僕は【戯れ記事《ゴト》遣い】

「戯れ言遣い」ならぬ「戯れ記事遣い」を名乗るブロガーです。 雑記系ですが、読んで損したと憤慨されても困ります。 だってコレは「戯れ言」だから――

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【実際に通過作で解説】戯れ言――ラノベ新人賞の一次通過のコツについて【第3回】

【実際に通過作で解説】戯れ言――ラノベ新人賞の一次通過のコツについて【第3回】

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――【スポンサー検索】――

 

 

さあ、戯れ言 記事 ゴト を始めようか――

 

 

前の第2回については、下のリンクを参照ねがいたい。

投稿作の第一章が載っている。第一章の記事には、その前のプロローグの記事(第1回)へのリンクがあるので遡れるという寸法だ。で、今回は第二章となる。

しつこく繰り返すが、ラノベ新人賞の実相を知りたい方への記事である。先の第一章までで、僕のおおよその実力は把握できているだろうから、ここから先の展開(ストーリー)は、期待以上でも期待以下でもないと思う。出来れば期待を上回りたいが。

◆合わせて読みたい◆

第二章 狩人(TOUJI)

 

       

 

 景色は幻想的だ。
 明るく透明な青空の下、三色の明るい笑い声が、ロンドを踊るようにこだまする。
 ここは丘の上。広大な佐倉邸の敷地内でも一番の場所。
 若草色が薫る絨毯を、三人の幼い子供が、朗らかに笑いながら駆け回っていた。
 無邪気で、とても楽しそうである。
『あははははは。こっちこっちー』
 先頭を走っているのは、快活そうな女の子。
『まてー。ずるいぞ、ひふみ!』
 二番手はヤンチャな男の子。
 そして最後尾から必死に二人を追いかけているのは、フリルのたくさんついた上品な白いドレスを着ている大人しそうな女の子。
『まってよー、とーじ! ひふみ!』
 泣きそうな声。ドレスの子は一生懸命に走っても、二人には追いつけない。
 二人は一心不乱に何かを追いかけていた。空を飛んでいる――ナニかを。
 でも、自分が追っているのは、二人が追っている何かではなく、二人だった。
 足がもつれて転んでしまった。膝を擦り剥いてドレスに緑の汁が染み込んでしまう。きっと後から女中長の蒲原に叱られてしまう。
 顔を上げる。泣くのを堪える。二人とも美月の転倒に気がついていない。
(お願い! あたしだけ置いてかないで!)
 懸命に手を伸ばしても届かない。掴むのは背中でも青い空でもなく、ただの空虚。
 笑い声がどんどん遠ざかっていく――

 

       

 

 佐倉 美月 さくら みつき は目を覚ました。夢からも醒める。
 眠気が残ったままの茫洋とした目で時計を見ると、二本の針は朝の九時を指している。
(そっか、昔の夢……か)
 此処は佐倉邸の敷地内にある丘ではなく、刀路が独り暮らしをしている分譲マンションだ。
 二年前とは違い、すっかり見慣れた2LDKの間取りの中の寝室である。
 目尻に微かな涙が残っていた。
 もう一度、時計の針を確認すると。9? 九時? く、くくく、く、九時ぃ!?
 夢の感傷に浸っている場合ではない。一気に眠気が吹き飛ぶ。慌ててベッドから飛び起きると、白い裸身に手早く下着をつけていく。
 その慌しさで、隣で寝ていた裸の少年――津久茂 刀路 つくも とうじ も目が覚めた。
「……なんだよぉドタバタと。五月蝿いな」
 彼が不満を口にすると、美月は目を剥いて言い返す。
「家の用事があるって言ってたでしょ!? どうして目覚ましが止まっているのよ!?」
「五月蠅かったから俺が止めた」
「ふ、ふ、ふ、ふざっけるなぁぁああああ!!」
「あのなぁ、俺のせいにするなよ。自分で起きられないお前が悪いんだろ」
 そう言い放ち刀路は二度寝を決め込んだ。
 一瞬だけ殺意を込めて刀路を睨む美月であったが、すぐに寝入った刀路を無視し、洗面所へと飛び込んで目立つ寝癖を整える。とりあえず化粧水で洗顔だけは――
 ふと気が付く。洗面所に飾っていたデジタル・フォト・フレームがない。
 美月が置いた『幼馴染み三人』が写っている代物だが、また刀路が棄ててしまったのか。
 思わず溜息が漏れる。

 

 ――詩燈 一二三 しとう ひふみ の死から、すでに二年の月日が過ぎていた。

 

