【モンスター】井上尚弥がピカソに判定勝ち、4団体統一王座V6【Sバンタム級】

さあ、戯れ言《

キャリア初の連続判定
“モンスター”井上尚弥が、サウジアラビア・リヤドシーズン4「ナイト・オブ・サムライ」にて、世界戦の連勝記録歴代1位を更新した。勝利数でも歴代3位。1位はあのチャベス、2位はかつて撃破したナルバエスだ。試合内容というかポイント自体は文句なしだった。しかし、それは当たり前の話であり、PFP1位への返り咲きを狙う井上にとっては、序盤から中盤でのKO圧勝を求められていた相手が、このピカソ。前回の難敵MJとは異なり非力なピカソを相手に、井上は不本意な連続判定勝ちをレコードに残す結果となる。
12月27日
会場:サウジアラビア・リヤド
4団体統一世界Sバンタム級タイトルマッチ
判定3-0(120-108、119-109、117-111)
勝利 4団体統一王者
井上尚弥(32=大橋)
戦績:32勝(27KO)無敗
VS
敗北 WBC同級2位
アラン・ピカソ(25=メキシコ)
戦績:32勝(17KO)1敗1分
※)井上はWBC/WBOはV7、WBA/IBFはV6
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世界戦27連勝で連勝記録樹立
偉大な記録である事に間違いはない。
惜しむらくは、振り返ってみると対戦相手に「後の偉大な王者」「井上より評価が上だったライバル」が不在な点である事ではなかろうか。Sフライまではナルバエスのみが有名で、あとは大した相手はいなかった。バンタム時代を見渡すと、ロドリゲスがそのポジションに昇りつめてくれればと思ったが、IBF王者に返り咲いた後、西田に敗北を喫してフェードアウト。モロニ―も武居と天心に敗れる。ドネアは当時36歳と全盛期とは言えない。
フルトンも後に偉大な王者に返り咲く、と思いきや、体重超過したSフェザーでフォスターにレッスンされて価値が大暴落。タパレスも中堅クラスだし、MJが再起後にどういったキャリアを再構築するかに掛かっている。
2026年5月、東京ドームでの対決が期待されていた中谷潤人も、なんとSバンタム昇級1戦目で価値が大暴落するという悲劇。バムことジェシー・ロドリゲスとはタイミングが合わなかったし、対戦相手の顔ぶれ的には不運としか言い様がない。
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評価が乱高下する井上
前回のパーフェクトな試合運びで、井上の評価はマックスまで高まった。それまでの数戦の試合内容(の不安視)からピークアウト説が囁かれる程に各所から懐疑的な声も出ていた状態からの、劇的な評価回復である。MJ戦での試合内容により、井上尚弥は衰えてなんかいない、誰も彼には勝てない、という称賛の雨が彼に降り注ぐ。
で、今回の相手であるピカソは完全な格下。
なにしろ「あの」亀田京之介とどっこいどっこの試合をしている。まだまだ練習不足が指摘されている京之介のスタミナが、仮に十分だったのならば、ピカソに勝っていたかもという上々の立ち上がりであった。まあ、案の定、早い段階で露骨にスタミナが切れてピカソにポイントアウトされて負けたが。でも内容はそんなに悪くなかった。
京之介に話は逸れているが、ネリ⇒ピカソ⇒カシメロと確実に成長している。
ピカソが京之介と試合したのはフェザー契約とはいえ、亀田家最弱の京之介と判定までいった相手に、井上としては判定までいくのは許されなかった。ぶっちゃけ井上は亀田家が好きではないので、京之介との比較としてもKOは必須だったのだ。
しかし判定までいってしまう。
ポイントと内容は完勝でも、ダメージを与えられずに。悲しい事に、京之介がピカソにヒットした右の方が威力がありそうだった。
フェザーは「このまま」だと厳しい
井上尚弥のKOパンチは神業である。
タイミングと精度および角度が「効かせる」ことに突出しているのだ。それに加えて、骨格的な適正階級であったバンタムでは物理的な威力も十分。Sフライ~バンタムにおいては、間違いなくオールタイムナンバーワンのKOパンチャーであり、総合力でも歴代1位の強さと言える。普通に伝説級だ。
しかし適性階級を超えたSバンタムでは話が違っていた。
頑張ってビルドアップして力いっぱい打ち込んでも、ヒット音は派手な反面、あまり芯からダメージを相手に与えられない。着弾時も破裂音に近い感じで、どずん、ゴツンという鈍い音とは違うし。そして、バンタムまではやっていた破壊的なボディショットでのダウンシーンがないのだ。
頭部へのパンチでダウンを奪うシーンも、相手の意識外からのカウンター気味なパンチがほとんどだ。タパレス戦のKOパンチなんて、右ストレートが偶然テンプルに当たるという、珍しい一撃。当たり方もちょっと変だった。
