【ワイルダーを】ヘビー級史上最強はフューリーに決定!について【フルボッコTKO】
さあ、戯れ言《
タイソン・フューリー(右)とデオンテイ・ワイルダー【写真:AP】
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戦前の予想は「KOならばワイルダー、判定ならばフューリー」という意見が大勢を占めていた。僕もそれは無難な回答だと思っていた。第1戦の内容というか、与えられたインパクトおよび印象がそういった方向性へ誘うのは自然な現象といえよう。
そしてワイルダーのKOロマンに惹かれる者達は、ワイルダーのKO劇を望むが故の予想になってしまいがちだったのだ。願望を予想と言い換える。かつて亀田興毅VS内藤大助で内藤のKO勝ちを予想する日本のファンが多かった様に。
だが、冷静(というか私情を排して客観的)に評価できる者は「高確率で亀田興毅が判定で内藤大助を封じ込めるだろう」と分かっていた(海外オッズも亀田有利)し、今回のリマッチもフューリーが圧倒的に有利なのも同様だったのだ。
KO決着そのものが意外だったのではない。
その気になればフューリーはもっとKOを量産できる力がある。だが、その必要がないので無理にKOを狙うスタイルではないのだ。今回、フューリーのKO勝ちが意外だったのは、ここまであからさまにフューリーがワイルダーをKOしにくる事、であった。本気のKO狙いのフューリーは、おそらくワイルダー以上の倒し屋だろう。それをそのワイルダー相手に証明したに過ぎないのだ――
2月22日(日本時間23日)
会場:MGMグランド・ガーデン・アリーナ
WBC世界ヘビー級タイトルマッチ
TKO7回1分39秒
勝利 元3団体統一王者
タイソン・フューリー(31=英)
戦績:30勝(21KO)1分
VS
敗北 王者
デオンテイ・ワイルダー(34=米)
戦績:42勝(41KO)1敗1分
※)王者はV11に失敗
第1戦目を振り返る
過去記事があるので、それを参照して欲しい。
◆合わせて読みたい◆
ぶっちゃけ、僕の私見では第1戦もフューリーの勝ちである。
試合自体は明らかにフューリーが制していた。ただ「普通のボクサー」や「一流の強打者」ならば、最終ラウンドのダウンは「ラッキーパンチ」で済ませてしまうが、「歴史上でもまれな超強打者」であるワイルダーにとって、アレは「割と普段通り」な光景だったりする。だから第2戦目でも再び同様のシーンが訪れるのでは? という期待感みたいなものは否定できないだろう。
ワイルダーのボクシング技術は異質にして異端そのもの。
並や一流止まりの強打者であれば「右ストレート1発を当てる事のみ」に特化というか、スキルを全振りしたボクシング技術はありえない。当然、その1発で試合が終わらない展開を考慮しなければならないからだ。よって後続打や別のパンチを当てるスキルや展開も必要となる。というか、ボクシングは基本、ポイントゲームだ。
しかしワイルダーは違う。KO勝率98%。彼にとってのボクシングはKOゲーム。その右1発で試合が終わるので、前途した異端なボクシング技術で勝利への方程式が成立してしまうのだ。
判定についての議論はさて置き。
初戦で互いの動きとスキルを学習・体感できた。
そのデータを第2戦(リマッチ)で活かせるのは、果たしてどちらなのか――
圧倒的なスキル&引き出し及びインテリジェンスの差
ワイルダーのKO幻想はマイク・タイソンの魔法と同質
ニワカにとっての「ヘビー級の史上最強」は、あの“アイアン”マイク・タイソンだろう。彼は本当に魅力的なヘビー級チャンプであった。
タイソンといえば、そのスピードおよびパンチ力、そしてコンビネーションだ。
そのセンセーショナルなKO劇の数々は、未だにオールドファンを虜にして止まない。
だが、ぶっちゃけるとマイク・タイソンは「現在のヘビー級世界ランカー」には勝てないだろう。 当のタイソン自身も「現在のトレーニング法を取り入れた自分なら分からない」と前置きした上で「過去のボクサーが今のボクサーよりも強いなんて事はありえない」「ボクシングのみならず全てのスポーツは進歩していくから」と述べている。これは意訳であり、実際のコメントはやや異なるが。
タイソンの攻略法はシンプルで明瞭だ。
ライバルであったイベンダー・ホリフィールドが実践して証明している。
パンチを恐れずに前へと踏み込み、タイソンのステップインを阻む。小柄なタイソンはその驚異的なステップインからの全身のバネで、あのパンチ力を生み出していた。タイソンは小柄でリーチが短いからといって、安易にアウトボックスせずに「ステップインしての強打」を可能とするスペースを彼に与えなければ良い、という逆転の発想だ。
これを実践されて、大柄の相手に押し込まれると、タイソンは何もできなくなる。
タイソンは基本的に相手の懐へ踏み込んでからのインファイトしかできない。昔のボクサーである事を差っ引ていもボクサーとしての引き出しは非常に少ないのだ。
衰え切っていたとはいえ、最後の(咬ませ相手の)KO負け2つは「マイク・タイソンのボクシングスタイルの幻想」を打ち砕くのに充分であった。
レノックス・ルイスにもワンサイドでのKO負けを喫しているが、あれはマイク・タイソン攻略法としては参考にならない。より大きく、よりスキルフルで、かつ大幅にパワーで上回っていれば、あの展開になるのは必然というか、ライト級のボクサーがミドル級のボクサーに挑んでも勝てっこない、という感じの試合だったから。
