこそ肝試しには絶好のロケーションやないか!」
「なにが絶好よ」
 不愉快そうに顔を顰める美月に、清香がニヤリと笑った。
「ふぅ~ん。佐倉美月お嬢様ともあろうお方が、作り物の幽霊が恐いんだ? そんなんじゃ仮に『本物』見たらどうなる事やら」
「はぁ!? 本物?」
「そ。仮に、の話だけどね」
 含みを込めたアクセントだった。それとなしに優越感も垣間見える。
 美月は眉根を顰めて、相手にしなかった。
「バカバカしい。なにが本物よ」
 だが一笑に伏されても、清香はさらに余裕と自信を深めたような笑みになる。
「まあ、アンタには理解できない世界よ。知らなくってもいいわ。でも参加くらいはしなさいよ。昔と違ってセレブ方面の用事だってないんだから、時間くらいは作れるでしょ」
「……トージの面倒見なきゃならないのよ。今日は部屋の掃除をする予定なの」
 今日も刀路は早退していた。必要最低限の出席日数の確保が終わると、すぐに帰ってしまう。普段ならそれで決着がつく。まさに水戸黄門の印籠のはずであった。
 しかし、今回は違った。
「それだったら、私がやるって」
「はぁ!?」と、思わず美月は自分の耳を疑った。
「なんて顔してんのよ。なによアンタ、ひょっとして刀路の面倒見るのは自分にしかできない仕事だって思ってんの? うっわ、イタタタタタ」
 思いもしなかった反撃 カウンターに、美月はやや気圧され始める。
「そ、そういうワケじゃないけどトージは嫌がるでしょ。他人が部屋に踏み込むのを。だから、あたしが仕方なくやっているってだけで」
 その言葉尻を、清香は逃さない。
「え、仕方なくやっているんだ? だったらもう無理してやんなくても結構よ。私がアンタの代わりに刀路の面倒を全部見るから。自分から進んで喜んでね。刀路にもそう伝えといてあげる。なんだったら今からスマホで。掃除とか料理も私が一人でやるわよ」
「アンタさっきからナニ勝手な事を言ってんのよ? ひょっとして喧嘩売っているの?」
 執拗な挑発に美月の顔付きが険しくなり、一切の余裕が消えた。
 そんな美月の反応に怯むどころか、清香はさも愉快といったように口角を上げる。
「喧嘩だったらとっくの昔っから売り続けているっての。ようやく買ってくれたってワケね。その顔、拝みたかったわ。お金持ちで美人で人気者の美月お嬢様は、怒り顔もそれはそれは美人でございますね」
 ぐっ、と拳を握る美月を見て、笑みを深める清香。
「ダメダメ。その握り方は間違いだって。優等生で博識なのに拳の作り方も知らないのですか、お嬢様? あと肩だけでなく全身に無駄な力が入り過ぎでございますわ、お嬢様。殴りかかってきても構いませんけれど、ボクサーの私にはお嬢様パンチなんて掠りもしませんコトよ? おほほほ、なんちゃって」
 血が滲むほど唇を噛む美月であったが、握っていた拳は力なくほどいた。
 いつの間にか二人は教室中の耳目を集めていた。緊迫感に溢れた『対決』であったが、もはや肝心のクラス行事への参加については、会話の焦点から消えていた。いや、実質的には最初からソレは、清香が美月に口撃する口実に過ぎなかったが。
 仲裁はない。みな興味深々である。
 共にクラスの中心人物である二人の不仲は、学年内でも公然どころか著名であったが、ここまで旗色の悪い美月の形勢というのは、実は初めてであった。
 ついでに、二人の少女の傍で所在なさげに立ち尽くしている憲太が、密かにクラスメート達の同情を買っていた。たとえ明らかな片想いにしても、あんまりな扱いである。
 美月は懸命に体裁を取り繕おうと、強引に会話を切り上げようとした。
「……ま、部外者のアンタがトージのマンションに押しかけても、追い返されるだけよ」
「と、思っている?」
 即座の否定に美月はギクリとし、対照的に余裕を微塵も崩さない清香。
「じゃぁ~ん」
 彼女は得意気な仕草で、一枚の保険証大のクリアカードを、美月の眼前に突きつけた。
「なっ!? それって!」
「そうよ。アンタが持っているのと同じ、セキュリティの認証パスカード」
 美月は絶句したまま固まった。どう見ても偽造品ではない。
「そういうコトだから。疑うんだったら刀路に直接確かめるといいわ。ま、惨めさと敗北感が倍層するだけだと思うけど」
 美月は一瞬だけ火の出るような目で清香を強烈に睥睨したが、すぐに視線を伏せ、無言のまま踵を返して教室から出て行った。すさまじい勢いでドアが閉められ、バン、という音が教室に響いた。その残響に清香の高らかな笑い声が被さった。
「あはははっ! 逃げた逃げたっ。私の勝ちぃっ! 祝初勝利っ!! ザマーミロ!」
 誇らしげな清香の高笑いに、教室中が凍りついたように静まり返る。総じてドン引きというやつだ。あまりの展開に、憲太は美月を追えなかった。
 一部始終を見ていた男子生徒の一人が「女ってコエー」と、頬を引き攣らせた。聞きとがめた隣の女子が「みんながみんな、ああじゃないって」と小声で言い返した。
 ドアの外では、物理教師の橘が困り顔で立ち尽くしていた。

 

       

 

 刀路は家庭教師である千璃 鏡子 せんり きょうこ の指導で、来月頭にあるテスト対策を練っていた。
「――ンじゃあ、切りのいいところで少し休憩にしましょうか。十五分ね」
「はい」
「おっかしっ。おっかしっ。今日は何かな、かな?」
 休憩はリビングでのティータイムだ。
 鏡子はスキップしながら、断りもなく台所へとお茶菓子を物色しに行く。勝手知ったる我が家感覚だ。刀路は間食はしないが、お茶菓子は美月が用意してある筈。
 ぽぉーーん。意外な時間にチャイムが鳴った。
 刀路は怪訝に思う。美月来るのは学校が終わってからのはずだ。面倒くさいが防犯カメラの映像を確認しようと渋々腰を浮かせた――が。
「こんにちわっ、調子はどう? 刀路」
 セキュリティと施錠が解除されて、美月ばかりか清香まで部屋に入ってきた。
 二人が一緒に来るとは予想外だ。
 不機嫌そうな美月とは対照的に、清香は輝く笑顔で上機嫌である。

 