 津久茂刀路と佐倉美月の二人は、中学二年のまま永遠に時を止めてしまったひふみを置き去りに、高校二年生へと進級している。
 二年前。佐倉家の本邸敷地内にある使用人宿舎で起こった謎の爆発事故は、ひふみを始めとした七人もの犠牲者が出るという痛ましい大惨事であった。アンティークな高級木造建築物は、その高級な趣の裏で、不燃素材や防火扉・排煙窓を最新の消防法の基準を満たすレヴェルで備えていなく、頼みの機械消火設備は作動しなく、結果あっけなく全焼・全壊してしまった。しかも佐倉家本邸とは異なり、役所に提出されていた防災計画は形式だけであり、定期的な消防設備点検どころか避難訓練さえも行われていない、という杜撰な事実が明るみになる始末だった。
 出火原因も不明。おそらく人為的――つまり放火ではないかと推測されるが、玄関等に設置されていた防犯カメラと記録用HDD装置も全て焼失していた。他も手懸かりに結びつく物証は一つも残らなかった。
 だが、ひふみを救おうと無謀にも事故現場に踏み込んだ刀路だけが、奇跡的に助かった。
 にも関わらず、死線から還ってきた彼は、固く口を閉ざして何も語ろうとはしない。
 今でも黙して一切何も語らない。
 美月は自分に言い聞かせる。
 大丈夫。どんなに辛い傷痕だって、時間がきっと綺麗に洗い流してくれる……
 ……そうだよね? ひふみ。

 

       

 

 二度寝を決め込んだ刀路は、しかしなかなか眠れずに、ゴミ箱に突っ込んだデジタル・フォト・フレームを思い出した。持ち込んだ美月はきっと勝手に棄てた事を怒るだろう。
 だけど辛いのだ。正視に耐えられなかった。
 刀路を諭す、ひふみの言葉がリフレインする。

 

 ――〝刀路くん。来年受験でしょう。いつまでも停まったままではいられないよ〟――
 ――〝嘘だよ。刀路くんは自分に嘘ついている〟――
 ――〝昔の自分に戻れないっていうんだったら! どうして全国大会で優勝した時の竹刀を、未だに捨てないでとってあるのよ!! こんなに大事に!〟――

 

(駄目なんだよ。お前がいてくれたから、俺は……)
 そのひふみがいなくなった。
 美月の母は自責の念から心を壊し、社交界から引退して廃人同然になっている。
 そして美月の父は、刀路の顔をまともに見る事ができない。
 美月との不適切な肉体関係を把握していないはずはないが、干渉できないでいた。
 玄関先から美月の「聞こえている?」という声が届く。
 それで刀路は我に返る。
「じゃあ、あたしはもう行くからねトージ!! 午後からでも学校に行きなさいよ!」
 返事をしないで、ゴミ箱から視線を移す。部屋の隅だ。
 ボロボロになっている竹刀の傍には、ひふみに贈った銀色の指輪が台座に飾られた状態で置かれている――

 

       

 

 今日は午後から家庭教師が来る日だ。
 刀路は筋力トレーニングを中断し、勉強の準備を始めた。効率よく学習する為には最低限の予習は必須である。美月が用意した昼食を食べ終わると、丁度はかったようなタイミングで、専属家庭教師が訪ねて来た。
「やっほー。元気している? 刀路」
 縁なしメガネをかけたポニーテールの若い女性が、遠慮なしにリビングへ上がり込む。
 美人という程ではないが、堀が深く理知的な顔をしている。その理知的な顔をニコヤカで愛嬌のある表情でコーティングしていた。
 彼女が家庭教師の千璃 鏡子 せんり きょうこ 。日本最高学府であるT大工学部一年生の十八歳。
 美月の紹介で、個人契約でアルバイト契約してもらっている。短時間で日給二万も要求するだけあり、確かに鏡子は優秀だ。上位の成績をキープできるのは、彼女の力が大きい。
「……どれどれ、ちゃんと云いつけ通りに、予習と復習は済んでいる?」
 彼女は素早く教え子の学習具合と理解進行度をチェック。終わると、一直線にリビングからダイニングへ行き、冷蔵庫の扉を開けて内容を物色。いつもの流れであった。

 

 契約の二時間が過ぎた。
 どうも鏡子も忙しい身らしく、一度の授業での最長が二時間であった。
 彼女の参考書が閉じられる。それが終了の合図だ。
「――じゃあ、今日の授業はこれまで。ちゃんと次まで指摘した課題を克服するように。とはいっても、アンタだったら言われなくても自分からやるから、楽な生徒だけどね」
「ありがとうございました」
 帰り際に、鏡子が気軽な調子で言った。
「あ、そうそう。アンタちゃんと一度は病院で精密検査受けた方がいいと思うよ」
「病院? 精密検査?」
 刀路は怪訝な顔で鸚鵡返しする。
 二ヶ月に一度の定期健診ならちゃんと受けている。事故の後遺症を用心しての通院だ。
 鏡子は意味ありげに刀路の眼前まで詰め寄る。
「うん。脳や呼吸器や皮膚じゃなく、骨や靭帯、関節とかの方。ついでに腎機能と肝機能も。なんだか色々と無茶しているみたいだからさ。脇腹の怪我はともかく、全体的にオーバーホールが必要だね」
「オーバーホール?」
「ここ最近さらに造り上げているみたいだけど、急造した肉体には必ず反動がくる。身体造りって作業は、最低三年はかけて綿密に計画して積み重ねる地味な仕事なの。一年とか二年の短期間では本物の躯は造れない。いくら剣道の元インターミドル王者でもね」
「鏡子さんって工学部じゃなかったっけ。スポーツ医学も専攻しているの?」
「人間も機械も、設計建造と運用理念は一緒だよ。ううん、人間の肉体ってのは精密機械よりもずっと精緻かつ繊細なモノなの。特にその性能を充分に発揮する為にはね」
 眼鏡の奥の眼光は鋭く、その声音は、普段の鏡子らしからぬ真剣な響きであった。
 刀路は鏡子から視線を逸らす。
「……考えておくよ。あんま時間が取れないんだよ、マジで」
「忠告はしたよ。生き急ぐのはともかく、あまり死に急ぐなよ、少年」
「心に留めておくよ」
 刀路の歯切れの悪い返事に、鏡子は苦笑を残して帰った。

