【現役最高峰3階級王者】ロマチェンコがロペスのパワーに屈し4団体制覇ならず【WBA・WBC・WBO・IBFライト級】
さあ、戯れ言《
【引用元――ESPN/TopRank、新統一王者テオフィモ・ロペス】
史上5人目の4団体制覇王者
大方の予想を裏切り、不利なオッズをものともせずに主要4団体のベルトを束ねたのは、ボクシング史上最高傑作との呼び声が高い“ハイテク(精密機械)”ワシル・ロマチェンコではなく、23歳という若き新鋭にして“テイクオーバー(簒奪者)”の異名を持つ強打者テオフィモ・ロペスであった。
歴史的なアップセット――採点(特に10点差)については疑問の余地を残したものの、ロペスの勝利は動かしがたく、見事にファイトプランを遂行したと言えるだろう。
最年少での4団体制覇王者。バーナード・ポプキンス(ミドル級)、ジャーメイン・テイラー(ミドル級、ポプキンスから奪取)、テレンス・クロフォード(Sライト級)、オレクサンドル・ウシク(クルーザー級)という偉大なる面子に肩を並べた。
10月17日(日本時間10月18日)
会場:米ラスベガス、MGMグランド ボールルーム
世界ライト級4団体統一タイトルマッチ
判定3-0(116-112、119-109、117-111)
勝利 IBF王者
テオフィモ・ロペス(23=アメリカ)
戦績:16勝(12KO)無敗
VS
敗北 3団体統一王者
(WBAスーパー・WBCフランチャイズ・WBO)
ワシル・ロマチェンコ(32=ウクライナ)
戦績:14勝(10KO)2敗
※)ロペスは4団体統一、IBFはV1
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ロマチェンコについては過去記事で
◆合わせて読みたい◆
これまで当ブログでは、ロマチェンコの「ライト級でのアジャスト」に「?」を投げかけていた事もあった。懸念を払拭したと感じた試合もあったが、今日の結果からするとやはり「ライト級は適正階級ではなかった」という事になってしまうだろう。
間違いなく歴史上で最高峰のボクサーではあるのだが、その機能的スタイルは「サイズとパワーという決定的なハンディキャップ」を覆すまでには至らなかった。
とはいえ、この敗戦で過去の輝かしい栄光が陰る事は決してあり得ない。
だが、現役ボクサーとして「パウンド・フォー・パウンド」ファイターの格付けが下がる事は避けられない様に思う。今日を境に、GGGことゲナンジー・ゴロフキンと同じく圧倒的なオーラと神通力を失ったのは、ファンには残念であるが現実だ。
ロマチェンコとて永遠ではない。どんなスーパーボクサーにだって(勝ち逃げせずに戦い続ける限り)落日の時は必ず訪れるのだから。
新鋭テオフィモは一気に頂点を狙った
この日を迎えるまでの戦績は15戦全勝12KO
高いKO率とそれを疑わせない強打、コンビネーションにスピード、加えてディフェンスも固い未来のスター候補だ。特にカウンターセンスには目を見張るモノがある。
前IBF王者のリチャード・コミー(ガーナ)を2回TKOで粉砕し、最初の世界タイトルを獲得する。コミーも29勝(26KO)2敗と素晴らしいレコードを誇る強豪だったのだが、テオフィモはそのコミー相手に潜在能力を見せつけた。
ロペスの“衝撃KO3連発”
米スポーツ専門局「ESPNリングサイド」は公式インスタグラムに以下の映像を投稿。
①メイソン・メナード戦
②ディエゴ・マグダレノ戦
③リチャード・コミー戦
「トップランク」の公式インスタグラムより
リチャード・コミー戦のハイライト
まだ23歳で世界戦は1試合のみ。
ライト級には同年代の若きライバルが多いが、現時点では無理をせずに手頃な相手で世界戦のキャリアを積むという堅実路線もあった筈だが、テオフィモと彼の陣営はロマチェンコとの頂上決戦というギャンブルに打って出た。
その背景には減量苦があり、そう長い間、ライト級に留まれそうもないという時間との戦いがあった。新型コロナ禍の影響でキャリアの停滞を余儀なくされている今だから、その焦りは決して小さくなかっただろう。
仮にロマチェンコに負けても試合内容によっては評価は落ちないし、IBFタイトルを手放せば、もう迷わすSライト級に上げたに違いない。
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試合を振り返る
1R~6Rは全てテオフィモ
リングで対峙すると両者のサイズ差が目立つ。
フレームの違いと筋肉量。とても同じ階級のボクサーとは思えない。それに加えて、166センチしかないロマチェンコのリーチの短さは如何ともしがたい印象だ。
ロマチェンコのライト級での戦績は4戦4勝2KO――ではあるが、テオフィモほど大きい相手とは対戦していない。なんと4名全員がフェザーあるいはSフェザーから階級を上げてきている。
対して、テオフィモの適正階級はSライト。
単純にロマチェンコが過去に対戦してきた相手の中で、サイズとパワーは最強だった。背中の筋肉なんてウェルター級のそれだ。
ジャブだけでも射程距離とパワーが段違い。
ロマチェンコとはパンチの着弾音が別物だ。
これがライト級での本物の強打。
そして右フックも対策されており、テオフィモに対してサイドに回り込めず、ガードを上げて後ろに下がる展開が多くなる。右腕をチョコチョコと誤魔化しながら前に出すだけで、踏み込んだパンチが打てないでいた。いつものロマチェンコではない。
