【井上尚弥戦、遠のく】ルイス・ネリの減量失敗について【強い事は強いが】
さあ、戯れ言《
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ルイス・ネリというボクサー
戦績と実力および才能
簡単にネリというボクサーについて振り返ろう。
愛称はパンテラ(豹)
戦績:30戦全勝24KO無敗
世界戦:2戦2KO
獲得世界タイトル:WBC世界バンタム級王座
30戦を消化しているが、まだ24歳と若い。その攻撃的なスタイルおよびギフト(才能)については疑う余地はなく、専門家も揃って「次代のPFPキング候補」と目していた。個人的にも、このネリというボクサーの資質と強さは、過去に来日したバンタム級の外国人ボクサー達とは「モノが違う」という印象だ。ウィラポンも強かったが、このネリと比較するとランク(格)が落ちる。
ただしその言動ゆえ(主に日本での)アンチも多く、彼の実力について「過小評価という色眼鏡」が掛けられている事もあると付け加えておく。元世界王者のフアン・カルロス・パヤノとの対戦決定が報じられた際、「パヤノの方が強い」「パヤノが勝つ」という的外れな声が挙がっていた。ボクシングを見る目が多少なりともあれば、パヤノでは歯が立たない程度は、明白に分かる筈である。両者の立ち位置を考えるとパヤノはBサイドであり、ぶっちゃけ「アンダードッグ(咬ませ犬)」に過ぎなかった。冷静なファンは「心情としてはパヤノを応援するが、普通にネリにKOされるだろう」と予想していた試合であり、実際、パヤノは完璧に粉砕された。運や偶発性が皆無のシナリオに沿った後半KO劇によって。再戦しても8ラウンド前後に、同じ様なKOが再現されるだろうと僕は思った。
ネリの計量オーバー
山中慎介とのリマッチにおいて、5ポンド超過したのが話題になった。ただしペナルティーとして課せられた当日計量は(試合実現許容の)規定内に収め、試合自体は行われる。結果はネリの2回TKO勝ちに終わった。
パヤノ戦での1回目の計量はオーバー。しかし再計量でパスしている。
31戦目となる筈だったエマヌエル・ロドリゲスとの試合でもネリは1ポンド超過(2ポンドという情報はガセ)してしまい、再計量を拒否して「超過分の罰金を支払って試合を行おう」とロドリゲス陣営に交渉を持ち掛ける。Aサイドとはいえ傲慢だ。だが門前払いを食らって試合キャンセルとなった。
ぶっちゃけ、世界戦での超過は1回のみ。
パヤノ戦も再計量をクリアしているので問題なく、別に規定違反はしていない。
ロドリゲス戦で2回目だ。
ただし噛ませ犬とのノンタイトルでバンタムウェートを作れずに、違約金を支払ってSバンタム契約で試合した事もある。ネリの主観にたっていえば、山中との1戦目以外(リマッチは眼中外)の相手は全員「噛ませ犬」という舐めた認識なのだろうけれど。プロ意識のみならず、対戦相手へのリスペクトが欠けているから、真面目に減量しない。正直、ボクオタとして彼は非常に不愉快である。
それで、だ。
2度の体重超過でここまで強く「ウェイトオーバーの問題児」という印象を世間に与えたネリを筆頭に、ボクシングの計量オーバーについて考察してみたいと思う。
国内世界戦で体重超過した者達
時系列順ではなく、僕の印象に残っている試合を挙げさせてもらう。
よって全ての試合は網羅しないので、ご承知おきを。坂田VSパーラみたいなケースは取り扱わない。嘉陽宗嗣VSワンディ・シンワンチャーも。
フレディ・ノーウッド
リトル・ハグラーと形容された天才ボクサー。
しかし、その不摂生ゆえに恵まれた才能に相応しいキャリアは残せなかったといえる。