 

       

 

 深夜のハイウェイを、漆黒のバイクが疾走していた。
 オンロードのレーサータイプだが、既存の機種にはないオリジナルと思われる外装だ。ZZRに近いフォルムではあるが、似ているがゆえに、その差異が明らかでもあった。
 フルフェースのヘルメットの後ろからは、長い黒髪が激しくたなびいている。
 バイクは弾丸のように飛ばしていた。時速百五十キロを超えている。
 大排気量の大型二輪であるが、跨がって制御しているライダーは小柄だ。
 身長は一四〇センチ台で、しかも細身の女性。
 この黒獣 バイク の飼い主は《ブレード》というコードネームを持つ霊能エージェントである。
 実年齢はまだ十二歳になったばかり。免許が取得できる歳ではないが、組織は警察と交通安全委員会に手を回して、正式な免許を与えていた。書類上は十六歳になっており、実年齢が十六歳に達するまで更新不要となっていた。他にも国際免許も保持している。
《ブレード》――紅瀬 緋文 くぜ ひふみはバイクが大好きだ。
 ツーリングだけではなく、メンテナンスも好きで、自分でバイクを整備している。
 バイクの外装が特注なのは、彼女の股下サイズで楽にクラッチを操作できるようにフレーム改造する必要があったからだ。
 緋文は可能ならば、現場への足にバイクを利用する。
 しかし、今は純粋に走りを楽しんでいた。
 死と隣り合わせの戦いの日々にあって、バイクを飛ばしている今は安らぎの時間だ。
 スマートフォンと無線で繋がっているイヤホンに、外線連絡がはいった。
 バイクを止めて、通話に応じる。
「もしもし。ひょっとして新しい任務?」
 相手は所属している組織の幹部――関東局本部の長であり、彼女の上司だ。
『いや任務じゃない。義父 ちちとして、まったく帰宅しない義娘 むすめの様子が気になっただけだ』
 緋文はため息をつく。
 どうせ、自分の現在位置くらい専用衛星のGPSで把握しているに決まっている。
「分かったわ。近くにいるんでしょう? 今から行くわ」
 教えられた場所への最短ルートを脳内に描く。
 夜中だというのに、またあの不味い手料理が待っていると思うと、陰鬱だった。

 

       

 

 今日は、三日ぶりの登校である。
 昨日は予定よりも帰宅が遅くなったので、やや眠たい。
「おっはよ! 刀路っ」
 刀路が教室に入ってきたのを見て、浅間 清香 あさま きよかが嬉しそうに駆け寄ってきた。彼女は刀路と距離を置かない数少ないクラスメートだ。そして刀路への好意も隠そうともしない。
 清香は女子の割には背が高く、格好のいい女、で通っている。いかにも気が強そうな顔立ちと雰囲気は、ボーイッシュな美女である美月と似通っていた。
「今日は来ると思っていた」
「英語の小テストがあるからな」
 だから今日は眠くとも登校したのだ。
 高校一年の時は不登校状態で、テストもほとんど欠席していた。それでも佐倉家の尽力で、特別補習の山だけで二年に進級できた。だが、今年は自力で進級してみせる。
「ねえねえ、ヤマを教えてよ、ヤマ」
 着席した刀路に、清香は親しげに席を寄せてくる。二人の席は隣同士である。
 刀路は教室内の雰囲気の違いに気が付いた。
「何かあったのか?」
 この微妙な空気は自分が登校した為ではないはずだ。その雰囲気の変化には慣れている。
 清香がスマートフォンを取り出して、画像データを見せた。
 画像データには一人の少年が写っていた。ただし、奇妙なノイズが入っていて、詳細までは判然とはしない。せいぜい年頃と背格好が判る程度だ。
 なるほど、と合点がいく。刀路は写真のノイズが霊的な影響であると知っていた。

 

「――ねえ刀路。《ファントム》って知ってる?」

 