「聞いたわよ~~刀路。アンタ清香ちゃんにつきまとっていた危ないストーカーを撃退したんだってね。やるじゃん世義の味方」
「浅間」
「余計な事は一切喋っていないってば。私と刀路だけの大切な秘密だもんね」
「おい。そういう表現は誤解を招くからよせよ」
「あ、誤解なら大歓迎だから平気平気」
 刀路は肩を落として嘆息した。普段からそうい性質の悪いう冗談ばかり言うから、なにかと美月と衝突するのだ。美月にはその手の冗談は通じないのに。
 鏡子はニタニタといやらしい笑みではやし立てた。
「よっ! 憎いねこのモテ男! イケメン野郎!」
「勘弁してくれ、鏡子さん……」
「えー、実は私も刀路を真剣に愛しちゃっているというのに!!」
「あはははははっ。じゃあ鏡子さんも私のライバルだったりします?」
「もち最強の恋敵と書いて『とも』だよっ」
 楽しげに笑い合う女二人を見て、刀路は頭を抱えたくなった。なんなんだこのノリは。
 そんな刀路に対して、鏡子は一転真面目な表情になって、リビングを見回す。
「――あれ? 美月は?」
 刀路は疲れた表情で答える。
「すぐに帰っちまったよ。どうしてか怒り心頭で。理解不能だよ、ったく」
 掃除していくはずだったのに、マシンガンの様に文句だけ言って帰ってしまった。
 すると清香がすかさず立ち上がる。
「それだったら、私が一人で洗濯をするわね。今日、クリーニングの日なんでしょ」
 清香は洗濯物の整理を始める。
 鏡子もテキストを開き、刀路に手招きした。
「じゃあ、刀路も休憩は終わりにして、続きを始めましょうか。頑張ってくれている清香ちゃんに負けてられないよ」
 勉強再開に異存はない。予定箇所までは消化したい。
 刀路が自室の勉強机に着くと、鏡子が言ってきた。
「ねえ、清香ちゃんに聞いたんだけどさ」
「ストーカー退治ならノーコメント」
「そうじゃなくて。アンタって最近ちょっと度を越して根詰めすぎよ。だからさ、明日の肝試し大会に参加しなさい。必要な気分転換よ。これは先生としての命令です」
「はあ!? 肝試しぃ?」
「そ。清香ちゃんのクラスの佐々木くんって男子が企画したイベントだってさ」
 参加しなきゃ家庭教師を辞めるから、と鏡子は笑顔で釘を刺す。
 今夜の予定は変更か、と刀路は苦々しく思った。

 

       

 

  ほぉー、ほぉー、と遠くから梟の鳴き声が聞こえてくる。
 少女が二人、夜の廃墟へ歩を進めていた。
 二十歳前のモデルめいた少女と、十代前半から半ばといった小柄な少女である。
 車やバイクは使用しない。特に意味はなく、単にミッション開始まで時間が余ったからだ。だが、こういった夜の散歩もまた乙なものだ。
 メガネをかけている大人びた少女が、黒髪ロングの少女に問いかける。
「ねえ、どう思う? ベストシーズン前の肝試し大会。アンタ参加したい?」
「主旨はなんなのかしらね。激しく疑問だわ」
 黒髪ロングの反応は素っ気なかった。
「答えなさいってば。ベストの時期を外したのは、たぶん警備体制の問題ね。正式に取り壊し時期が決定して、住み着いていた不法滞在者をみんな退去させたそうだから。意外にちゃんと安全面は抜かりないみたい。高校生の自主イベントにしては、だけど」
 幽霊の噂は、不法滞在者が侵入者を防ぐ為に流したもので実質的な霊障もない。普通に肝試しをやる分には安全な元墓地だ。とはいっても、土地と建物の管理権保有者に対して無届なので、立派な犯罪行為だったりする。
「肝試しっていうよりも、実質は廃墟探索なんでしょうね。その場のノリ的な」
「実質もなにも。男女ペア参加でのその手のイベントでの狙いなんて一つでしょうが。ひょっとしたら吊橋効果も狙ってるかも」
「低俗」
 一言をもって斬り捨てた黒髪の少女に、メガネの少女は苦笑した。
「それが答えですか。あらら。らしいわね~~」
「余計なお世話よ《ホークアイ》」
 つれない相手に、《ホークアイ》は話題を変えた。
「そうそう。そういや悪かったわね。S県からとんぼ返りした直後に私の仕事に就いてもらって。あ、生意気なメスガキだったでしょ《トレーサー》のヤツ。レズっぽいし、ムカついたでしょ? 顔面変形するまで凹ってやりたくなったっしょ? 【神使い】としては最低レヴェルで喧嘩弱っちいくせに生意気なんだよね、アイツ。インテリ気取りってヤツ?」
「悪名高き《ホークアイ》に比べれば全然可愛いモノだったわよ。優秀だったし」
「いやぁ、そんなに誉められても」
「……誉めてないわ」
「そんな半白眼で睨まないで。可愛いジョークじゃないの。――そういやS県といえば、今度の合同部隊長会議の場所じゃない? 我等が【パイペリオン】のゆり子隊長殿はご自慢のアンタの最新戦闘データを披露するってやる気満々じゃん。査定にも影響大だしね。私にも資料作成を手伝えってさ。ンなの専属技術スタッフだけにやらせとけよって思わない? バカ高い給料で契約してんだし。確かに私も【耐Gスーツ】を特別カスタムしてもらってるけどさぁ。でも私だってクソ忙しいんだっつの。そこんとこ分かれよなぁ」
「わたしに愚痴らないでよ。しかも下品に。でも確かに《 紅蓮神威 ぐれんかむい )}}》を本部から持ち出されるのは、嫌といえば嫌ね」
 もっとも神刀《 紅蓮神威 ぐれんかむい )}}》は《ブレード》――緋文 ひふみの個人所有物ではない。彼女の師匠が正統な持ち主だ。今は師範代の緋文だが、免許皆伝の暁には正式に譲渡される約束である。
 その前に、彼女は真の意味で《 紅蓮神威 ぐれんかむい )}}》との契約に成功しなければならない。
「アレ無いといざっって時に困るよね。いや、アレ使う必要の事態の方が困るけど。ま、それよりも今回の仕事だわね。一応訊くけど、資料にはちゃんと目を通してくれた?」
「ええ。何も思うところなんてないわ。一切合財なにも、ね」
 緋文の冷たい無表情が、微かに歪んだ。
 これ以上は触れるな、と無言で云っている。
「りょ~かい。そゆコトにしておく」
《ホークアイ》の表情は普段通りに飄々としたものだ。ただ、口元のニヒルさが増した。
 そうこう会話している内に、目的地の廃墟が見えてきた。
 ニヤッと口元を吊り上げる。
「じゃあ、廃墟に出現する凶悪な【 眩夢 げんむ 】退治と、夜と散歩に洒落込みましょうか!」
 アンタにとっちゃ雑魚だから気楽にね、と付け加えた。

 

       

 

 すでに肝試しは始まっていた。
 そんな中、ある男女のペアが険悪な空気で進んでいく。
 肝試しなのにまるっきり恐がっている雰囲気はなく、投げやりな感じでダレている。
 理由はお互いのパートナーだ。
 厳選でも公正でもないはずのクジ引き抽選の結果に、男子生徒は首を傾げていた。
 そして、彼とペアになった女子生徒は、不満を隠そうともしなかった。
 先ほどから苛立だしげに文句と愚痴と恨み言のオンパレードだ。
「あのさ。せっかく美月を引きずり出してあげたってのに、なぁ~んでクジの細工に失敗すかな。アンタはともかくどーして私と刀路を一緒にできないのかな? しかもアンタと一緒って……。これって立派に恩を仇で返しているよね?」
「悪い浅間。海より深く反省しとるわ。ホンマに済まなかった。けど、なんでしくったんやろか? 仕込みは万全だったのになぁ」
 ちなみに廃墟の中は入念に下見しているので、まるで恐くなかった。

 

