【世紀の再戦】アンディ・ルイスJr.対アンソニー・ジョシュアⅡについて【AJ王座奪還】
さあ、戯れ言《
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AJ、宿敵に雪辱する
結論から言えば、大方の予想通りとなった。
前回と同じ轍を踏まないであろう事は、シェイプして軽量化したジョシュアの肉体が予告していたし、その逆にキャリア最重量まで肥えてしまったルイスのデブっぷりは、返り討の可能性が低そうだなと主張していた。
予定調和で退屈な12ラウンド。
戦績からKOマシーンという印象もあるが、その実、スピードあるアウトボックスが本領(真の姿)かもしれないジョシュアが、堅実に己の仕事を遂行した。
結果、ルイスは呆気なくベルトを手放す。
これが本来の実力差だったのか――
11月7日(日本時間8日)
会場:サウジアラビア、ディルイーヤ
3団体統一世界ヘビー級タイトルマッチ
(WBAスーパー&WBO&IBF)
判定3-0(119-109✕2、118-110)
勝利 前統一王者
アンソニー・ジョシュア(30=英国)
戦績:23勝(21KO)1敗
VS
敗北 3団体統一王者
アンディ・ルイスJr(30=米国)
戦績:33勝(21KO)2敗
※)AJは王座奪回、ルイスは初防衛に失敗
因縁のライバルとなった両者
この両雄が交わり、互いのキャリアにとって「最も重要な存在」となった経緯は、以下の記事を参照ねがいたい。
◆合わせて読みたい◆
負けられなかったジョシュア
世紀の超アップセット――痛恨のKO負けによって、ジョシュアはヘビー級のトップ戦線からの一時離脱を余儀なくされてしまう。幾度となく倒された力ない姿は、ライバルであるWBC王者デオンテイ・ワイルダーとの商品価値にも大きく差を付けられる事となる。
この躓きがAJにとって、最終的にどういった意味を成すのか――
ダイレクトリマッチの前から「真の決着は第3戦でつける」と公言していた。同じ相手に連敗すれば、それすなわち実質的なキャリアの終焉となるジョシュアには、この第2戦目はどんな形であっても勝利して1勝1敗のタイにする必要があったのだ。
それが、この世紀の凡戦を生んだ。
ファンの期待を裏切る凡戦
ヘビー級としては一線級の機動力(フットワーク)を使い、リーチ差を活かすジャブを丁寧に突くジョシュア。対するルイスは身体にキレを欠き、上手く対応できない。踏み込みも甘く、強打が当たっても単発に終わる。
接近を許せば、ジョシュアはクリンチに逃げ、ルイスにゲームメイクさせなかった。
最終の12ラウンドになっても、初回と錯覚するかのような試合内容。
負けたら今後を失うジョシュア。
第3戦が保証されているルイス。
判定でも勝てばOKなジョシュア。
最低KOされなければ良いルイス。
第1戦の興奮とは真逆の、淡々と平坦に消化されていくラウンド。
AJがルイスをレッスンし、第3戦への前哨戦めいたリマッチは、気が付けば静かなまま終わっていた。イーブンになったから第3戦でジョシュアがルイスを倒しにいってくれれば良いが、第3戦もこの第2戦の焼き増しになるのならば、観る意味(価値)はないだろう。
ルイスの敗因
第1戦は「豚の様に舞い、闘牛の様に刺す」だったが、この第2戦目の彼は鈍重であり「ハングリーさを失ってデブった肥満体」としか形容できなかった。KO負けという屈辱を味わい、ハングリー精神を取り戻したジョシュアと対極である。
4.7キロ絞ったジョシュアは107.5キロ。
7.1キロも増えたルイスは128.6キロ。
前回は9キロ差だったのに、今回は21キロ差に広がっていた。この数字の時点で、すでに勝負は見えていた。ポッチャリ王者――の筈が、ファンに某巨大掲示板のボクシング板での実況にて「豚」とダイレクトに云われる(書き込まれる)始末。
試合後のルイスの弁も呆れるばかりだ。
「もっと一生懸命に練習すべきだった。陣営とコーチの意見に耳を傾けるべきだった。このファイトに関して、オーバーウェイトだった。思うように動けなかった」
「3ヶ月間のパーティーと宴の日々が自分に影響を与えたとは言いたくないが、実際のところ、そうだった。言い訳の余地はない。パーティーこそがベストの自分を引き出すはずだった。次の試合では全く違うだろう。みんな未だに自分に対して疑いを持っていると思う。この階級で未だに危険なファイターだ。100%なら、どんな相手でも支配できる」
オマエハイッタイナニヲイッテイルンダ?