 清香の問いに、刀路は可能な限り平静を装って聞き返した。
「誰だよ、ソレ」
「う~~ん、ここ半年くらいで有名になっているアンダーグラウンドの人、かな。この界隈では最強とか云われているわね」
「喧嘩屋か。というか、最強とか恥ずかしいな。しかも日本とか世界じゃないのかよ。ぶちあげるのならそれくらいじゃないと、ハッタリにしてもあんまり意味ないだろ」
「そりゃホントに強けりゃ、街中で不良なんて相手にしないけどねぇ」
「雑魚相手の喧嘩屋か。暇なんだな」
「そ。相手は一般時に悪さしている極悪の不良限定ね。いわゆる『警察に解決できない悪』を退治する正義の味方? 渋谷最強とか新宿最強とかと並んで赤面モノの設定よね」
「それがこの写真のヤツか。……酷い画像だな。これじゃ誰だか判らん」
 清香は画像を切り替えて他の写真も見せるが、どれも似たような画像品質である。
「それでも人前で《ファントム》が戦ったのって、昨日の夜が初めてだったみたい。今までは目撃証言はあっても証拠写真一つなかったんだから」
「じゃあ、けっこうな人間が目撃したのか」
「うん。証拠映像はどれもこれも酷い物ばかりだったけれど。それでも噂が嘘じゃないって証拠にはなるでしょ。だから、みんな騒いでいる。ネットでも同じね」
 刀路の目付きが微かに変化する。しかし、清香はその変化に気が付かない。
「興味があるのなら、SNS関連サイトを回れば色々と拾えるわよ。最強云々の中二病設定は置いておくとしても、戦いぶりはかなりのものだから」
「ふぅん。素人の雑魚相手だったらいくらでも強そうに戦えると思うけどな。強いヤツと戦ってどう動けるか、だろ」
「いやいや。身体能力だけでも相当なものだって。刀路も動画を見てみなよ」
「気が向いたらな」
 改めて周囲を見回した。どうやら教室内は《ファントム》の話題で持ちきりのようだ。
「それにしても、そんなに人気だったのかよ、その《ファントム》とやらは」
 普通の高校生には、不良グループがどうだの、犯罪がどうだのは範疇外のはずだ。せいぜいがフィクションの中か、他人事か。当事者的に関心を持つこと自体が意外だ。
「違う違う。今ガッコで話題になっているのって、ほら、よく見て。この制服ってさ、ウチの制服じゃない?」
「確かに、そう見えるな」
 清香は刀路の目を覗き込んで言った。
「それにさ……。なんだかコレ刀路に見えなくもないけど、物騒な真似はやめてよね」

 

 清香が三現目後の休憩時間にトイレに行って教室に戻ると、刀路の姿は消えていた。
 机に鞄がかかっていない。小テストが終わったので早退したようだ。
 いつも通りといえばそれまでだ。刀路は常にマイペースを貫く。それでも高校一年の頃を思えば、随分と回復している。去年は、二年に進級できたのが不思議な程だった。
「……帰っちゃったか」
 舌打ちし、清香は残念がる。
「まあ、今日はけっこう会話できたし、いい日だったかな」
 色気のない内容であったが、ここまで会話が続いたのは、いつ以来だろう。
 しかし相談したい事があった。
 実はさっき、女子トイレから出た時に、ある男子生徒とすれ違った。
 最近、妙に顔を見る。不自然な程に。痩身で薄気味悪い雰囲気の男子である。
「ねえ、アンタ誰?」
 ついに清香が我慢できなくなり、挑発的にそう誰何すると、彼は自分に一枚のメモ用紙を強引に握らせたて立ち去ったのだ。
 メモには、シンプルに名前が書いてあった。
 家族しか知らないはずの、去年死んだ愛犬の名が。
 全身から冷や汗が溢れ出した。
 亡くなった愛犬。事故で自分を庇って死んだ友達、いや、兄弟。家族しか知らないはず。どうして見知らぬ他人が知っているのか。
 恐くなった。やはり自分は彼にストーキングされている。

 

       

 

 自宅マンションにあるパソコン群の前で、彼女はキーボードを叩く指を止めた。
 ようやく一段落だ。
 即座の情報規制は間に合わなかったが、どうにか鎮火の目処は立った。
 昨晩から一睡もしていない。突貫作業である。
 すでに【パンドラ】の情報専門部隊によるアップデータの削除活動は始まっている。
 削除し切れない個人ブログやサイト等は、大元のメインサーバを海外経由でダウンさせて対処する。当初はこの規制活動が逆効果になって更に話題を呼ぶだろうが、どうせ噂自体新しい話題が出るまでの賞味期限だ。デジタルデータとして物証が残る方がトータルで危険であった。むろん完全に撲滅など不可能だが、絶対数を減らすことに意義がある。
「それにしても、よくぞ今までこの《ホークアイ》の目を逃れてきたものね」
 尻尾を掴むまで随分と手こずった。
 その行動原理を考えれば、慎重なのも頷ける。しかし逆に生い立ち故に、あの場では人目を省みずに戦ってしまった、といったところか。
 彼女の【 使神 シシン 】――《万里鏡 カレイド・スコープ 》によってあの一帯への撮影の妨害工作は間に合ったが、不覚にもそれで自身への映像記録を失敗してしまった。試しにリプレイしても再生不能だ。不特定多数への介入だったので、全力を使ってしまったのが痛かった。
 故に正体を完全に特定し切れない。
 果たして《ファントム》の正体は……
 心配だった。彼は『自らが定める悪』への断罪で、目が曇ってしまっている。
 間違いなく疑似【 使神 シシン 】に憑かれている。
 主と『使い魔』の立場が入れ替わっている。だが、逆に上手くすれば無傷で救えるはずだ。
 少年の顔が脳裏に浮かんだ。
「……無茶だけはしないでね、刀路」
《ホークアイ》は親指の爪を噛んだ。祈るような気持ちであった。
 自分は彼の敵ではないのだから――

 

       

 