WBA世界フェザー級タイトルマッチにて、ノーウッドは計量をパスできずに王座剥奪。3度目の防衛戦となる予定だったが、挑戦者の松本好二(ヨネクラ)が勝った場合のみ新王者誕生という試合に。
実力と才能、フィジカルの差を見せつけて、ノーウッドが10回TKO勝ち。
悲しいほどにワンサイドだった。
再計量を拒否してコンディションをとったノーウッドは、一回り大きな身体を見せつけながら松本をボコボコにしてしまう。それでも日本のファンは「ノーウッドみたいな海外水準での一流王者(王座剥奪されたが)を、日本で観れてラッキー」みたいなノリだった。
WBAは「松本が気の毒だから王座決定戦に出場してもいいよ」と打診するも、松本は応えず、その試合を最後に引退してしまう。3度目の世界挑戦だったが、過去に挑戦したWBA世界フェザー級王者、朴永均(韓国)とWBA世界Sフェザー級王者、崔龍洙(韓国)の両名とは格が違う「真の世界レベル」を体感し、限界を感じたのだろう。
そんな松本であるが、現在では大橋ジムを支える名トレーナーとなっている。
そしてノーウッドは再戴冠後のV4戦にて、またも計量オーバーとなり王座を剥奪された。ちなみに試合はゲイナーに11回TKOで敗北している。
マーロン・タパレス
WBO世界バンタム級タイトルマッチにて、王者が体重超過。
挑戦者の大森将平(ウォズ)はこのタパレスにWBO同級挑戦者決定戦で2回TKOで完敗しており、世界初挑戦と共にリベンジマッチであったが、山中と同様にリミットオーバーの相手に再度KOされてしまった。
山中が2回TKOで負けた時は「体重オーバーしたネリはズルい」「同じ体重で戦えなかったネリは臆病者」「試合前からネリは負けている」と、山中に同情が集まったのだが、11回TKOで奮闘虚しく散った大森に対しては「世界のレベルではない」「何度やっても負けるだろう」「弱かった」と、タパレスよりも大森が叩かれていた。
V12王者だった山中と世界ランカーとしても「?」な大森という違いはあるにせよ、色々な意味であんまりである。
“神の左”にちなんだのか大森は“魔の左”とニックネームされているが、山中慎介の後継者にはなれなかった。
なお、タパレスはSバンタムに上げ、顎を割られてブランクを作る羽目になった大森もSバンタムに上げる結果に。タパレスはSバンタムでも順調(後に世界戦で岩佐にKOされるが)だが、大森はOPBF戦で勅使河原に12回TKO負けを食らってしまっているので、やはり世界は遠いボクサーと烙印を押されても仕方がない。
リボリオ・ソリス
体重超過において国内最大の被害者と悲劇を生んだのが、このケースであろう。
理不尽さはネリVS山中の比ではない。
WBA&IBF統一世界Sフライ級タイトルマッチ――となる筈であったのだが、WBA王者のソリスが体重超過により王座剥奪、急遽、IBF戦のみという結果に。
IBF王者の亀田大毅が勝てばWBA王座も吸収、負けてもIBFの規定により防衛にはカウントされるという変則マッチだった。
開き直ったソリスは当日計量もボイコットしてしまう。勝った場合のみWBAタイトル獲得なので、大毅はIBFのリバウンド制限を受け入れた模様(統一戦だとIBFのリバウンド制限はなしになるのが通例)。
対峙した両者の身体の厚みの差に唖然となったが、興行(メインイベント)の為に大毅はこの試合を受けた。
当時は憤慨したものだ。正直いって、これはボクシングではないと僕は今でも思っているし、こんな試合だけは「ボクシングの沽券、安全面から考慮しても」絶対にJBCが断固として中止させるべきであった。