かつてマイク・タイソンをKOしたバスター・ダグラスと同じ過ちを繰り返した模様。 半年前に悲願の世界王者に輝いたルイスは、数々の家や自動車を購入したと報じられており、「多くの人間にライフスタイルが疑問視されていた」とその記事にて指摘されている。あっという間に堕落してしまうとは。
訂正すると「パーティーこそがベストの自分を引き出すはずだった」は明らかな誤訳であり、原文は「The partying got the best of me(パーティーが、ベストな自分を奪ってしまった)」である。
誤訳は差し置き――ダメだ、こりゃ。
日本において絶大に嫌われているルイス・ネリも、計算尽くや策略でウェイトオーバーしているのではなく、こんな信じられないルーズな認識と自覚なんだよなぁ(苦笑
何故だ。どうしてパーティーで遊び惚けてオーケーと考える?
計量前日の夜にレッドブルを飲んで、翌朝に体重が増えた事を疑問に思う。
彼らの頭の中はどうなっているのだろうか。
ルイスはプロ意識の欠如をトレーナーのマニー・ロブレス氏と父親のアンドレス氏に謝罪したらしいが、このままではラバーマッチが実現しても勝機は薄そうだ。
ジョシュアの今後
基本性能がルイスとは違う事を、こういった形で証明したのは、ファンとしては複雑な心境である。できればジョシュアにはパーフェクトレコード(全戦オールOK勝ち)を継続し続けて欲しかった。
期待されたKOどころか、安全運転に徹して倒しにいくシーンすら皆無だったので、ファンからの失望は大きかった。その失望の裏返しで「ワイルダーより弱い」と断言されてしまう。僕も正直いって、この判定勝ちはAJというブランドイメージに傷を付けたと思う。ガッカリしたというのが本音だ。
けれど、この戦い方に徹すればジョシュアはかつてのクリチコ兄弟と同じく「負けない」ボクサーでいられる筈だ。ワイルダーの右1発で轟沈するかもしれないが、ワイルダーのボクシングは異質中の異質であり、右の破壊力以外のファクターはヘビー級の歴代世界王者の中でもせいぜい中の上だし。特にスキルは凡庸そのもの。
ルイス・オルティスとの再戦で右ストレートを炸裂させたプロセスは見事だったが、あれは第1戦でオルティスを学習できていたからこその芸当だ。それにオルティスとジョシュアでは基本スキルのレベルが違う。AJは五輪金である。
これまでのKOスタイルだと、間違いなくタイソン・フューリーに負けると思っていたが、ルイスとの再戦で披露したボックスならば、あるいは勝てるかも?
ワイルダー対フューリーのリマッチの結果次第だが、今後のヘビー級戦線も楽しみだ。
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岩佐がタパレスをKOし再戴冠
普通に不利予想だったので、嬉しい誤算だ。
負けて引退だったら、こうして記事にする事もなかっただろう。タパレスのキャリアと岩佐のキャリアを比較すれば、世界初挑戦でTKO負けしたリー・ハスキンス戦と同じか、それ以下の惨敗になると思っていた。
けれど、岩佐は勝った。
それも見事なワンパンチKOにて。
11月7日(日本時間8日)
会場:米ニューヨーク、ブルックリン
IBF世界Sバンタム級暫定王座決定戦
TKO11回1分9秒
勝利 同級1位
岩佐亮佑(29=セレス)
戦績:27勝(17KO)3敗
VS
敗北 同級3位
マーロン・タパレス(27=比)
戦績:33勝(16KO)3敗
※)岩佐は再戴冠、タパレスは2階級制覇に失敗
元世界王者ではあったのだが
ニックネームは“イーグルアイ”
才能は文句なしに認められ、ボクオタには周知されていた。
それこそデビューから日本タイトルに挑戦するまでは破竹の勢いだった。8戦8勝(6KO)無敗。未来の世界チャンピオン間違いなし、と目されていたのである。
しかし9戦目で迎えた日本タイトルマッチ。後のWBC世界バンタム級V12王者である山中慎介に挑戦した試合で、彼は勢いを削がれる事なった。
最終10ラウンドの1分28秒
レフェリーストップによるTKO負け。
山中の真のピーク(絶頂期)はこの試合であった。試合内容は高く評価され、岩佐の評価も落ちなかった――が敗戦という現実は岩佐のキャリアに爪痕を残す。
11戦目に再セットされた日本タイトル戦は判定でものにする。2度のKO防衛後に返上。そして17戦目にOPBFタイトルもKO奪取。ただし相手は日本人(椎野大輝(三迫))であった。フィリピン人相手に判定で防衛後に東洋王座も返上(IBF世界バンタム級挑戦者決定戦に出場の為)し、いよいよ世界挑戦かと期待感が高まる。
しかしファンは山中戦後の岩佐に伸び悩みを感じていた。
あの頃の勢いを取り戻せていない、と。