井上と同じく下の階級から上げてきた相手には、それなりに威力ある感じに映っていたパンチが、生粋のSバンタムスタートの相手には、あまり効かせられなかった。
今回のピカソは173センチで最初からSバンタムのボクサー。しかし非力でフェザーで世界戦やるには明らかに線が細い。この相手をKOできないとなると、170センチ台のフェザー級世界レベルはかなり厳しいと言わざるを得ない。
出入りを駆使してポイントアウトを狙えば勝てるかもしれないけれど、ピカソ戦を知っている相手は、井上のパンチお構いなしにガンガン距離を潰してくるだろう。MJはスピード差とジャブで位置取りをキープできた。だが井上と身長が大差ないMJとは異なり170センチ超のフェザー級ボクサーだと、井上のパンチではおそらく止まらない。
そしてエスピノサには確実に敗ける。
フィジカルと物理的パンチ力の重要度
亀田和毅がアンジェロ・レオとの世界戦で序盤のポイントを落としたのは、フィジカルとパワーが通用しないのではという不安から、いけなかったかららしい。
だが、レオに対してフィジカル負けどころかフィジカルと身体のパワーで勝っていると実感した和毅は、中盤から後半にかけて追い上げた。敗戦後でも「惜しかった」とポジティヴなのはスペック的に劣っていないという実感からと推察できる。
事実、和毅は判定で何度も試合を落としているが、フィジカル負けや馬力負けした場面はない。前に出ても空転させられるシーンや誤魔化されるシーンは多いし、ミドルレンジでの攻防で無駄に見合って後手を踏む事もある。それでも技術的に歯が立たずにスクールされる事もなければ、打ち負けて効かされた事も皆無だ。
だから自信を失わないのだろう。
失礼ながら、何度も何度もスペックと技術で劣っていない相手に繰り返し判定を落とす失敗をするのは、いい加減に学習して欲しいと思うが。
今回の井上尚弥と中谷潤人は「いいパンチを入れても」効かせられなかった。
中谷にいたってはフィジカル負けして、パンチをキレイに当ててもそのまま押し込まれていた。2人ともに高いKO率を誇る強打者という評価だ。いいパンチを入れられなかった、ならば心理的にはマシである。それを教訓に修正して、次はパンチを入れれば良いのだから。
だが、井上と中谷は「パンチを入れても」効かせられなかった。
シャクールみたいにKO度外視のスタイルなら問題はない。だが2人ともKOを狙うスタイルだ。井上はMJ戦の後、「倒しに行かないのは難しい」とコメントしていたが、裏を返せば「リスクを負えば倒せていた」という自負があったのだろう。傍目にはボディ3連発をジャストで入れてもダウンを奪えず、上へのパンチは「外傷は派手めでも」欠片も効かせられていなかったが。信者補正なしでは普通に非力な部類だ。
今回、井上はピカソを「倒しに行って」ダウンを奪えず、効かせる事すらできなかった。フェザー級という選択肢が目前に迫っている中、これは自信が揺らぐ結果かもしれない。打っても打っても効かせられないのは、ショックだと思う。それは中谷も。
残酷な話、今すぐ2人がフェザー級で和毅と対戦したとして、2人とも判定勝ちはできるかもしれないが、KOどころか1度も効かせられない可能性が極めて高い。
PFPという言葉が虚しい。井上と中谷は引退したクロフォード、現役のシャクールやジャロン・エニスといった「スペシャルな存在」と同じ場所には立っていなかったと示されたのが、かなりショッキングでもあった。
東京ドームの中谷戦は?
日本ボクシング史上で最大のビッグマッチが、この夜で一転、ペチパン対決になってしまったのは痛恨である。両者の信者以外のファンは白けてしまった。
エルナンデス戦の大苦戦で、皮肉にも中谷は懸念されていた打たれ強さは証明できた。ボディは弱そうだが、井上のボディショットの本当の威力はMJ戦のトリプルで分かっている。まあ、井上のボディ打ちでは倒せないだろう。
それと同様に、中谷のパンチが井上に効くこともなさそうだ。
切ない事に、ダウンシーンなしの大差判定で井上が勝つ可能性が最も高い。
PFPランカー対決、というか、もう実相としては「ピカソを効かせられなったペチパン」対「Sバンタム初戦でメッキが剥がれた者」という盛り下がった構図になっている。ここから数戦、互いに仕切り直して共に評価を持ち直してからの対決が理想だが、32歳の井上にそこまでの時間は残っていないしなぁ。
エルナンデス戦で完全に底を見せてしまった中谷も、次戦で井上に負けたとしても「そりゃそうだ」という乾いた所感しか持ちようがないという悲劇。ワイルダーとジョシュアが無敗の時にやっていれば、と後になって虚しく思った時の感覚にそっくり。
マジで、どうしてこうなった。