5回までに大毅がKOされると予想したが、予想に反して判定までいってしまう。被ったダメージを思えば、序盤のラウンドで適当に寝っ転がっていた方がマシだった。
悲劇は試合後にも。王座統一戦、大毅が負ければIBF王座を失う、とTBSが喧伝してしまった為に、被害者である大毅が「負けても王座防衛はおかしい」と大バッシングを浴びる羽目になるのだ。TBSとJBCではなく、亀田家が非難に晒されて、ソリスではなく亀田家がJBCを追放(後に復帰)という――振り返ってみるとドンデモな結果(オチ)になった。世論とは恐ろしい。
その後の大毅のキャリアを思えば、この試合が彼のボクシング人生を破壊したといっても過言ではないだろう。山中の比ではない悲惨なオチである。
山中の時は「体重を作れなかった時点でネリの負け」とかファンは言っていたが、大毅の時は「体重オーバーしてタイトルを手放してまで大毅を倒したソリス、よくやった」とか体重超過を肯定するかの様なコメントまであった。酷い話である。
ちなみにこのソリス、ネリと同様かそれ以上に悪質な体重超過をブチかましたのにも関わらず、JBCは日本追放にはしなかった。こんなヤツ、2度と日本に呼ぶべきではない――と思ったのだが、なんと山中のV10戦の相手として再来日している。
ニュートラルなボクシングファンからは「山中が体重超過のネリにボコられて騒ぐんだったら、タパレスやソリスの件の時点でもっと問題にしとけよ」との声が。
なお、JBCにとって蒸し返されると不都合な黒歴史なのか、JBC所属のボクサーどころかJBCに復帰した当の亀田家や被害者の大毅ですら「この件」については、ネリ騒動が起こって以来、ダンマリを貫き通している(まだ裁判中とその後に判明)。
なお、JBCはコミッションであり日本ボクシング協会とは別組織であると誤解が起きないよう付け加えておく。
比嘉大吾
WBC世界フライ級タイトルマッチ、3度目の防衛戦での事件だった。
ネリが体重超過して山中をKOしてしまったが為に「外国人世界王者はだらしない、日本人世界王者は体重は守る」といった雰囲気が醸成されてしまう。そんな空気の中、比嘉は日本人世界王者で初となる「体重超過で王座剥奪」を炸裂させてしまった。
途端に気まずくなった日本ボクシング界。
比嘉がバッシングを浴びる羽目に。
当日計量はクリアしたし、相手のロサレスも試合を受けてくれた(9回TKOで王座獲得)のだから、冷静に考えるとそんなに大騒ぎする事ではないのだが、ネリVS山中2で過剰反応してしまった手前、引っ込みがつかなくなったのか、比嘉も煽りを食うカタチでJBC管轄下では無期限停止処分に。
確かにネリとはケースが違う。
ネリ「減量大丈夫だってば」
陣営「信用するよ」
ネリ「悪い。体重落ちなかった」
陣営「おいおい(汗」
比嘉「もうフライは無理っす」
ぐしけん「次もフライだから」
比嘉「やっぱりダメでした」
だからといって「ネリの体重超過は汚い減量失敗で、比嘉の体重超過は綺麗な減量失敗」と擁護する気はない。シンプルにどちらも等しく単なる調整ミスである。というか、必要以上に世間から叩かれ、さすがに比嘉が気の毒になった。
無期限(長期間とはいっていない)活動停止であった比嘉だが、1年を超えるリフレッシュ期間を経て、バンタム級で復帰予定との事だが、具志堅との師弟関係が継続なのかどうかは定かではない。
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海外での体重超過者
ニワカ達は「ネリが体重超過の悪しき前例を作った」とか勘違いしているが、ネリが体重超過の先駆者ではなく、昔から体重超過するボクサーは存在している。
ザッと挙げていこう。
フロイド・メイウェザーJr.