 刀路は不吉なモノ――霊体の気配を感じ取っていた。
 不吉な感覚だ。敵意といっていい。
(さっきの霊? いや、違うか?)
 実は、ペアを決めるクジ引きの時にも、霊的な力の介入を感じ取っていた。しかし、あの時の感覚はもっと違った。もっと温かい、見守るような、懐かしい感覚……
 まるで傍に寄り添っているひふみの霊が手を出したような。
 だが、どうせ霊的な意志が介入するのなら、美月よりも刀路の秘密を知っている清香とペアにして欲しかった。美月を巻き込むような事態は避けたいのだが、このままでは――
 迷うまでもない。刀路は美月を上手く言いくるめて、肝試しからリタイアしてもらう事にした。絶対に美月だけは巻き込みたくない。
「あ~あ、どーしてあたし、来たくもない肝試しに、しかも乗り気でないトージと参加してるんだろ。どうせなら、幹事の佐々木君とペアの方がマシだったわ」
 あてつけのように美月がぼやく。あからさまに不満げだ。マンションでの一件から、彼女の不機嫌は継続している。困った事に、素直に言う事を聞くようには見えない。
「な、なあ、美月」
「トージもあたしとペアよりも浅間と一緒だった方が楽しいでしょ? ね?」
「そ、そりゃ」
「へえっ! やっぱりね!! そう! 分かったわよ! じゃ、お一人でどうぞッ!!」
 激昂した美月は喚くように言い捨てると、刀路を置いて大股で進んでいく。
「お、おい! 待てってば」
(また逆ギレかよ……)
 しかも美月が進んでいく方向はマズイ。最悪の展開といっていい。
 歩く道に危険はない。廃墟とはいえ、そう荒れている建物ではなかった。
 美月が向かっているのは、霊的気配が増していく方向だ。しかも良くない類の。
 どうせ勝手に一人で行ってしまうのなら、正規のルートを行って欲しかった。そうすれば巻き込むことなく済んだのに。
(仕方がない。臨機応変で当たるか)
 それに、こうなった以上は美月を一人にするのは危険だ。今からでも引き返させるのがベストであるが、そうもいっていられない。最悪、秘密を知られても――美月は護る。
「ちょっとぉ!! 付いて来ないでよ!」
「お前を一人にできるワケないだろ」
「なによ今さら! 困った時や必要な時だけ甘い事いってさ! このバカっ」
「なあ? いい加減にそろそろ教えてくれないか? 昨日からお前はどうしてそんなに怒っているんだよ? 浅間となにかあったのなら、俺が仲裁してやるから」
「怒ってなんかいないわよ!! ばかぁっ!」
 会話しても火に油を注ぐだけである。
 やはり意志の疎通は無理のようだ。こちらは理性的に対応しようと努力しているのに。

 

       

 

「――あれ? 先に進んでいた美月の声がいきなり消えた?」
 刀路たちのすぐ後ろを進んでいたペアの女子生徒が怪訝そうに言った。
 相方の男子生徒も相槌を打った。
「そうだな。足音も完全に消えたな」
「まさか……神隠し、とか?」
 そんな不安そうな言葉を、男子生徒は笑い飛ばす。
「いやいやいや。あいつ等って事実上同棲しているようなもんじゃん? きっと普段とは違うシチュエーションにその気になっちまって隠れてヤルつもりなんだろ。絶対あいつ等って普段からヤッてるし」
「やだぁー、もう、えっちぃー」
 ケラケラと笑う。悪くない女子生徒の反応に、男子生徒は思い切って誘った。
「なんだったら俺たちも……その、どう?」
「ゴメンナサイ」
 即答で拒否された。ドサクサ紛れの誘いはあえなく不発に終わる。
 同時に、一年以上の片想いも幕を下ろした。

 

       

 

 いきなり場の空気が変化した。
 景色は変わらない。しかし、別の場所に迷い込んだ、という感覚である。
(なんだ? この妙な感じは)
 例えるのならば、透明な氷の檻に閉じ込められた――そんな感覚に襲われた。
 美月を見る。彼女は異変を察知していない。
 しかし、これは知っている感覚とは違う。この時点で、すでに引き返すという選択肢は消えている、と自覚した。もう今から戻ろうと試みても無駄だろう。
 突然だ。ぬうっ――と、正面に真っ白い人影が現れる。
 同時に、場を不気味に満たしている霊的な圧力が一気に増大した。
 輪郭がぼやけて姿は判然としない。形容するのならば、まさしく白い幽霊。
 ――人魂だ。
 左胸に位置する人魂を心臓にして、あやふやな人体モドキを形成している霊体である。
「きゃぁああああああッ!」
 美月が悲鳴をあげた。その悲鳴で刀路は、美月にもアレが視えている事を理解する。
 それほど霊感が鋭くない美月にさえ視えるという事は、閉じ込められた時の奇妙な感覚とは違い、アレはそれ程に強力な霊体なのか。
 全身から口のような裂け目が顕れて、くけケけケケけけけケ。
 声とは違う笑い声が、不気味に響く。
 ゆらゆらと浮遊している幽霊――悪霊は、ふらりと二人に向かって飛来してきた。
「くそっ!」
 すぐに気持ちを切り替え、戦闘態勢を整える刀路。
 腰を抜かしかけている美月を強引に退かして、刀路は幽霊の胴体を左拳で殴りつける。
 手応えがあった。よし、いける!
 好機だと判断し、両手で悪霊の胴体を掴まえる。
 すかさず右掌を左甲の上に添えて、悪霊の頭部を鷲掴みにすると叫ぶ。
「ぉぉおおおおぉおおっ! 燃えろッ!!」
 ゴォォッ!! と凶暴に唸る赤色が爆発的に煌く。
 最大出力だ。一気にケリを着ける。握り潰すかのように、霊的炎を顕現させて爆砕させた。
(やったか!?)
 くケけけケけけケケけっ!
 耳障りな笑い声は止まない。頭部を失った悪霊はなおも哂う。笑う笑う笑う――

 

    くケけけケけけケケけっ!
   くケけけケけけケケけっ!
        くケけけケけけケケけっ!

 

 正気を失いそうな笑いの共鳴。
「いやぁぁあああっ! トージ、逃げてっ」
 耳を押さえて美月が叫ぶ。しかしその声も、悪霊の笑いの群に掻き消されてしまった。
(ちぃ。頭部じゃダメか?)
 ならば何処が悪霊の核なのか。歯軋りして刀路は一旦後方に飛ぶ。
 しかし一瞬で爆破された頭部を再生させた悪霊は、刀路を逃がさない。炎の剣を出す事を許さない。滑る様に間を詰め、刀路に覆い被さった。そのまま捕獲されてしまう。
 刀路は動きを封じられる。
 無数の針で突き刺されるような鋭い痛みの大群が、絶え間なく刀路を襲った。
 神経が焼き切られるようだ。一瞬で視界が暗転。虚無へと意識を持っていかれそうになる。