あの試合、パワージャブだけでタイソンはレノルイにコントロールというか蹂躙され、様々なタイミングで右カウンターのテストを繰り返され、どうにかタイソンが懐に潜り込めても、レノルイお得意のアッパーの餌食にされたという。遊ばれていた。「大金稼がせてくれてありがとう、そろそろ終わりにするかな」といった感じで、第8ラウンド、右カウンターをドンピシャで合わされて、タイソンは豪快に沈められた。全盛時だったら云々という以前に、完全に階級が違うボクサーの試合だった。
参考用として、フューリーのトレーニング風景をご覧あれ。
これを観て、マイク・タイソンの方がフューリーより強いとか感じてしまったら、それはそれで目と脳に問題があるだろう。
この恵まれた巨体で、ミドル級並のスピードとセンス抜群の滑らかさと柔らかさを兼ねた動きを披露している。4分50秒からのミット打ちなんて、ヘビー級とは信じられないシャープさ。AJやマイク・タイソンのトレーニング動画も凄いが、ヒューリーという存在は異次元過ぎる。
ワイルダーのKO劇も、かつてマイク・タイソンが演出した魔法に通じていた。
右ストレートを当てる為のプロセスは多数、持っているし、その右ストレートもバリエーション豊富といえよう。だが、下がりながらのパンチやカウンターで強敵を沈めたケースはなく、基本、ワイルダーが前に出ながら、もしくは相手を追い詰めてから右炸裂というケースが大半であった。
マイク・タイソンが小柄ゆえに成しえた超ステップインを利したダイナマイト・パンチと同様、ワイルダーの破壊的な右ストレートを生み出すボクシングスタイルを可能としたのは、その圧倒的に長いリーチ(射程)故である。
第1戦目でフューリーは分析したのだ。
ワイルダーよりもリーチのある自分ならば、ワイルダーを常に下がらせる事が可能=あの右ストレートをもらうリスクを極限まで減らせる、と。
入場シーン
互いにエンターテイナーだと感心した。
輝かしいフューリーのお洒落な(ファッション)センスを日本のボクサー達も見習って欲しいものだ。嫌々ながら弁慶のコスプレをして入場した亀田大毅くらいしか、このフューリーの入場シーンに匹敵する日本人ボクサーの入場シーンを見た記憶はない。
威厳に溢れた王様のコスプレ&黄金の椅子に座った状態で神輿に乗って進む神々しい姿。これぞ真の「ディス・イズ・ボクシング」だ。
クールだ。まさにクール。フューリーの姿に会場のファンは冷え冷えであった。大歓声ではあったんだけどなぁ。うぅ~~ん、このっ!
ただ、ワイルダーのコスチュームというか仮面に仕込んだ電飾は、少なからず試合に影響があった様な気が(汗。しきりに目を気にしていたもんなぁ、ワイルダー。
ホント、謙虚かつ優等生的な振る舞いが良しとされる日本人ボクサーは、興行というかエンターテイナーとしての勉強とファンサービスが足りないと思うよ、マジで。
試合はフューリーが圧倒
フューリーはL字ガードからの左ジャブを起点に、前へ出てプレシャーをかけていく。
パワフルなフリッカージャブにワイルダーは威嚇されたかの様にも見えた。
新スタイルというか、その気になれば強引なパワーボクシングも可能な「引き出しの多さ」がフューリー最大の強みである。そして体重は123キロ。筋骨隆々とはいえ身長からすると痩身に類するワイルダーよりワンサイズ大きいのだ。
しかも今回、フューリーは意図的に体重を増やす。ワイルダーとのウェイト差は19キロ(ワイルダーは過去最重量)もあった。すべては計算通り。左ジャブの威力とクリンチワークでワイルダーを消耗させる為の体重増だ。
スピードもあり、動きもシャープでクイックネス。加えて多彩な技術もある。あのクリチコ弟を完封した男なのだ、フューリーは。まさに怪人というか、反則的な存在である。
この試合、ワイルダーが勝っているのは右ストレートの威力のみと断言できるだろう。
その右も序盤に浅く2発ほど入っただけ。
完璧にワイルダーは見切られていた。増量してパワーを全面に押し出してきても、フューリーは柔らかさと巧さを損なっていない。第1戦でも基本となるボクシングスキルに差はあると感じたが、第2戦目はそれがより鮮明となり、正直いってミスマッチめいていた。
第3ラウンド、ダウンを奪う
最初から最後まで一方的だった。
勝負を決定付けたのはこのダウンだ。
この角度では分かり難かったが、後のリプレイでフューリーの技術に驚嘆だ。
一見するとラビットパンチに錯覚するが――
ワンツーなんだが、左を上手く機能させている上に、右を相手の左腕に被せてクロスさせている。超高等技術だ。しかもラビットパンチでもフューリーに非はないポジショニングであるし、よく見ると「アンダー・ジ・イヤー(耳の裏)」を的確に叩いているという。
このパンチでワイルダーは左耳から出血。三半規管の機能を喪失したのだろう。
別にアンラッキーだとは思わない。ここまで技術に差があれば。
危なげなくフューリーがKO勝利
第4ラウンドもスリップ判定であったが、実質的にはダウンを取ったと思う。
最初のダウンで、早くもワイルダーには頼りの綱である右強打を放つ余力はないと映った。そして第5ラウンドにもフューリーはボディブローでダウンを追加する。
このパンチもカメラ角度が悪くてプッシングに錯覚しがちであるが、別角度から見ると、そのテクニックの高さと柔らかさに、思わず唸ってしまう。ロマチェンコに比肩する天才だよ、フューリー。
ヘビー級でこれだけ打たれると、リング禍や後遺症が心配になってくる。
必死に抵抗しながら、グロッキーでも立ち続けるワイルダーの健闘は賞賛ものであるが、安全面を考えると、もっと早くレフェリーがストップしても良いのでは?
