【2019大晦日揃い踏み】井岡一翔、田中恒成が防衛成功について【判定と3回KO】
さあ、戯れ言《
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充実した苦闘の末、V1成功
相手は紛れもなく強敵であった。2度のオリンピック出場という経歴と、プロスペクトとして無敗をキープしている指名挑戦者。期待の星である。井岡有利という予想だが、接戦になると見込まれており、各ファクターにおいて井岡が明白に上回っていると思われるのは経験(キャリア)のみと言ってよいだろう。
事実、井岡は苦戦した。
防御技術および駆け引き以上の武器――キャリアがなければ負けていたかも。
しかし激闘を経て井岡は勝った。
初黒星を喫した若き日の彼ならば、あるいは敗北していたであろう難敵に。
12月31日
会場:大田区総合体育館
WBO世界Sフライ級タイトルマッチ
判定3-0(116-112✕2、115-113)
勝利 王者
井岡一翔(31=Reason大貴)
戦績:25勝(12KO)2敗
VS
敗北 同級1位
ジェイビエール・シントロン(24=プエルトリコ)
戦績:11勝(5KO)1敗1NC
※)井岡は初防衛に成功
劣勢でも冷静に判断できる井岡
まずは井岡が4階級制覇した足跡を過去記事から追って欲しい。
◆合わせて読みたい◆
現時点であっても充分過ぎる程の偉業を成し遂げているボクサーだ。
感動を呼んだTKOのシーン。
2019年が昔になった頃は、ボクシング界の語り草になっているだろう。
けれど彼の挑戦は終わらない。
今はここがゴール地点ではないのだ。
目指しているビッグマッチや王座統一戦を実現させる為には、このシントロン相手に躓くわけにはいかない。勝たなければ次戦は見えてこない立場だ。まだ31歳であるので、負ければ即引退ではないだろう。けれど、ここでの負けは世界戦線トップ層(Aグループ)からの脱落を意味する。
そんな意味合いの指名試合。
立ち上がりから優勢に立ったのは元オリンピアンの挑戦者であった。
Sフライでは小柄な王者に対し、シントロンは大きくリーチが長い。そのリーチ差を活かし、的確に井岡をヒットしていく。ここまで綺麗にパンチをもらう井岡は久しく見ていなかった。敗戦を喫したアムナットの姿が僕の脳裏を過る。
第1ラウンド、第2ラウンドと井岡は落とす。
パンチが届かない。逆にカウンターを貰う。
このままズルズルと判定まで持ち込まれれば大差で惨敗するだろう。あるいはキャリア初となるKO負けさえも危惧された。
だが、絶望的な立ち上がりにあって、井岡は冷静に思考できていた。
それこそ経験が成せる業――
井岡は間合いを詰め、打ち合いに
3回に入ると井岡はギアチェンジする。
プレッシャーを強めて、シントロンのリーチを無効にしようと試みた。相手のスキルを認めた上での選択だ。多少ならば被弾覚悟の前進であり、致命打を貰わない自信からくる戦法でもあった。
井岡のボディブローがシントロンにヒット。
意外な程に早く効果が表れ、井岡はボディ攻撃に活路を見出す。
右ストレートも効果的であった。
この3回、ポイント的には互角か。けれど流れがハッキリと井岡に傾く。
第4ラウンドからは「井岡らしさ」が発揮された。対照的にシントロンは失速する。
現役復帰前の安全運転は鳴りを潜め、積極的に打って出る井岡。
シントロンも立て直しを図るが、すでにフットワークは十全には機能しなかった。井岡によって無駄に動かされていた為、スタミナのロスおよびボディのダメージが深刻だった。
テクニカルではあるが、凄まじい激闘。井岡は単純に前に出るのではなく、サイドへのステップを有効に使う。それでいて最短距離で追い詰めていく。ボディ攻撃と右ストレートを軸に攻め切った井岡が、フルラウンドを終え、判定のゴールテープを切る。
あそこまでダメージを与え、追い込んだのにKOできなかったのは、ライト層にとってはやや物足りない印象だったかもしれない。しかし難敵を明白に制したのは評価に値する好ファイトだった。
井岡のコメント「出し切った」
終了のゴングが鳴り響く中、4階級王者は両拳を高々と突き上げた。
勝利を確信してのパフォーマンス。
観客はそう解釈したが、けれど違った。
井岡にとって判定のスコアは無関係――ただ己の中にある衝動に従ったのみ。
試合後のインタビューにて「出し切ったと思った」故の行動。
約5年前にアムナット・ルエンロエン(タイ)に、2018年大晦日にドニー・ニエテス(比)に敗れている井岡は「過去2敗はどちらも2-1判定で、後味の悪い負け方だった。この先のボクシング人生はそんなに長くないと思うので、出し切った試合をすれば、負けたとしても“たられば”はないと思う」とコメントを残している。
残りの現役生活を悔いなく。
その為にも、彼は全てにおいて「出し切りたい」のだろう。トレーニングや試合内容はもちろんの事、マッチメークの面でも。
そんな4階級王者が希望するのは他団体との統一戦。あるいは過去(Lフライ級時代)に実現しなかったロマゴンことローマン・ゴンサレス(ニカラグア)とのビッグマッチ。
WBO会長がブチ上げているフライ級王者、田中恒成との試合は興味が薄そうだ。「田中君はまだ階級も上げていないので」と、やんわりと否定の気持ちを表している。