「トージ! 逃げてっ!!」


 美月の声が前方から聞こえる。
(前、から、だと?)
 回復した視界には、両手を広げて刀路を庇おうとしている美月の背中。
 最悪だ。これならばいっそパニックに陥って、腰を抜かしていたままの方がマシである。
(逃げろっ。とにかく逃げてくれ美月)
 いつの間にか幽霊は刀路を解放していた。
 けれど、両者の間に割って入った美月に、今にも悪霊が襲いかかろうとしている。しかし美月は逃げない。その背中から伝わってくる意思は、ただ必死な気持ちだけ。
 自分を逃がすために。逃げるべきは、美月なのに。
 どうして。恐くないのか? 普通は恐いし逃げる。本能に負けて逃げるはずだ。
 頼むから逃げてくれ。こんなのは嘘だと思いたい。
 網膜が意識に投影する景色は、現実だ。
 フラッシュバックするひふみの――死。
 今度は――美月を喪う?
 また一番大切なモノを? 二度までも一番大切な人を?
 いや。昔からずっと本当に一番なのは――
 そんなバカな。それでは何の為のチカラだというのだ。
 この霊的能力に目覚めたのは――失敗を繰り返さない為だろうが!
(俺はもう二度と失わない! 二度と!)
 その為のチカラだ!! 刀路を巡る霊力が爆発的に循環した。
 身体能力を限界まで増加させる。制御し切れない。だが、多少自身の運動機能と筋力に振り回されても構わない。ほとんど瞬間移動のような超速度で、美月の正面に回り込む。
 敵が眼前に迫る。
 だが、今の刀路にはまるでスローモーションのように映った。
 刀路は左腕を振り上げた。その軌跡上に炎の波が発生し、波が悪霊を真っ二つに裂いた。
 けれど、悪霊は左右に裂かれた身体を、元の一つに繋げる。まだ終わりではない。
(頭がダメだというのなら――)
 炎の波の残滓が膨れあがり、長大な炎の剣と化す。
 その紅き剣を掴み、大上段に構えた。視える。あそこが急所――霊核 コアに違いない。
 心臓部で輝いている人魂だ。
「ぶった斬れろぉ!!」
 刀路は炎の斬撃を渾身の力で振り下ろし、悪霊の霊格を斬り砕く。
 ずぅあぉぉぅうううううううッ!!
 あれほど哂っていた全身の口から一声の断末魔すら赦されずに、悪霊は焼け朽ちた。

 

       

 

 美月は呆然と刀路の背中を見ていた。
 危機が去ったのは解る。だが、それ以外は全く理解が追いついていない。いや、頭が上手く働かない。あまりに現実離れしていて、受け付けられないのだ。
 ふいに清香の言葉が耳朶に蘇った。

 

 ――〝ふぅ~ん。佐倉美月お嬢様ともあろうお方が、作り物の幽霊が恐いんだ? そんなんじゃ仮に『本物』見たらどうなる事やら〟――

 

 そうか、と合点がいった。
 あの時は笑い飛ばすしかなかったが、清香は刀路のこの事を知っていたのだ。知っていたから、急激に彼に近づけた。だから刀路は清香を受け入れていたのである。
 けれど刀路はどうしたというの? 炎を操って悪霊を退治した? 本物の幽霊を?
「……大丈夫か、美月。どこも怪我していないか?」
 それは初めて聞く様な、優しい声音。
 美月の胸に熱いモノがこみ上げてきた。
 まだ笑顔ではないけれども、ああ、本当にこんな優しい刀路は何年ぶりだろう――
 二年前から、刀路は笑わなくなった。いつかまた、一度でいいから刀路の笑顔が見たい。
 もう一度だけでも、刀路の笑顔を。
「――うん。平気。大丈夫よ」
 美月はしっかりと頷き返した。自然に柔らかい笑みがこぼれる。
「ありがとう」
「礼はいらない。お前が無事なら俺はそれだけでいい」

 

       

 

 ――ぱちぱちぱちぱち。
「いやぁ。お見事だったよ。なかなかやるね、刀路」
 乾いた拍手と共に姿を見せた人物を見て、刀路と美月は揃って驚いた。
 美月から混乱に震える声が漏れる。
「きょ、鏡子さん? ど、どうしてこんなところに鏡子さんが?」
 拍手する女は、千璃鏡子であった。
 刀路は再び背中に美月を庇いながら、不審の眼差しを鏡子に向ける。
「ちょっと待てよ。どうして鏡子さんは此処にいられるんだ? 此処は霊的な力場が働いている特別な空間のはずだぜ」
 経験上、分かっているが、普通の人間には侵入不可能のはずだ。
「偶然迷い込んだって言えば信じる? だって、それをいったらアンタ達だって偶然迷い込んだんでしょう? この【結界】の中に」
 いつもの笑みを崩さずに鏡子は言った。【結界】という特殊な単語を。平然と。
「偶然出くわしたどころか……この【結界】とやらも、さっきの幽霊もアンタの仕業か」
 そう考えれば、簡単かつ単純に全ての辻褄が合う。偶然なんていう概念は現在の状況に対して必要ない。全ては何者かに、いや、鏡子に仕組まれていた。
「美月。どうやら鏡子さんは――敵だ」
 その断言に、美月は信じられないという表情で、刀路と鏡子を交互に見た。
 険しさを深める刀路とは対照的に、鏡子は普段通りに飄々としている。
「敵、ね。まあ確かに今のままのアンタだったら敵で間違いないわね。しっかしホントにシロかクロかで一次元的にしか物事を解釈できない、今時の視野の狭いガキねぇ」
「アンタ、何者だ?」
「専門用語で【神使い】――簡単に言えば、刀路と同じ系統の霊能者よ。ちなみにさっきの幽霊モドキは元同僚に都合してもらった【式神】で私の能力じゃないわ。苦手なのよねぇ、【式神】の生成は。あ、ここに張ってある【結界】は借り物じゃなくて私の自前だから」
 鏡子の口から、日常では耳にしない特殊な専門用語が、次々と出てくる。
「元同僚? 結界?」
「そ。外からの干渉を可能な限り受けないようにね。目くらましみたいな誤魔化しで、空間ごと独立させているわけじゃないから、霊感の強い人間には効果が薄いけど」
「何の為にだよ」
「そりゃもちろん、秘密裏に事を運ぶのには必須のスキルなんだよね。だから私たち諜報捜査員は必修しているワケ。一口に結界と括っていても西洋魔術的なヤツと東洋法術系じゃ原理はまるで別モノだけど、結果として効果が同じならオッケーってね。あ、私の【結界術】は東洋系っていうか、いわゆる陰陽道の亜種で『術式』って呼ばれている」
 学校の試験には出ないけれども理解できた? と鏡子がニヒルに目を眇める。
 だが刀路には【結界】の種類や術式などよりも、違った点が気になった。
「その口ぶりだと、アンタは個人で動いているんじゃないな」
「うん。別に隠すつもりもないわ。私達は組織だって動いているの。そしてその組織は秘密裏に動くのが原則となっている。だから【結界】を張って待ち伏せてたワケであって」
「組織。あんた今、組織って言ったな?」
「ええ、そうよ。っていうかさ、逆に訊くけど、組織なしで個人のみで動く方が不自然だと思わない? アンタみたいにさ」
「……なにが言いたい?」
「いやね、刀路が何を考えて動いているのかは知らないけど、冷静に考えてみ。二〇XX年現在で警察官って全国で約二十六万人いるんだけど、それじゃ治安維持には足りないから、警備員が約五十万人いるのよね。この界隈の町内会の自警団の平均人数が、十五人くらいなワケ。で、改めて訊くんだけど、アンタはたったの一人で何をしようと独断で正義の味方ゴッコをしているのかな? まさかホントに悪を倒すための正義の味方ってつもり? アンタ一人じゃあ人手不足で、町内会の平和だって護れないよ」
 痛い指摘に、刀路は顔を歪める。
「俺の目的はともかく、じゃあ、アンタ達の組織の目的って何なんだよ?」
「質問に質問返しですか、そうですか。私、頭の悪い反応って嫌いなんだけどなぁ」
 苦笑した鏡子であったが、すぐに真面目な表情に戻る。
「正義の味方って大それた組織でもないんだけれど、【DD】とか【 眩夢 げんむ 】と定義される霊的超常現象による災害から、市井の人々の暮らしを護るのが目的っていうか、理念かな。とはいっても、スポンサー達は建前とは別の恩恵を将来的に期待していそうだけどね」
「……ッ!! 【 眩夢 げんむ 】。今アンタ確かに『げんむ』って言ったな?」
 それは二年前の事件で遭遇したメイド少年のスマートフォンから聞こえた単語だ。
 刀路が色めき立つ。鏡子は苦笑した。
「あららぁ~~、やっぱり記憶消去は失敗だったのね。アンタが燃えている宿舎に突入する前の《アイスブラッド》との通話を憶えているとはね。ま、霊能力に覚醒しているのが判明した時点で、記憶消去については期待なんてしていなかったけどね」
「ひょっとしてアンタ……、俺を監視する為に家庭教師を?」
「まあね。特に問題ないようなら別の人間に引き継いで終わり、だったんだけど。随分と長い付き合いになっているわね~~。お菓子が美味しいから別に苦じゃないけどね」
「ずっと俺を騙していたのか……」
 裏切られた気持ちだ。深い失望感が刀路を満たす。
「あれぇ? バイト代に見合った仕事はしていたつもりだったけど。私のお陰で成績が跳ね上がったでしょ? どんなバカでも偏差値六十五は保証しちゃうわよ。あはははは」
 騙した、だなんて人聞き悪いわ、と飄々と笑う鏡子。
 その笑顔が更に刀路を苛立たせる。今までは苦笑しつつも許容できていたのに。
「で? どうしてアンタは俺たちを【結界】に閉じ込めて襲ってきたんだ?」
 それでも刀路には、鏡子が自分に敵対しようとする意図が掴めない。
 少なくとも、自分は何も悪い事はしていないはずだ。
 恩を売るつもりもないが、自分は悪霊――【 眩夢 げんむ 】に苦しめられている人を助けてきた。命を賭けて戦って。感謝されたり誉められはせよ、批難されるいわれなどない。
 しかし鏡子は冷然と言った。
「状況からアンタの仕業だというのも明白だった。だから話し合うためにも、【結界】だけじゃなくてこちら側もある程度は見せる必要があると判断した。攻撃はしても本気で傷つける意図はなかったわ。あの程度の【式神】に負けるようならば、今までアンタが倒した【 眩夢 げんむ 】には勝てなかったでしょうから。――そう、アンタは強いし才能がある」
「? 意味が、分からない。アンタはいったい何を言っているんだ? 俺があんた等に代わって【 眩夢 げんむ 】を倒してきた事に、何か問題でもあるのか?」
 刀路の台詞に、美月は衝撃を受けた。
 自分を命懸けで護ってくれた、という感動すら綺麗サッパリ消し飛ぶ程に。