「ありがとうございました!」
 刀路は深々と一礼してジムから辞した。中堅のボクシングジムである。
 年配の会長が刀路の背中に声をかける。
「ごくろうさん。そうだ、お前もう十七になったんだから、ちゃんと真剣に考えておいてくれよ!! お前なら絶対にいいところまでいけるからよ! 俺が保証するぜ!!」
「あっ!! 待ってよ刀路ぃ! ちょっと相談があるんだけど!!」
 浅間ボクシングジム会長の孫娘である清香が、慌てて刀路を追いかけてきた。
 刀路は足を止めて、清香が追いつくのを待つ。
「会長には悪いけど、プロテストなら受ける気ないぜ。俺はプロ志望じゃない」
「ジムの後援会長も期待しているんだけどなぁ……、特にライト級は伝統の階級だし」
「いや、六十一キロまで絞るってのはキツイ」
「じゃあスーパーライト? 刀路のパンチならウェルターでも充分いけそうだけど、いかんせんリーチと骨格的にねぇ。それに一番大事なスピード考えるなら、やっぱ六~七キロくらいは落とした方がいいって。私の見立てじゃ、水抜きを頑張ればスーパーフェザーまで絞れると思うんだけどなぁ。新陳代謝が活発な十代の内ならね」
「ライトより更に一階級落とせってか。……って、おい、思い切り話が逸れているぞ」
「ゴメンゴメン。つい、ね」
 清香は茶目っ気たっぷりに、ぺロリと舌を出す。
「――で、相談って何だ?」
 刀路が本題を促すと、清香は一転して表情を曇らせた。暗い語気で打ち明ける。
「あのね、ここ最近さ。なんだかストーキングされているみたいなの。ホントは学校で相談するつもりだったけど、つい例の《ファントム》の件で忘れていて」
「勘違いや気のせいじゃなくてか?」
「私、これでもキャリア十年のボクサーなんですけど。気配くらいは読めるって」
「そうだな。気のせいじゃないか」
 清香は確かに客観的に見て可愛い部類に入る。長年ボクシングをやっているだけあって、細身で引き締まったスタイルもいい。彼女に気がある男子も数人は知っている。
「しかも気配っていうか。なんか妙な感じなのよ。ゾゾッと寒気がくるっていうか」
 これまでは気のせいかも、と考えていて深く考えないようにしていたけれど、学校のトイレの件で、はっきりと危機感を持った。愛犬の名が書かれたメモの件は、少し考えた末に言わないでおく事にした。下手をすればホラーとして受け止められかねない。
「相手に心当たりはあるのか?」
「うん。ウチの学校の男子。いや、学校制服だけ着た不審者って線もあるかなぁ……。でも間違いなく若い男の子」
「強そうか?」
「体格的にはやや痩せてるけど、普通。身長は刀路より頭ひとつ分は低いかな?」
「チビだなソイツ」
「刀路の身長が伸びたんだって。もう百七十五は超えているでしょ」
「浅間だったらそこいらの男くらい、軽くノックアウトできると思うけどな」
 なにしろスピードと正確さが違う。専門的な防御技術がない不良の一人や二人程度、顎先を簡単に打ち抜いて一秒でKOできる。
「そんなの組み付かれたらわからないわよ。男相手だと、私の腕力と体重じゃかなり厳しいかも。柔術やレスリングも齧っている刀路とは違ってね」
「知っていたのか」
「まあね。筋肉の付け方も足とかボクシング専門に見えないし。週一くらいで道場に通っているみたいだけど、MMA――総合格闘技を志望しているの?」
「プロ格闘家そのものに興味がない」
「……なのに、よくそこまでできるね」
 清香は納得がいかない。
 一年前とは別人そのものの身体つきだ。中学王者だった剣道家の頃とも違う。ステロイドを使わずに、たった一年足らずでよくぞここまで鍛え込んだものだと感心する。いくら疲労回復に優れた若さ絶頂期の十代後半とはいえ、清香の目にはオーバーワークにしか映らない練習量である。しかし、着実に一足飛びの速度でメキメキと強くなっている。けれど、プロのリングが目的でないのならば、いったい何の為に?
 間違いなく遊びや趣味ではない。取り組む姿勢や、強さに対する飢えは、本物だ。
「単なる趣味だよ。気にするな」
「どうしても気になるけどね。趣味には見えないから」
 だから真顔で強く忠告する。
「まさかとは思うけど、間違っても喧嘩になんて格闘技を使わないでよ? まともにスパーの経験もないド素人の頭部を殴ったりしたら、刀路のパンチだと打ち所が悪ければ一発で殺しちゃうんだからね? プロ云々じゃなくその辺はちゃんと自覚してよ」
「分かっているよ。それより今は俺のことよりも浅間の問題だろ。そのストーカーをとっ捕まえればいいんだな?」
「そうだけど。……ずいぶんと簡単に安請け合いするものね。普通だったら警察に相談しろとか言わない? いや、受けてくれて助かるけどね」
 清香の言葉に、刀路は不敵に笑った。
「最近はトラブルシューティングもやっているんだよ。――単なる趣味でな」
 ゾクリ、と清香の肌が粟立つ。
 それは飢えた猟犬を想起させる笑みだった。

 

       

 

