【8回KO】ホープ中谷潤人、世界初挑戦で田中恒成の後継王者に【WBOフライ級】
さあ、戯れ言《
【引用元――ボクシングニュース(ボクシングビート編集部)より抜粋】
“愛の拳士”が令和初の世界王者に
ニックネームは“愛の拳士”だ。誠実な好青年が売りというか、キャラ作りではなく本来の素であろう。無敗街道を進んでいたが、全国区での頭角を現すのは遅い方であった。
それでも知名度が上がってくるのに比例し、その才能と実力も認められる様になり「次期世界王者候補」としての地位を確立していた。そして無敗のまま迎えた21戦目――決定戦とはいえ、見事に令和初となる日本人世界王者の誕生となった。
中谷のチャンピオンロードは、真のボクサーとしての歩みは、この日から始まる。
11月6日
会場:後楽園ホール
WBO世界フライ級王座決定戦
KO8回2分10秒
勝利 同級3位
中谷潤人(22=M.T)
戦績:21勝(16KO)無敗
VS
敗北 同級1位
ジーメル・マグラモ(26=比)
戦績:24勝(20KO)2敗
※)中谷は世界王座を初獲得
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期待のホープ、中谷潤人とは
元々は空手少年であった。中卒でプロボクサーに人生を賭けるとか、家族のバックアップとか、礼儀正しい好青年とか、そういった要素はあえて触れないでおく。
最初に入門したボクシングジムは、往年のファンならば知っている元OPBF東洋太平洋Sバンタム級王者、石井広三(31勝21KO4敗、故人)のジムだった。中部地方で絶大な人気を誇っていたハードパンチャーで2度の世界挑戦経験もあった。
最初の師は「あの」石井広三
石井広三の指導の下、中谷は中学2年と3年次に全国U-15ジュニアボクシング大会を連覇する。その実績が決意を後押ししたのだろう。高校に進学せずに単身アメリカへ留学。名トレーナー、ルディ・エルナンデスや岡部大介から指導を受けた。
16歳になると、岡部に勧められたM.Tボクシングジムに入門(家族と共に神奈川県に移り住む)して、そこからプロデビューする。
プロデビュー後の歩み
新人王にエントリーしたのはデビュー年ではなく6戦目から(5勝4KO)
8戦目で東日本新人王(8勝7KO)、9戦目には後の日本Lフライ級チャンピオンになる矢吹正道(薬師寺)に判定勝ちしている(9勝7KO、日本ランク入り)
13戦目には後の日本フライ級チャンピオン、ユーリ阿久井政悟(倉敷守安)を6回TKOに葬り、初代日本フライ級ユース王座に輝いている(防衛0で返上)
この時点で13勝10KO無敗
そこから17戦目まで手頃な相手にキャリアを重ねて、17勝12KO無敗
この期間、中谷はボクオタに知られていく。
14戦目の試合(1回KO)
18戦目に望月直樹(横浜光)を9回TKOにて下し、日本フライ級王座決定戦をものにして世界挑戦が現実的な位置まできた。結局、この王座も防衛せずに返上。
世界挑戦(当時のターゲットは最も世界ランクが高かったWBC王座)に狙いを定める。
そして19戦19勝14KOまでレコードを伸ばし、テストマッチに臨む。
相手は元IBF世界ライトフライ級王者でWBC世界同級12位のミラン・メリンドだ。八重樫東を1回KOし、その後、田口良一と寺地拳四朗に敗れている。
元世界王者ミラン・メリンド戦
6回TKOで見事に撃破。
これでゴーサインだ。
満を持しての世界挑戦となる。新型コロナの影響で、何度も延期になったが、ようやく運命の日を中谷は迎えた。最速三階級王者、田中恒成が返上したWBO世界フライ級の王座決定戦である。
本来ならばWBCの決定戦を狙う予定だったが、(当時のフライ級最強だった)田中の返上(Sフライへ進出)および現WBC王者マルティネスの強さを思えば、幸運の部類に入るマッチメークだろう。WBA王座とIBF王座へのアタックでも、今の中谷ならば負けないとも思うが。
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期試合内容を振り返る