 

 刀路は今、――なんと言った?
 美月は耳を疑った。
 鏡子たちの組織に代わって【 眩夢 げんむ 】と呼ばれている超常現象を――倒してきた?
 今回のようにやむない自衛の為じゃなく。まさか率先して戦ってきたとでもいうのか。
 巻き込まれてではなく、自分で望んで、戦いを求めて……しかも、独断で。
 だんだん美月にもこの事件の構図が飲み込めてきた。
 理解し始める。恐ろしい事実を。
 そして背筋が寒くなる。大量の冷や汗が、背中だけでなく全身に流れ始めた。
「ト、トージ? 嘘でしょ? 嘘よね!?」
 カチカチと歯の根が合わない。秘密を知っていながら清香は何をやっていたのだ。理解していないのか。一緒に片棒を担ぐつもりだったのか。
「いいから下がっていろ美月。気を許すな。嘘じゃなく、鏡子さんは俺たちの敵なんだ」
「て、敵って、アンタ……」
 なにを言っているの? まるでハンマーで頭を殴られたようなショックだ。
 刀路がこの一年で豹変したのは分かっていたが、まさかこんな風になっていたなんて――
 今まで自分は一体なにをやっていたのだ!!
 全然、刀路の救いにも支えにもなっていなかった!!
 青ざめる美月の様子を見て、鏡子は手招きした。
「あ、美月はまともね。じゃ、こっちに避難してきなさい。間違いなく戦闘になるから」
「ダメだ。美月、敵の話を聞くな」
 美月は苦しげに両者を見比べる。
「……ゴメンね、トージ」
 刀路から離れて、鏡子の傍へ走り寄った。心底から悲しげな、泣きそうな顔で。
 予想もしなかった美月の否定に、愕然とする刀路。
「現時刻をもって佐倉美月の身柄を無事に保護完了。というワケで――」
 鏡子は別に勝ち誇るワケでもなく、至極冷静な表情のまま「パチン」と指を鳴らした。

 

「――待たせたわね。出番よ《ブレード》」

 

 その合図で、扉の影から一人の少女が姿を見せた。
 長い黒髪をポニーテールに纏めているクラシックなセーラー服姿の少女だ。
 小柄でスレンダーな体型で、スタイルから判断すると中学一年生前後といった感じか。
「……なんだ、その女?」
 刀路は少女を見て、怪訝な表情をした。
 何故なら、少女はプラスティック製の仮面を被って顔前面を隠しているからだ。
 刀路の言葉を無視し、鏡子は最後通牒を突きつけてきた。
「津久茂 刀路。これが最初にして最後の選択のチャンスです。大人しく投降して我々に身柄を拘束されるか、あるいは抵抗してこの《ブレード》に倒されるか」
 選びなさい、という最後のセンテンスを待たずして、刀路は好戦的に即答する。
「答えなんて最初から決まっている。お前達を倒す。そして美月を取り戻す。俺はひふみを喪った時から決心しているんだ。俺から大切なモノを奪おうとするヤツは全て倒す。そして、俺はひふみを殺した【 眩夢 げんむ 】とやらを全て滅ぼしてみせる。誰にも邪魔はさせない」
 刀路の双眸は、闘争の狂気で染まっていた。

 

       

 

《ブレード》――紅瀬 緋文 くぜ ひふみは今回の標的を、仮面越しに冷めた目で見据えていた。
 これは、よくあるケースだ。
 霊的能力に目覚めた一般人が、自分が『選ばれた特別な人間』だと勘違いして己の価値観に偏って、暴走するというケースは。
 この津久茂 刀路という少年は、己の行為を客観的に理解できていない。力に溺れて独善で力を行使した時点で、己も悪なのだと自覚できないのだ。
 あるいは能力の元凶に判断力や思考力を侵蝕されている可能性もある。
 能力の元凶――彼に付き添っている少女の霊に。
「……鏡子、戦闘許可を」
 緋文の要請に、鏡子は引き締まった表情で頷いた。
「これ以上は話し合いの余地は無いと判断します。よって津久茂 刀路を【 眩夢 げんむ 】と断定。現時刻をもって《ホークアイ》の権限において《ブレード》に戦闘行為を解禁します。ただし【 使神 シシン 】は使用不可。無力化が可能のケースとして殺害・殲滅は禁止とします」
「――了承したわ」
 緋文は構えをとる。無刀の時の構えだ。やや半身になって両拳を肩まで上げた。
 対して、刀路も鏡子の言葉に激しく戦意を掻き立てられた。
 嬉しさのあまり、頬が大きく吊り上がる。
「そうかよ鏡子さん。アンタが二年前――あの時の《ホークアイ》だったのか! なら余計に好都合だ。お前達をぶちのめして【 眩夢 げんむ 】や《アイスブラッド》。そしてあの事件について、知っている限りを吐かせてやる! 力ずくでもなぁ!!」
 それは歓喜の咆哮だった。