21戦目での世界初挑戦。IBF世界バンタム級暫定王座決定戦を迎えた。
相手はリー・ハスキンス(英)である。いざ、異国の地へ――
このダウン後に立ち上がるものの、連打に晒されてレフェリーストップとなる。
世界の夢は英国にて6ラウンドで散った。
キャリア2敗目だ。
勝負弱さ。メンタルの脆さが目についた。
再起した岩佐はクラスをSバンタムに上げる。
減量苦からは開放されたが、しかし岩佐のスランプは終わりが見えなかった。運良く逆転で勝てたものの、噛ませ犬の不用意な一発をもらってKOされかける事も。それでも噛ませ犬に3回TKOを食らった和氣慎吾を思えば、岩佐にはツキがある。
世界再挑戦のチャンスだ。
IBFの指名挑戦者としてアタックしたのは、高校時代に楽勝し、プロ入り後のスパーリングでも圧倒している「サウスポーが超苦手」な小國以載(角海老宝石)。予想は岩佐が有利だった。小國も「岩佐を大の苦手」と公言していた程である。というか、小國が世界ランカークラスのサウスポーに勝てる姿が想像できないレベルだ。
ダウンシーンが雄弁に物語っているが、サウスポーの左ストレートが最短で当たる位置に小國の頭があるというダメっぷり。対サウスポーの基本すら出来ていない。
オーソドックスのグスマンを攻略した小國はそこには居なく、下手をすれば6回戦にすらサウスポー相手だと負けるのでは? という超穴王者が岩佐に蹂躙されていた。小國の意味不明な戦い方がひたすら「?」に終始していた。世界戦には見えなかった。
なにはともあれ、6回TKOで世界奪取。
僕個人の感想としては「なんだかなぁ(苦笑」的な世界タイトル戴冠であった。
タニマチからフェラーリを贈呈(たぶん使用権だけの譲渡で維持費はオーナーであるタニマチ持ち)とかは、別にどうでもいい。
V1戦を判定でクリア。
だが、V2戦でドヘニー相手に判定で試合を落とす。接戦であったが痛恨の王座陥落だ。知名度が上がらぬまま、泡沫王者としてタイトルを手放してしまった。
ここで引退すれば、日本人ファンですらマニアしか知らない無名王者で終わる。中学時代から師事している会長のセレス小林(元WBA世界Sフライ級王者)を超える事はできなかっただろう。
才能開花、覚醒したイーグルアイ
岩佐は再起の道を選ぶ。
ボクシングをやり切る為に。
世界王者という重圧に押し潰されそうになり、ボクシングを楽しめなくなっていた岩佐は、原点に立ち返り――そして覚悟を決めた。フェラーリもタニマチに返した。思いの外、燃料代が高く、乗り回しても楽しくなかったからかもしれないが。
再起戦はロサンゼルスのマイクロソフト・シアターにて、セサール・フアレス(メキシコ)を相手に、IBF世界スーパーバンタム級王座挑戦者決定戦として行われた。
正規王者であるダニエル・ローマン(WBA&IBF統一王者)の負傷でセッティングされた暫定王座決定戦に、岩佐は「今後の進退」を掛けた一戦として臨む。
たぶん3度目の世界挑戦にして集大成。
セレス小林会長はマスコミの前で言った。今の岩佐が1番強いと。
負ければ次のチャンスは(おそらく当分は)巡ってこない。内容次第では引退の二文字。しかし勝てば、様々な未来を描くことが許される。
運も味方していただろう。
タパレスは明らかな調整失敗であった。前日計量と当日計量で共に1回目を失敗。なんとか体重は作ったが、コンディションはベストには程遠い筈だ。そして3回に奪ったダウン。ボディブローはクリーンヒットしておらず、バッティングによるものであったが、それでも裁定はダウンであった。1回、2回と押され気味であったので、流れを変えた意味でもこのダウンは幸運そのものだ。
見応えのある攻防。
やはり体調不良なのか、タパレスのアタックに普段のパワーは感じられない。大森将平の顎を砕いた拳は、この夜は不在だった。
長くなるので詳細は省く。
岩佐の戦いぶり。かつてのメンタル的なひ弱さは影を潜めている。ハスキンス戦での教訓から、無理にいかないという駆け引きも身に付いていた。
機は熟し、運命の11ラウンド――
見事な一撃をタパレスに見舞う。
本人曰く「唯一、手応えがあったパンチ」だ。
右の打ち終わりに、左をカウンターで被せている。この一発で試合を決めた。本場のファンも魅了しただろう。これぞセンスとパワーの融合。まさにエクセレント!
おめでとう、岩佐亮佑。
このワンパンチでSバンタム級の日本人ボクサーのトップに躍り出た。この日の岩佐ならば亀田和毅にも勝てると僕は思った。フロックや一試合限定の確変でなければ、今後の活躍が楽しみである。
さあ次はローマンとの統一戦。
勝ち続ければ、いずれSバンタムに上げてくる井上尚弥との対戦も。
今はこの芸術的な左ストレートの余韻と2本目の真紅のベルトに、ファンと共に酔いしれて欲しい。