次戦の相手は誰か。楽しみだ。
今は激闘の疲れを家族と共に癒やして欲しい。
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失神KOでV3、覚醒の天才
世界最速タイ3階級王者、関東に再び。
大晦日のリングには2度目の見参となった田中であるが、見事に格下を一蹴した。KO宣言していたが、鮮やかに公約を果たす。予想通りの勝利にして、想像を超えた勝ち方だった。
試合前の会見にて「私は天才」と、大学時代に専攻していた経験を活かし中国語でスピーチした田中は、言葉通りの天才である事を有言実行というかたちで世間に知らしめた。
12月31日
会場:大田区総合体育館
WBO世界フライ級タイトルマッチ
KO3回2分29秒
勝利 王者
田中恒成(24=畑中)
戦績:15勝(9KO)無敗
VS
敗北 同級12位
ウラン・トロハツ(26=中)
戦績:13勝(6KO)4敗1分
※)田中は3度目の防衛に成功
知名度に恵まれない天才ボクサー
田中についても過去記事にて、それまでの軌跡を追ってみてくれればと思う。
まずは直前のV2戦について。
◆合わせて読みたい◆
田中が中部ローカル王者なのは、ある意味で自業自得だ。ジムの方針やスポンサーおよびタニマチとの関係もあるのだろう。彼自身、海外志向ではないと思われる。
けれども田中自身が渇望する「強い相手」との試合(マッチメーク)は、中部ローカルのままでは限界があるのも、また事実。興行的あるいは経済的な意味では、中部に籠っていても問題ないかもしれないが、田中が望む相手と試合を組む為には、やはり知名度(人気+商品価値)が必要になってくる。
最低線でも全国区の。
できれば海外基準で。
田中本人は4階級制覇を賭けて井岡と戦いたい意向だ。WBOも全面バックアップするだろう。そしてCBCとTBSも。だが、肝心の井岡に「今の田中」の挑戦を受けるメリットが希薄なのだ。
井岡は田中との試合よりも、海外の強豪と大舞台にて戦いたがっている。
そんな井岡を振り向かせる為にも、田中はアピールしなければならない立場だ。
これまでにない最高の仕上がり
トロハツは強敵とは言えないが、それでも過去、日本人相手に2戦2勝(WBAは4位)だけあり、身体つきや動きをみる限り「そこまで悪い」という感じは受けなかった。
ただ試合開始(ゴング)直後から両者のスピード差は歴然である。
田中が速い。力強くキレッキレだ。
明らかに苦戦したV2戦より良い。
パンチも威力を増しており、ジャブと強打でトロハツを後手に回らせる。
ワンサイドだった。
ペースアップしていく田中の圧力とパンチ、なによりスピード豊かな小気味良いポジショニングに対応できないトロハツは、なんとか応戦するもののブロックに専念する時間が増えていく。苦し紛れに打ち返しても、肝心である先手のジャブを打てない。
こうなると王者の独壇場だ。
迎えた3回。もう時間の問題である。
テンポが落ちない田中は高速の出入りから、鋭い右アッパーを打ち込む。
効いた。いや、とっくにトロハツは瀕死だ。
右から左アッパーをダブルで上へ。アッパーのトリプルを繰り出す。
巧妙に角度を変化させた二連打がトロハツを強襲し、挑戦者は長々とキャンバスに伸びた。衝撃的なダウンシーンだ。即ストップではなくカウントアウトで試合終了。リング禍が心配になる程のダメージで、トロハツは暫く失神していた。
これで世界戦9勝5KO無敗――
着々とレコードを伸ばしている。
過去1番の絶好調だった理由
試合前の田中は「今回(の試合)に向けていい練習が積めた。自分自身との戦いをテーマに置いている」と話し、コンディション面での好調をアピールしていた。
ここまで上手く調整できた事はないと。
田中は「有酸素系の運動が嫌い」と、これまでロードワークは10キロまでと決めていたが「今回は最終的には15キロまでいった」と打ち明ける。彼いわく「10キロ以上は走らんと決めていた。嫌いやから。イヤだからいつもやめていたが、(超えた時に)やれた実感があった」との事。今までは10キロを超えたら、なんと歩いて帰っていたそうだ。
そして減量も苦手。
ミニマムからフライまで躊躇なくクラスをアップしているが、肉体の進化による筋肉量の増加もさる事ながら、体重管理が甘いのも階級アップの一因かもしれない。
前回のV2戦――不甲斐ない内容から畑中会長から叱責を受けたという。
今までの試合、実はベストコンディションで臨めた事は皆無で、4階級制覇、5階級制覇を見据えて、田中は意識改革する。
嫌いなロードワークへの取り組みや、綿密な体重管理による減量。
自己分析はこうだ。「今までジャブで差し負けることが多かった。スピードを意識しながらスピードを生かせず、最後はパワーでねじ伏せるパターン」
スピード負けしていた最たる原因はコンディション不良であった。
この試合、それを克服して「覚醒した田中恒成」を披露する事ができた。
新たなる田中は技術面ではなく精神面だ。彼本来のポテンシャルを試合で発揮できる様になった暁には、もっと上のステージが見えてくるに違いない。
フライ級は次戦かその次でラストとなる見通しだ。最大の焦点である4階級制覇への挑戦。おそらくは約1年後――2020年の大晦日になるだろう。
果たしてその時の相手は?