 

 鏡子は美月の手を引いて後ろに退いた。美月は悲痛な声で鏡子へ訴える。
「と、止めないと。早くトージを止めてあげないとっ。お願いします、止めて下さい」
「説得は無理。言葉が届く状態じゃない」
「あ、あたしだったら! あたしならなんとかトージを説得してみせます!」
「……これを『視れ』ば、理解できるわ」
 仕方がない。美月にも真実を『視せる』しかないだろう。この様子だと、下手をすれば刀路を説得する為に飛び出しかねないし、そうなれば完全に足手まといだ。いっそ気絶させる選択肢もあるが、今後を考えるとやはり納得してもらう他ない。
 鏡子は自分の眼鏡に手を添えて、凛とした発音で【言霊】を唱える。

 

顕現 なさい――我が使神《万里鏡 カレイド・スコープ 》」

 

 その力在る言葉――【言霊】――に応じ、鏡子の眼鏡がぼう、と淡い燐光を放った。
 最初は眼鏡をそのまま象った光体だったが、次第に古風なデザインのディティールが明らかになっていく。ソレは二体に分裂すると、一体は鏡子の眼鏡に還り、もう一体は美月の頭部に装着された。
 その眼鏡越しの景色を『視た』美月は――
「っ、きゃ、きゃぁあああああっ! な、なにコレっ!? お、お、お化けぇ!!」
「あーー、そこまで視えちゃったか。かなり素質あるね美月。落ち着いて。視えている霊は全部無害な自縛霊とか残留思念だから。ここって昔は墓地だったし、その霊たちね。悪霊じゃないから。それからちゃんと結界の境目も視えるでしょ。ね、大丈夫だから」
 鏡子の説明を理解できたのか、怯えた顔で頷いた美月は、落ち着きを取り戻した。
 だが、美月の視線が刀路に戻ると、今度は別の意味で驚愕して息を飲んだ。
「う、うそ……、アレって、まさか?」

 

 ――刀路の右側に、透明な詩燈 一二三 しとう ひふみ が寄り添っている。

 

 一二三には表情がなかった。感情が窺えない。
 美月の目に涙が溢れた。そして首を何度も左右に振った。
 鏡子は冷静に告げる。
「そう。アレが刀路に憑いているモノよ。アレの悪影響で刀路は暴走して【 眩夢 げんむ 】になった。けれどもまだ間に合うわ。私たちはアレを祓って、彼を救うのが本当の目的なの」

 

       

 

 睨み合いはすぐに終わった。
 様子見に無駄な時間は割かない。
 仕掛けたのは刀路が先だ。勝負は基本的に先手必勝といえよう。
 刀路は全身に霊力を循環させて身体能力を倍化させる。あの臨死体験を引き金に、刀路が得た霊的能力のひとつである。
 スピードに乗った鋭いステップインから、左右のフックを軸とした連打を繰り出す。
 その連打を《ブレード》――緋文は必要最小限の動作で、綺麗に捌いていく。
 空振り続きだが、拳の風切り音に迫力がある。
 激しい打撃音が鳴った。
 一発だけだが、空を切るばかりだった刀路の拳が、初めてブロックの上を叩いた音だ。
 その一撃で緋文は微かにだが体勢を崩した。威力を殺しきれなかった。
 ブロックの上とはいえ手応えのあるヒッティングに刀路はリズムに乗った。連打(コンビネーション)の回転を厳しくしていく。通常ならば、スタミナ切れを起こすのが必至な猛ラッシュも、霊力の循環により強化された心肺機能によって、その勢いは全く衰えない。
「へえ、なかなか様になっているじゃない。やっぱり間近での生観戦は違うわね」
 鏡子が満足そうに言った。
「もういいわよ。充分に見たわ。打ち合わせ通りに次の段階よ」
 刀路の身体機能と格闘技術は、今までの動きでほぼ正確に把握できた。
 よって、次は精神面を見たい。
「了解したわ」
 鏡子に見せる為に、意図的に後手に回っていた緋文は、大きくバックステップして間合いを確保した。刀路は追撃の手を緩めずに、逃がさない、と間合いを潰しにくる。
 対して緋文も刀路の動きを完全に予測していた。加えて、スピードとタイミング、それに連打のリズムと出所も含めた拳の軌道まで、すでに精確に見切っている。
 緋文は初めて攻撃を繰り出した。
 刀路が放ったフックのインサイドを、滑るように走った右ストレートが唸る。
 コークスクリュー気味に放たれた拳が、その回転によって刀路の腕を外側に弾いて、カウンターとなって刀路の顎を直撃した。
 その一撃で、刀路の身体が大きくグラついた。たったの一発で、完全に効かされた。
 辛うじて踏みとどまって倒れるのこそ拒否したが、膝が揺れ足の動きが止まる。
 緋文は容赦はしなかった。キレ味鋭いコンビネーションブローを滑らかに上下へと打ち分けて、刀路を一方的に殴り続けた。身長差からボディーブローは真っ直ぐに、頭部へのパンチは全てアッパー気味に入っている。
 背筋の凍るような炸裂音が間断なく連なる。
 棒立ちのまま拳の暴風雨に晒された刀路は、派手に血飛沫を撒き散らしながら左右に頭部を捩じられまくった。七秒後、両腕がダラリと下がると、力なく両膝から崩れ落ちる。
 惨めに顔面から床に突っ伏した。突っ伏したまま――ピクリとも動かない。
 実力のレヴェルが違う。
 緋文は足元で這いつくばっている刀路を見下ろしたまま、平坦な声で訊いた。
「……これでいいのよね、鏡子」
「ん、そんな具合でオッケー。上出来よ」
 失神寸前で、可能な限り苦痛を与えてダウンさせた。
「ト、トージっ!」
 無慈悲で凄惨なダウンシーンに、美月が泣きそうになる。
 しかし鏡子は平然と美月を窘めた。
「平気よ。大丈夫だって、あの程度。ま、レフェリーがいたら即座にストップだけど」
「だ、大丈夫なものですか! まるで相手になってないじゃないですか! 死んだらどうするんですかっ!? こんなのただのリンチです! もう勝負はつきました! これで気が済みましたよね!? これで終わりですよね!?」
「――これで『終わり』だってのなら、とんだ期待外れだけどね」
「え?」
「ほら、アイツをよく見なさい。アイツちゃんと立ち上がろうとしているよ。こんだけ実力差を見せつけられても、諦めていない」
 鏡子の指摘どおりに、刀路は懸命に顔面を持ち上げようと両肘を突っ張っている。まるで生まれたての仔鹿のようだ。
「な、なんで!?」
 美月には理解できなかった。
 鏡子は困惑する美月に理由を教えた。とても真剣な口調で。
「確固たる決意があるから。それを支える精神の強さがあるからよ。自分より弱い相手に向かっていくのは簡単。自分より強い相手に屈するのもね。自分よりも強い相手に向かっていける精神があるか、それを私はこの目で直接確かめたかったの」
 心の痛みに比べれば肉体の痛みなんて大した事ない、などという妄言は、肉体の苦痛を経験した事のない者にしか言えない。意識を断たれる寸前まで脳を揺さぶられ、強烈な打撃で肉体を痛みつけられれば、大概の人間は苦痛と恐怖に心が折れて、立ち上がる事などできやしない。まして、もう一度その相手に向かっていくなど――
「精神力の強さが見たいのなら、これが一番確実で手っ取り早い。心が弱いヤツは、苦痛に屈し、恐怖から目を背けて、寝そべったまま自発的に起き上がろうとはしないから」
 鏡子と美月が見守るなか、刀路は死力を振り絞って幽鬼のように立ち上がった。
「うそ。た、立った……」
 呆けたように美月は呟いた。
 まるで刀路の背後に寄り添うひふみが、彼を立たせているようにも映った。
 力の抜けた顔で刀路はうわ言のように繰り返す。
「……ひふみ……ひふみ……まけるかよ……ぜったいに……もう……ひふみ……」
 その目はまだ死んでいなかった。だが、膝がガクガクと笑っている。
 緋文が鏡子に訊いた。
「期待通りみたいね。けど終わらせてもいいかしら? これ以上は時間の無駄でしょう」
「ええ。もうKOしちゃっていいわよ」
 鏡子も了解し、ゴーサインを出した。
 ただ、少しだけ更に期待してもいた。刀路がこのまま簡単に倒されず《ブレード》に一矢報いるのではないか、と。実力差を考えれば、万に一つも可能性はないだろうが。
 緋文は悠然と構え直す。格下相手だろうと油断は微塵もない。
 思わず鏡子は刀路に塩を送る。
「刀路! 霊力を使ってダメージを回復させなさい! 身体強化や攻撃だけじゃなくて、自分のダメージを浄化するイメージで! まずは脳を優先して! 思考能力を戻さなければ話にならないわ! 聞こえている!?」
 鏡子のアドバイスに、刀路は焦点が合っていない虚ろな視線で反応した。
 確かに、云う通りにするとダメージが回復していく。コツを掴めば、更に回復できる。
 これならば――再び戦える。
 刀路の回復をみて緋文が小さく嘆息した。彼女は自分から責めずに、相手を待つ。
 最後の勝負に出た。まともな格闘スタイルでは勝負にならないのは、身に染みている。
 ゆえに奇襲に賭ける。
 かなり強引に体当たりにいき、あっさりと躱されると無様に地面を転がった。
 しかし、それも予想内だった。刀路は勢い余って転がりながらも体勢を立て直し、地面スレスレを飛んで超低空タックルにいく。
 命懸けのタックルは、刀路自身でも信じられないような速度とキレ味だった。
 左腕のフックで相手の右足をひっかける事に成功。引き倒せなくとも、体勢を崩すには充分であった。刀路は跳ね起き様に、炎の剣を実体化させる。
 実力差からして、もう殺さないように手加減する余裕はない。
 緋文が体勢を立て直すのと同時に、大上段に炎の剣を振り上げた。
 炎の剣を霊力の限りに極大化させた。
 多少左右に動かれた程度では、躱しきれない程の大きさに。
 攻撃されても構わない。相打ちでもとにかく振り切ってしまえば――
「いいぃいいぃいいいいっ、っ、けぇえええええええええ!」
 躊躇なく振り下ろした。
 いや、振り下ろそうとしたが、叶わなかった。
 緋文は躱そうとはせずに、刀路の右手首を狙って左手を伸ばし、そして掴んだ。剣ではなく、剣を持つ腕を狙われた。想定外の防がれ方に、刀路は固まった。
 それに炎の剣の大きさを維持していられない。
 刀路は緋文の蹴りを無防備に喰らって、天井近くまで全身を跳ね飛ばされる。
 そのまま受身も取れずに背中から墜落。
 全身がバラバラになったような衝撃で、指一本さえ動かす力も余っていなかった。
 炎の剣も消えていた。
 完全に勝負はついた。
「――やっぱりね」
 その一瞬を見逃さなかった鏡子は呟いた。やはりアレは厳密には【英霊】とは定義できない。【 使神 シシン 】として契約していない。そして、刀路は自分の意思で炎を操れてはいない。つまり仮契約のような状態で詩燈一二三の霊から霊力の供給を受けている。
(不自然なだけでなく、悲しく歪な関係ね)
 鏡子は痛ましくもそう思った。