 その日の深夜――十二時。
 清香はジム前で刀路を待っていた。約束通りに刀路が来た。
「家の方は大丈夫か?」
「無警戒だった。刀路はいいよね一人暮らし。ね、また今度遊びに行っていい?」
「家庭教師が来ている時間でいいならな」
「げ。勉強は勘弁してよ。っていうか家庭教師なんて雇っているんだ。道理でロクに学校に来ない、授業中寝てばかりの問題児だっていうのにテストでいい点取れるわけだ。そうまでして高校に通い続けるってのも不思議だけど。いっそ大検でいいんじゃない?」
「中退しちまったら、ひふみが悲しむだろうからな」
 重たい言葉。清香にもズシリとくる。
「……そっか。ゴメン」
 つい進学について探りを入れたくて余計な傷に触れてしまい、清香は謝った。せっかくいい雰囲気だったのに減点だ。よりによって――亡き詩燈一二三を思い出させるなんて。
 しかし、すぐに気を取り直す。この事件はまたとないチャンスなんだ。どんなに刀路が想っていてもひふみは所詮もういない人間だ。すなわち残る恋敵は佐倉美月のみ。そして美月は佐倉家の人間として決定的に負い目がある。強敵には違いないが、勝算は充分だ。
 刀路との距離を恋人近くまで近づけてみせる……ッ!!
 そんな内心などおくびにも出さず、清香は失言に落ち込んだ表情を演出する。
「ホントに無神経でゴメンね? 許して」
「謝る必要はないよ。実際、俺のやっている事は全部自己満足だ」
「そんなモンじゃないの? それをいったらウチのジム経営や、私のボクシングだって自己満足っていう名の夢だもん」
「自己満足っていう名の夢、か……。なんかいいコト言うな」
 刀路の頬がほころんだので、清香は胸の内でガッツポーズする。
「うん。私もそう思った」
 そして、二人は特に目的地もなく、深夜の街並みを歩き始めた。

 

 この夜の散歩は、単純にストーカーに餌を撒く為だ。
 流石にいきなり今晩中に釣れるとは思っていない――が、そのストーカーが本物の異常者なら喰い付いてくるはず。逆に喰い付きが悪いのならば、大した脅威ではないだろう。
 コンビニに寄ったり自販機でジュースを買ったりと、仲睦まじいデートを装う。
 途中でメールが届いた。美月からだ。後で返信しなければ、と記憶する。
「……どうしたの刀路」
「いや、別に」
「さっきのメールでしょ。美月からの?」
「違うよ」
「本当? だったらいいけど」
 冷えた空気に、感覚が鋭敏に働いた。
(……なるほど。確かに『感じる』な)
 さっそく刀路の『感覚』が当たりを告げた。これなら清香が言った『寒気』も納得だ。
 しかも、どうやら『獲物』のようだ。
 ついている。まさかこんなに短いインターバルで次の獲物にありつけるなんて――
 刀路はほくそ笑む。獰猛に。冷酷に。
 すると清香が寄り添って大胆にも腕を絡めてきた。いいタイミングでの挑発だ。
 感じる殺気が倍増する。これならば、もう一押しすれば決定打になるだろう。
 予定では彼女の自宅前まで帰ってきて、今夜はこれでお終いのはずだった――が。
「浅間。先に謝っておく」
 清香の反応を待たずに、刀路は清香を抱きすくめてやや強引に唇を奪った。
 驚きに清香の目が見開かれ――そして、すぐに力を抜いて全身を刀路に委ねる。
 清香の頬が紅潮する。刀路の背中に腕を回そうとした時、刀路はとっさに清香を引き剥がして、素早く後ろ手で背中に庇った。黒い塊が超高速で向かってくる。
 獰猛な犬が、前触れなく二人に襲い掛かってきたのだ。
 顎を縦に開いて、ナイフのような牙を剥く。
「ギャゥン!」と犬の悲鳴。
 刀路は猛犬に右の蹴りをカウンターで喰らわせ、辛うじてその牙をやり過ごした。
 しかし着地した犬には、微塵もダメージは窺えない。
 想像を超えた光景に、清香は呆然と立ち竦む。紅潮していた顔は青ざめていた。
「な、な、な、なに? なんなの?」
 震える声で清香が狼狽える。
 刀路は清香の問いには答えず、油断なく身構えて告げた。
「おい、コソコソ隠れていないで出でこいよ。――とっくに分かっているんだぜ」
 すると刀路が睨む電柱の影から、学生服姿の痩身の男がゆらりと姿を現した。
 少年だ。そして着ている制服は刀路たちと同じ学校の物である。
 彼は嫉妬に狂った目で刀路を睨む。
「アイツか?」との短い確認に、清香は頷いた。
 どうやら彼がストーカーで確定のようだ。

 

「……戻って来い。《ヘルハウンド》」

 

 その命令に従って、犬は主人であろう少年の元へ素早く戻った。
 黒い猟犬――雑種だろうがドーベルマンを彷彿とさせる外見である。どうやら《ヘルハウンド》と名付けられているようだ。
 猛獣は四肢を張って戦闘態勢を立て直す。
 男は犬の頭を撫でながら、憎しみを込めた目を刀路とその背後の清香へ向けた。
 やや痩せている平凡な外観の少年だ。造形としてはいかにも気弱で覇気がなさ気なのに、彼は異常な闘争心と殺気を発している。
「……お前が犯人か」
 刀路の誰何に、男は大仰に首肯し、名乗る。

 

「俺の名は――《ファントム》」

 