初回から威力のある左ストレートを好打した中谷がペースを掴む。
長身(フライ級で171センチ)の中谷に対して、頭を低くして懐に潜り込もうとするマグラモであったが、コンパクトなショートブローを回転させる中谷に対して、思う様に接近できない。
クロスレンジ、ミドルレンジでも中谷のアッパーとフックが有効で、マグラモは明らかに打ち負けていた。また新型コロナの関係で日本入国後に義務付けられている「二週間の隔離」が調整に響いているのか、マグラモのコンデイションは不調っぽい。中谷がマグラモの良さを殺している戦い方をしている点を差し引いても、ベストではないだろう。
ロングレンジは中谷の独壇場。
全ての距離において、中谷は的確なブローを決めていく。ショート、中間距離、ロングとパンチを技術的に打ち分けられるのは強みだ。ロングパンチは得意だが、ショートで打つのが苦手という長身ボクサーは多い。しかし中谷にはそれがない。
6回頃から「これは時間の問題だな」という雰囲気が漂い始める。
コーナーに戻るマグラモに覇気がない。
8回にマグラモをマットに沈める
文句のなしのKOフィニッシュだった。
KOパンチよりも呼び水となった左ショートアッパーが素晴らしいと思った。
今時は「世界タイトル獲得=ゴール」ではなく「真のボクサー人生のスタート」だ。中谷は22歳という若さ。21戦のキャリアと初の世界タイトルを引っ提げて、ここから世界戦線に殴り込みをかける。
この試合での中谷の強さ
ハンドスピードと回転力はあるが、足と体のスピードはそれ程でもない。
TV映えはしなく、俯瞰して観ると「ややもっさり」とした印象だ。相対した相手には「速く感じる」動きだと思う。
世界レベルでは遅い部類に入るかも。とはいっても、回転のある強打とリーチおよび上背があるので、必要以上にスピードに依存するスタイルではないだろう。相手よりも「ほんの少しだけ」速く動くだけで、中谷ならば充分に先手を取れる。ただし、同等の身長とリーチを持つ相手にスピード負けした場合を想定すると、少し不安を残す。
前途した様に、ショートからロングと距離に応じてパンチを打てる。
そしてどのパンチも多彩で手数も出せる。
ロングレンジでこそ本領を発揮するタイプだが接近戦でもかなり強いので、マグラモみたいなミドルレンジから接近戦で打ち合うボクサーは何もできなくなる。
際立っていたのが、接近戦でのポジショニングおよび頭の位置だ。密着したら、必ずマグラモが強打できない場所に、自分の頭を丁寧に置いていた。クリンチや揉み合いでもフィジカル勝ちしていたのも大きい。
ガードの低さも問題ないだろう。相手が打てないタイミングと位置関係でのみガードルーズにしてパンチの打ち易さを優先させている。
これからの中谷は――
次戦は指名試合になる見通しだ。
相手は元WBO世界Lフライ級王者、 アンヘル・アコスタ(21勝21KO2敗)
世界戦は4勝4KO2敗
敗戦は田中恒成に判定負け(17戦目)と、世界タイトル陥落(12回TKO負け)した22戦目の黒星がある。30歳のプエルトリコ人だ。
KO勝率が100%であるが、フライ級では最新試合のみなので、順当にいけば中谷が勝つと思う。それも終盤のノックアウトで。
対立王者は――
WBAがアルテム・ダラキアン
20戦20勝14KO(防衛4)
中谷が有利とみる。
WBA暫定のルイス・コンセプシオンは、暫定の二文字が取れない限り中谷との対戦はない。JBCは現在、WBA暫定の世界戦を認めていないし。
WBCがフリオ・セサール・マルティネス
17勝13KO1敗1NC(防衛2)
これには勝てないかな、と思う。現時点でのフライ級最強は彼だろう。
こいつのパンチはかなりヤバい。
IBFがモルティ・ムザラネ
39勝26KO2敗(防衛3)
対戦したら面白い試合になると思う。
いずれはSフライにクラスアップするだろうが、その時に田中恒成と交わるのかどうか。田中がバンタムに上げていなければ、是非とも激突して欲しいと願う。
ここから中谷がどれだけ世界戦で白星を重ねていくのか、非常に楽しみである。