 

 もうロクに動けない。
 それでも刀路は激痛を無視して、意思を正確に反映しようとしない四肢を無様にバタつかせて、懸命にもがいて、死ぬ気でもがいて、起き上がろうとあがいた。
 だが、見える景色は天井のままだった。敗北感がやがて絶望感へと変わる。
 仰ぐ天井がぐにゃり、と水膜で歪んだ。
 幾筋もの涙が頬を伝ったが、拭おうにも腕が持ち上がらない。足も動かない。
 負けた。俺は弱い。
 認めるしかない。俺はこんなにも――弱いんだ。この一年間全てを犠牲にしてきて得た強さとは、この程度の代物だったんだ。
「ちくしょう……」
 納得できなかった。許せなかったし、認めたくなかった。
「ちっくしょうッ!! どうしてだ!! それ程までに強いんだったら!! 俺程度の素人よりもはるかに強いんだったら!! どうしてアンタ等はひふみを【 眩夢 げんむ 】から助けてくれなかったんだよ!? 命を救ってくれなかったんだよっ!? 護ってくれなかったんだよぉ!!」
 泣きながらの刀路の悲痛な訴えを、鏡子は真正面から受け止めた。
 逃げる事なく、誤魔化す事なく、真摯な口調で答えた。
「言い訳はしないわ。私たち【パンドラ】の力不足よ。一年前、あの事件において貴方の家族と他の六人の犠牲者を救えなかったのは、他の誰でもないこの《ホークアイ》こと千璃鏡子の不甲斐ない実力の結果。許してくれとも言わないし、恨んでくれても構わない。批難は甘んじて受けるしかない」
「な、なんだよ……それ……」
 刀路は呻く。非を認めるな。言い訳してくれ。怨ませてくれ……
 鏡子は諭すように訥々と語り始めた。
「刀路の哀しみは理解できるし、共感できる部分だってないわけじゃない。でもね、理不尽に大切なヒトを喪っているのは此の世でアンタだけじゃないの。我々【パンドラ】も全力で対【 眩夢 げんむ 】事案――【ケースDD】の対処に当たっているけど、万能でも全能でもない。全ての被害者を救済できないわ。究極の理想ではあっても、現実は厳しく理想には遠いの」
「だからって納得しろっていうのかよ……、ひふみの死を仕方がないからって」
 そんなのは認められない。いや、認めるとかじゃなく、単純にイヤだった。
 自分の大切な人は他人とは違うんだ。他の不幸な人と一緒になんかできないんだ。
「仕方ない、のかよぉぉぉ」
「私の口からは言えない。でも、刀路が認めようとも拒否しようとも、現実は変わらない。どんな名医だって全ての患者を救えない。どんなに優秀なレスキューだって全ての事故、災害から被災者全員を救えるワケでもない。たとえ世界一の大富豪でも、世界一の権力者でも、飢餓で亡くなる途上国の難民や、戦争や格差を根絶するのも、不可能だわ」
 鏡子の言葉は、刀路には受け入れ難かった。
 そんな空虚な正論を聞きたかったわけじゃない。せめて慰めの言葉が欲しかった。正論よりは同情や哀れみの方がマシだった。見知らぬ他人の死や不幸など知った事じゃない。自分にとっては、大切な恋人の死こそが悲劇の全てで、哀しみの全てだ。
「――うるせぇよ。そんな偉そうな説教なんざ、俺にはどうでもいい!!」
 さっきまで枯渇していた霊力が、再び爆発的に漲ってくる。
 怒りだ。怒りが原動力だった。耐え難い怒りが刀路を衝き動かす。
 霊的炎が、刀路の全身から台風のように吹き荒れる。
 今までは掌で触れた対象物に発火させるたり、炎の剣を精製するので精一杯だったが、今は違った。この空間ごと全てを焼き尽くせる気さえした。
 刀路は歪に頬を歪めた。いける。この力ならば――
 全身に炎を纏う刀路の姿に、鏡子は嘆息と共に舌打ちした。
「ったく、人の話は最後まで聞けっての。ホントに聞き分けのないクソガキね」
 結界を操作して輻射熱を遮断しているものの、この分だと長く保ちそうもない。
 美月は不安そうに鏡子に訊く。
「トージはどうしちゃったんですか!?」
「中二病の超展開的に大ピンチに格好よく、というか伏線なしで、ご都合主義的にパワーアップ――じゃなくて、単なる暴走。視ての通りに、アレから強引に霊力を奪い取って、かつ拒絶されていた発火能力まで無理矢理に引き起こしている。いわば仮契約状態だっていうのに、ったく大した資質よ」
「じゃあ、やっぱりトージが一方的に憑かれているってワケでもないんですね」
 一縷の望みに、美月の頬が緩む。
「精神状態に悪影響を及ぼしているだけで、共棲共存に近い存在形態でしょうね。ま、いずれにせよ、この暴走状態で霊力を強制的に吸い上げられ続ければ、彼女は消滅しちゃうし、下手すれば刀路自身も暴走した炎が制御を離れれば……焼死ってオチになる」
 鏡子は緋文に告げた。表情には余裕がなくなっている。
「悪いけれど、一撃で殺さないように片付けて頂戴。これ以上、時間をかけると暴走が取り返しのつかない事態を招くわ」
 対して、仮面の少女の表情は不明だ。
「自業自得でしょう。いつも無駄に挑発しすぎなのよ貴女。でも、狙っての一撃決着となると素手では厳しいわ。彼の【 使神 シシン 】として機能している霊体はかなりの容量よ」
「そんなの言われるまでもなく解っているわよ。だから急いでっていっているの。こうなった以上、後遺症を残さないレヴェルならある程度のダメージは容認するから」