テオフィモのパンチ力とリーチ、そしてプレッシャーを前にして、防御に徹して逃げ回っているだけ、という評価しかできない消極的な戦いぶりだった。ぶっちゃけ、ロマチェンコはテオフィモのパンチにビビっている。
防御に徹しているのでテオフィモのパンチを外せるのだが、それでも右ボディは割ともらっていた。ガードの上からでも、見栄えの良いパンチを叩き込まれていたし。
リングジェネラルシップを考慮すれば、序盤というか前半の6回は全てテオフィモだ。
7Rからロマチェンコが出始める
覚醒前の村田涼太や亀田興毅よりも手数がないまま前半を終えたロマチェンコであったが、7ラウンド目に入り、ようやくポイントを取りにいく姿勢をみせた。
この回は互角といった感じか。
でもポイントはやはりテオフィモだろう。
8R~11Rにロマチェンコが反撃
ダウンを数回取るかKOでしかロマチェンコには勝ち目がない戦況で、ロマチェンコが一転してテオフィモを攻め立てる。
テオフィモを見切ったのか、リスクを恐れず次々とパンチを当てる。
ただし決定打には及ばない感じである。スキルの違いを発揮してはいるが、ダウンに至る気配はなかった。やはりパワーが足りない。この階級ではパンチが無さ過ぎだ。
ポイントとしては8~11Rの4つは、明白にロマチェンコが取っている。
攻勢を受けていてもテオフィモは冷静だ。イメージよりもボクシングIQとスキルが高いボクサーだった。またロマチェンコにスピード負けしていないのが大きい。
そして、最終12R――
テオフィモも意地を見せて、ロマチェンコをグラつかせる場面も。
表情からしてもテオフィモの方に余裕がある。ロマチェンコは死にかけといった顔だ。
ポイントはテオフィモだろう。
ロマチェンコのボクシングは相手が大きいと十全に機能しない事が露呈した。ライト級での5試合、Sフェザー級の頃の無敵感がすっかり消失している。
ALL ON THE LINE IN ROUND 12!!!
— Top Rank Boxing (@trboxing) October 18, 2020
Think these guys want it? Man ...#LomaLopez | LIVE NOW on ESPN pic.twitter.com/XquHwYUpnB
スタッツで見てみると
トータルでのヒット数は、ロマチェンコが141に対してテオフィモが183と上回っている。ヒット率とスキルではロマチェンコが上だったので、一見して僅差で競っていると錯覚するが、10ポイントマストシステムおよびリングジェネラルシップを加味して評価すると、普通にテオフィモがゲームを制しているのが判る。
ロマチェンコ | テオフィモ | |
トータル | 141/321(44%) | 183/659(28%) |
ジャブ | 63/149(42%) | 35/295(12%) |
パワーショット | 78/172(45%) | 148/364(41%) |
判定はユナニマスでテオフィモ
最大限ロマチェンコ寄りに採点してもドローが精一杯だと思った。
119対109はあり得ないにしても、僅差から中差でテオフィモの勝ちは揺るがない内容だ。ロマチェンコにしてみれば、前半の6ポイントがあまりに重過ぎた。
WHAT AN UPSET 😳
— The Action Network (@ActionNetworkHQ) October 18, 2020
Teófimo López (+315) beats Vasyl Lomachenko and hands the phenom his 2nd professional loss!
He is the undisputed lightweight champion of the world 🥊pic.twitter.com/1MpCKX2Na5
勝者と敗者の今後は?
リマッチが実現した場合、勝つのはどちらだろうか?
後半の追い上げを見るにロマチェンコがリベンジする可能性もあるが、ロマゴン対シーサケットⅡみたいに、今度こそ序盤にテオフィモの強打が爆発する気がする。
この試合も、序盤からロマチェンコが前に出ていたら、スタミナ全開のテオフィモのカウンターが炸裂してKOで負けていた可能性も低くない。後半まで待ったからこそ8R~11Rの攻撃が可能だった。とはいえ、12Rには逆襲に遭ってしまったので、余力もテオフィモの方があった筈だ。
試合後の情報によれば、ロマチェンコ陣営は再戦に前向きっぽいが、仮に判定でリベンジ成功したとしても、あまり評価は戻らない(ワンサイドでKO圧勝すれば別だが)ので、素直に適正階級であるSフェザーに戻すべきだろう。
テオフィモは再戦の必要性を否定。
あと数試合、ライト級に留まるとすれば、ガーボンタ・デイビス(米)=WBA正規、デビン・ヘイニー(米)=WBC正規、そしてライアン・ガルシア(米)といった「金になる相手」との試合が好条件で決まった場合か。保持しているIBFとWBOの正規王座は返上しなければ指名試合を課せられる公算が高い。
◆合わせて読みたい◆
ライト級で希望する試合が決まらないのならば、減量苦から解放される為にSライト級に主戦場を移すだろう。
テオフィモ・ロペス
「ニュージェネレーションが誕生したことを覚えてほしい」