 清香はその冷たい響きに怯んだ。だが、刀路は怯むどころか嬉しそうに口角を上げる。
 確かに朝見たスマートフォンの画像に写っていた少年と同一人物である。
「どうも、見たところ元イジメられっ子が、あの黒い犬の悪霊から力を得て不良に復讐していたみたいだな」
《ファントム》は刀路ではなく、後ろで怯えている清香に問いかけた。
「ねえ、やっと君を見つけたっていうのに、俺が今度こそ君を守ろうとしているのに、ソイツは誰なんだ?」
「ご想像にお任せするよ。路上のキスくらいで満足している関係かどうか、な」
「……そういう事か」
 少年は判りやす過ぎるくらいに全身をブルブルと震わせて、嚇怒を露わにする。
 傍の猟犬も口腔を振るわせて凶悪に唸り、全身から禍々しい漆黒の風を放つ。
 吼えたのは、犬ではなく主人だ。
「よくもっ!! よくもよくも、よくもよくもよくも、この俺を裏切ってくれたな! 信じていたのにぃィっ! よくも俺の愛情を裏切ったなぁ!!」
 刀路はそんな《ファントム》を嘲笑った。
「あのな。妄想の中だけで勝手に友達や恋人になった気になるなよ。浅間はお前の事なんて知りもしねーってよ。勘違いのストーカー野郎」
 もちろん説得が目的の台詞――ではない。
 会話が成立しない相手だというのは、とっくに承知の上だ。
「うるせぇぇええええっ!! 黙れぇっ!」
《ファントム》が飛び込んできた。
 遠方から一気に懐に入ってのダッシュナックルを、刀路の胸の辺りに見舞おうとする。
 その速度に清香が戦慄した。ネットで流れている画像はウソではなかった。
 背後に付き沿っている少女の霊へ、刀路は念じる。

 

 ――さあ、霊力(チカラ)を貸してくれ、ひふみ。

 

 刀路は身体の中の霊的な核に、不可視の力――霊力が供給されてくるのを感じ取る。
 ひふみの霊からの力だ。それを体内で循環させた。
 その霊力を活性化させる。加減しないで全開で肉体に作用させる。
 結果、霊的作用が肉体に働く。刀路の身体機能が一気に跳ね上がった。
 準備は完了だ。
《ファントム》が繰り出したダイレクトの右パンチを、刀路はガッチリとブロックする。
 刀路はすかさず反撃に移る。ジャブ二発を丁寧に顔面へと伸ばし、継いで右ショートフック。全弾、鮮やかにクリーンヒットだ。
 ダメージでぐらついた《ファントム》が、苦し紛れに左のローキックを当てる。
 だが、腰の入りが甘い素人キックを刀路は無視しすると、アッパー気味の左フックを顔面に叩き込んで《ファントム》を吹き飛ばした。
 高々と舞った《ファントム》は、どうにか空中で一回転し、体勢を立て直して着地した。
 あまりに現実離れした光景に、清香は唖然となって悲鳴さえあげられない。
「くそっ! いけ! 《ヘルハウンド》!!」
 このままでは負ける、と判断した少年は刀路に獣――使い魔をけしかけた。
 猟犬は黒風を纏って砲弾と化す。
 下がっていろ、と背中越しに清香に告げ、刀路も漆黒の犬に向かい姿勢を低くして走る。
 低く唸り、刀路は左腕を水平に振るう。
 刀路の左手の軌跡をなぞるように、深紅の炎が一閃し、そのまま剣として固定化された。
 右手でその炎の剣を握る。
 黒犬――《ヘルハウンド》が、刀路の眼前で、高々と頭上に飛び上がった。
 明るい昼間とは違い、その速度と相成って夜の闇に犬のシルエットが溶け込む。
 獰猛な咆哮と共に、牙の列が降ってくる。
 刀路は炎の剣で迎撃した。
 再度空中へと跳ね上げられた犬の落下軌道を見極め、左ストレートを絞り込み、放つ。
 その右拳は直撃しなかった。インパクトの瞬間、犬は器用に身体を捻って威力を殺してしまったのだ。その上、猫のようにしなやかな着地を決めて、左サイドに回り込んでくる。
 今度は頭上ではなく、低く跳躍してきた。地面すれすれの低さだ。
 舌打ちしつつ、刀路は炎の剣をすくい上げた。
 が、正確に捉えられない。
 それどころか、交錯際に脛の肉を牙で削られた。赤い血が吹き上がる。
 抉られた足から力が抜け、刀路の身体が斜めに傾く。
「と、刀路ぃ!」
 右足の負傷に、清香が悲鳴をあげる。超常的な戦闘風景に圧倒されっ放しだ。
 なお敵の動きは止まらない。
 体勢を立て直した刀路は下段斬りを振るう。その斬撃も、黒犬はゴム鞠のようなしなやかさで、鮮やかに躱す。動きについていけない。完全に刀路は振り回されていた。
 刀路の下段斬りを掻い潜って駆け抜けた黒犬は、Uターンして再び敵を襲う弾丸と化す。
 どうにか反応して振り返る。
 黒犬が纏う黒い風が小規模な台風となった。
 突如、黒い猛犬の姿が左右に分裂する。
 超高速移動なので、完全には二つの姿を捕らえ切れないが、分身というよりは幽体離脱したような分離の仕方であった。
 二体の黒犬は刀路を中心に旋廻し、再び刀路の背後で一体に戻った。
 完全に背中を取られた刀路の反応が遅れる。
 振り向こうとして微かによろめく。右足を貫いた激痛が原因だ。
 一秒後には、再度二つの影が交錯。
 明白なダメージを受けたのは刀路の方だ。
 猛犬は振り子のように戻ってくる。
 反応が遅れて振り向いた刀路の首筋に、獣の牙が突き刺ささろうと――