 

「分かったわ。ならば【 使神 シシン 】の使用――《月皇 つきおう )}}》の解禁を」

 

《ブレード》の要求に従って、鏡子は《ホークアイ》として宣言する。
「では、現時刻をもって《ホークアイ》の権限により《ブレード》に、本件において戦闘制限の全解除を認定します。ただし、不殺命令だけは依然として有効です」
「――了承したわ」
 ようやく【 使神 シシン 】の使用制限を解かれ、仮面の少女は両手を合わせて頭上に掲げた。

 

顕現 なさい――我が使神《月皇 つきおう )}}》」

 

 召喚の【言霊】に応え、彼女の【 使神 シシン 】が顕れる。
 その言代の通りに、三日月の光が顕現したかのような光輝く大長太刀が、仮面の少女の手に在った。鏡子の《万里鏡 カレイド・スコープ 》が眼鏡の【付喪神】の【 使神 シシン 】ならば緋文の《月皇 つきおう )}}》は長大な太刀の【付喪神】の【 使神 シシン 】である。
 少女の長髪が、突風に巻き上げられたようにたなびいた。

 

 霊力の供給源――【 使神 シシン 】を顕現化させた事により、使用可能な容量が上がったからだ。

 

 緋文は《月皇 つきおう )}}》を凛と構え、鮮血色の炎に包まれた刀路に正対する。
 刀路が獣のように雄叫びをあげ、大きく背を反らせて天井を仰いだ。
 そして、口から炎の柱を吹き上げ、それを剣として顕在固定して、両手で掴んだ。
「うっわ。あれだけのダメージがほぼ完全に回復しちゃったか。どんだけの無茶な霊力を体内でブン回しているんだか」
 鏡子は呆れる。だが本当に猶予はない。霊力暴走によって肉体のコンディションが回復した後に待っているのは、霊力のオーバードーズによるオーバーフローだ。加えて、彼に取り憑いている少女の霊体も、あのまま霊力を吸収され続ければ、消滅する。
「心配いらないわ、次の一瞬で決める」
「舐めるな! 倒されるのはお前だぁ!!」
 先に動いたのは、攻撃を仕掛けたのは刀路の方だった。全身に纏っていた炎の一部が、敵に向かって降り注ぐ弾丸の雨と化す。いや、紅いレーザーという表現の方が適切か。
 煌めく白刃が迎え打つ。
 緋文は、刀の【 使神 シシン 】で三分の一を斬り散し、残りの三分の二を掻い潜って躱す。
 対する刀路も飛び道具による遠隔攻撃を諦め、炎の剣を正眼に構えた。
 緋文は滑るような運足で抜刀圏内に侵入。
 それは流水めいた美しい踏み込み。
 刀路は落雷のような、渾身の中段斬りをカウンターで振り下ろした。
 刀と剣がすれ違い際に交差する。

 

「鬼哭流三ノ太刀、魅華月 ミカヅキ )}}

 

 凛とした呟きと同時に、霊体( 霊子構成物体 アストラル )の長太刀が残光と共に綺麗な孤を描いた。瞬間、刀路の右前腕が綺麗に切断されて、跳ね上がる様に飛んでいた。
 と同時に、少女剣士の仮面も真っ二つに割れた。
 ぱらり、と仮面を被る為に後頭部で結っていた髪の毛もほどける。
 仮面を剥がれて素顔に空気の輻射熱を感じた緋文が、驚愕に目を見開いた。
 信じられない、と。もしも仮面が無かったら……ッ!!
 腕を斬り飛ばされた刀路が激痛に身を捩る。腕の切断面から噴水のように血流が噴出す。
 カラン、と仮面が地面に落ちた。
「マジ!? ホントに緋文に一太刀を浴びせるなんて……」
 鏡子も信じられない。
 緋文のこんなシーンは、鏡子の記憶にはなかった。当の緋文も信じられない様子だ。
 驚いたのは鏡子と緋文だけではない。
 次の瞬間、自分の前腕を斬り飛ばした『敵の顔』を見て、刀路の表情も驚愕で固まった。
 見間違うはずはない。
 髪型は、違う。
 死んだ恋人は、肩口までのホブカットで、軽い天然ウェーブがかかっていた栗色だ。
 目の前の少女は、クセのない絹糸のような腰まで届く、長い黒髪であった。
 だが、髪型は違っていても――

 

 決して見紛う事なく、詩燈一二三の貌が眼前に在る。

 

「ひ、ひふ、……み?」
 腕を斬られた激痛すら忘れて、刀路は『ひふみの貌』に見入っていた。
 少女の黒い長髪がサラリと揺れた。

 

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ここまでの解説

ようやく主人公とヒロインが邂逅する。

と、同時に主人公が退魔組織に入る切っ掛けになるイベントを消化。

ここから話の様相が変化していく。

そして復讐一辺倒だった主人公が精神的に成長する過程がスタートだ。

次の章は「溜め」に近い形となるので、予想してみて欲しい。

 

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