為す術もなく人間サンドバッグにされているワイルダーが心配に。
で、フィナーレは第7ラウンド。
THE GYPSY KING IS THE KING OF BOXING! 👑#WilderFury2 pic.twitter.com/3qDbApeXsH
— ESPN (@espn) February 23, 2020
ようやく終止符が打たれた。
予想通りにフューリーの勝利に終わる。
というか、この日のフューリーは紛れもなく史上最強のヘビー級であった。レノックス・ルイスも強かったが、彼は格下相手のポカ負け(ワンパンKO敗)が2度もある。いずれも文句なしのKOで借りを返してはいるけれど。
ただしレノルイの強さは、あくまで「あの当時のレベル」のものであって、今の時代だとそこまで絶対的ではない様に思える。ま、当時のヘビー級であそこまでアウトできるパワフルかつパンチのある大柄なヘビー級は、本当に驚異的な存在ではあった。だが、あの当時は今みたいな「動ける巨人」が出現するなんて想像の範疇外だった。ガラケー全盛時に現在のハイスペックスマホが普及するなんて想像できなかったのに似ている。
試合後にカラオケするフューリー
フューリーは試合後のお約束ともいえるアカペラでのカラオケを披露した。
その姿は、かつての亀田大毅を想起させる。
日本のボクシングファンの多くはこう思ったのではなかろうか。入場シーンのコスプレではフューリーの方が上であったが、試合後の歌は大毅の方が上であったと。
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フューリーVSジョシュア、実現か?
この試合で「史上最強のヘビー級ボクサー」という評価を得たフューリーであるが、よくよく考えてみると世界戦は3戦2勝(1KO)1分だったりする。まあ、その3戦でボクサーとしての全てを証明し、かつ主要4団体のベルトをコンプリートしたのだが。
もう証明しなければならないものはない。
残り3戦で引退する、と先日に公言したフューリー。
旨味のある相手はジョシュアくらいだろうか。
フューリーは割とメンタルに波があるタイプで、それ故に鬱になって一度は引退している。試合の出来にもやや好不調が出てしまう。試合をするのならば、高いモチベーションを保てる相手がベターであろう。
再戦契約があるとはいえ、ワイルダーとの3戦目は僕は興味が湧かない。
事実上、フューリーの2連勝である上に、ワイルダーに勝ち目がないからだ。ジョシュアもルイスJr.に不覚を取ったが、あれはポカ負けに類するもので、リマッチでは借りを返している。評価を大きく落としたという声もあるが、ボクサーとしての評価は落ちていない。人気と商品価値はナイアガラ的に下落したけれど。
人気を得る為のKOスタイルだったジョシュアならば、ハッキリいってフューリーには歯が立たないと思う。しかしルイスJr.とのリマッチで披露した「本来の塩スタイル」であれば、フューリーの出来次第では、3回に1回か4回に1回くらいは勝てるかもという希望を、AJファンとして抱いてしまう。
ぶっちゃけ、どうせ無敗ではなくなったし、しかもその1敗はKO負けなので、ジョシュアに失うものはない。負けてもいいからフューリー戦が実現してくれればと願う。
最後に両者のコメントを
勝者のフューリーから。
まず、神に感謝したい。おかげで栄光を掴めた。
ワイルダーは本当にハートの強さを見せてくれた。アイツは戦士だ。いつかチャンピオンになるだろう。だけど、キングが戻ってきた。素晴らしいビッグマッチだっただろう?
そして前チャンプも。
ダメージ? 大丈夫だ。こういうことはある。一番強い男が勝ったということ。ウチのチームがタオルを投げたが、その行為を受け入れる。この試合に万全の準備をしたつもりだったが、今日は言い訳はしない。負けは負けだ。もっと強くなって帰ってくる。ボクシング界が盛り上がって良かったよ。
この日、パウンド・フォー・パウンドとは違った意味での最強伝説が生まれた。
歴史は新たに刻まれた。
最強のキング、その名はフューリー。