 

       

 

「すまないが、すぐに新しい任務だ」
 関東局本部の長である男性と、彼に付き従う補佐の女性が、上司として緋文に命じた。
 S県から関東局本部に戻ってきた彼女を待っていたのは、早くも次の任務だった。ただし、今回は関東圏内の任務であるので、移動は楽な部類に入る。
 可能ならば愛車(バイク)で移動したい。
「――了承しました」
 腰まで届く長い黒髪の少女――《ブレード》のコードネームを与えられている、幼き霊能エージェントは、小気味よい音を立てて踵を揃えると、即答した。
 ハードスケジュールに不満の色はない。
 それよりも義父 ちちを自称するこの男に食わされた料理の味の方が、よほど不満であった。
 とはいえ、此処にプライヴェートを持ち込むのは厳禁だ。
「今度の任務は貴女にとって特別なものとなるかもしれないわ」
 男性ではなく、補佐の女性がそう告げた。
「特別、ですか?」
「ええ。今渡したその資料の中に《ホークアイ》の能力によって撮影記録された映像がプリントされているわ。箇所は三ページ目です。すでに彼は十数件もの事件を起こしているわ。暫定的に【ケースDD】として認定しました。近日中に新たな案件発生もありえます」
 ぱらり。手元の資料の頁をめくって見る。緋文は微かに息を飲んだ。
「まさか、わたしを疑っているのですか?」
「違うわよ。つまらない誤解をしないで。私たちが言いたいのは、この事件が貴女の過去を探る手懸かりになるかも、という事。特に貴女の肉親について、ね」
 過去と家族。しかし緋文は淡々と言った。

 

「知りたいと思った事も、会いたいと願った事も、ただの一度だってありません」

 

 なぜなら――自分は、奴らを狩る殺戮機械 キリング・ドール としての生しか、興味がないのだから。

 

       

 

 猛スピードで黒犬が刀路の首筋に飛びついた瞬間だ。
 まさに巨大な牙が突きたてられる寸前。
 真紅の炎が爆発的に吹き上がった。

 

 ――二本目の炎の剣である。

 

 爆炎が猛犬の黒い風を吹き飛ばし、業火で包み焼く。刀路が一本目から分裂させた、二本目の炎の剣で犬を刺し貫いた――のと同時に、鮮血を想起させる紅い炎が発生したのだ。
 炎が唸る。ゴォォォォゥゥウウォオッ!!
 悲痛な断末魔を残して、あっという間に《ヘルハウンド》は炭化した肉塊となった。
 僅か数瞬で焼き尽くした。
「ぐぅぁああぁああぁああぁあぉぉおおっ!!」
 悲鳴があがる。下僕の猟犬を焼き滅ぼされて、主人である《ファントム》が苦悶し始める。
 苦しげに頭を抱えて両膝を地面につく。
 そこへ、刀路は容赦なく《ファントム》の頭を蹴りつけて、気絶させた。
 死んではいない。それで充分だ。霊力の供給源である《ヘルハウンド》を失った以上、彼が以前のように霊的能力を発揮できないのは、経験的に分かっていた。
 これで今宵の狩りは終わりだ。
「い、い、今の、なに? 燃えた、よね?」
 清香が驚愕と動揺の声をもらす。
 手品やトリックとは思えない凄まじい火力。あの大きさの犬をほぼ一瞬で焼き尽くした。
 炎の剣を収めた刀路は、底冷えするような声色で言う。
「安心しろ。取り憑いていた悪霊を焼き払われただけで、本体は別に死んじゃいないから」
「悪霊?」

 

「俺は悪霊を赦さない。俺からひふみを奪った存在は全て消す。そう――決めたんだ」

 

 憎悪も露わにそう告げる少年の双眸は、暗く深く濁っている。
 清香は息を飲む。
 寄り添う少女の霊は無表情のままだった。

 

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ここまでの解説

ようやく時系列が作品の中核へと入った。

第一章、第二章の中でも独立して起承転結をつけているつもりだ。

この第二章にあっても、まだ主人公とヒロインは出逢っていない。その上、主人公の人間関係が大きく変化している。主人公自体も第一章とは別人になり果てた。そして、プロローグの主人公とも様相が異なる。

ここからの物語で、主人公とヒロインはプロローグでの関係を目指していく。

改めてプロローグと第一章を読み返せば、もう主人公にとっての「真の最愛の少女」が誰かは、この時点で瞭然だと思う。それに気が付ければ、この作品は主人公とヒロインが出逢う物語であると同時に、真ヒロインとの別れが描かれたストーリーだとも解釈できる。

そこへ、どう(意図的に)ストーリーラインを(プロットとして)コントロールしていくのか、更に読み進めて研究してみて欲しい。

 

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