今では皆がご存じ、メイウェザーも体重超過を経験している。
マルケスとのキャッチウェート(契約体重戦)で約900グラムもオーバーした。試合前の契約に従い超過分の違約金を支払い、試合はウェルター級リミットで行われた。
試合はメイウェザーが勝利。しかし真の勝者は億を超える違約金を手にして、試合前にニコニコだったマルケスだったかもしれない。
ホセ・ルイス・カスティージョ
ネリの先輩ともいえる偉大なるメキシカン。
知らないならボクオタ失格だ。
メイウェザーと激戦を繰り広げたホセ・ルイス・カスティージョ(WBC世界ライト級王者)も体重超過をブチかましている。メイウェザーのライト級時代に2度、対戦しており、初戦は勝っていたのではないかとまで評された名チャンプだ。
問題はディエゴ・コラレスとの因縁である。2度目の対戦でカスティージョは1度目となる体重超過を披露した。この試合は4回KOでコラレスにリベンジを達成。
3度目の対戦が組まれるも、またしてもカスティージョは体重超過をコラレスに見舞う。今度はコラレス側が試合を拒否して、1勝1敗で終結というオチに。
初戦は稀代の名勝負だっただけに、後味の悪い2戦目3戦目の結末であった。
キャリア晩年、スーパーライトに上げた後、ティモシー・ブラッドリー戦も体重超過で試合を中止にしてしまっている。
エイドリアン・ブローナー
問題児として知られていたエイドリアン・ブローナーも体重超過の常習者だ。
ボクシングファンならば彼を知らぬ者はいないだろう。というか、彼の場合は体重超過が可愛く感じる程のトラブルメーカーであった。冷静に考えてみれば、ウェイトオーバーより警察のお世話になる方が人としてダメダメではあるのだが。
ホアン・グスマン
あまり有名ではないが、ホアン・グスマン(WBO世界Sバンタム&Sフェザー級王者)も通算4度、体重超過を犯した。この人、ポンポンとクラスを上げてSライト級まで進出していたのだが。ちなみにWBA世界Sライト級暫定王座決定戦で、Sウェルター級の体重で秤に乗った猛者である。
ユリオルキス・ガンボア
一時期は最強候補にも挙がっていたユリオルキス・ガンボアもIBFの当日計量(リバウンド制限)を10ポンドもオーバーした経歴を持つ。この人の場合は、ギャラで揉めてファイトよりも裁判に情熱を燃やして、いつの間にか第一線からフェードアウトしていたが。
オルランド・サリド
彼こそがミスター体重超過。
体重超過で歴史に名を刻んでいるといえば、上記したガンボアに体重超過をかましたオルランド・サリドだろう。名チャンプというより汚名の方が広まっている。
かのワシル・ロマチェンコの2戦目での世界王座戴冠を、体重超過した肉体と持ち前のダーティーファイトによって阻んだ一戦だ。スプリットで辛うじて判定を拾ったが、最終ラウンドにはKOされていてもおかしくなかった。あと2ラウンドあったら倒されていたに違いない。この試合でロマチェンコはプロ仕様への改造が早まったし、結果としてはこの敗戦が彼を強くした。サリドも悪い意味で更に有名になった。
後にも先にも「故意に」体重超過したと思われるのは、おそらくこの試合のみである。
意図した体重超過など普通はしない。デメリットが大き過ぎるからだ。だが、世界王座を剥奪されようとも、プロ2戦目のロマチェンコには負けたくなかったのだろう。
最近の体重超過者
デビッド・ベナビデス
元WBC世界Sミドル級王者。
無敗の人気ボクサー。
ロアメル・アレクシス・アングロ(コロンビア)との防衛戦で2.8ポンドオーバーしてしまう。再計量は拒否。王座剥奪となる。
「自分に責任がある。でもどうしても最後の3ポンドが落とせなかった。再計量を拒否したのはサウナで無理に落とすのが嫌だから。会場に入って以降、1日1時間しかジムワークが出来ず減量に影響した。残念なことになったけど、明日は勝ちに行く」とベナビデスはコメント。
彼は実力者かつビッグネームなので、無敗さえキープすればすぐに王座戦や好カードの声がかかる立場である。試合は10回TKO勝ちで無難に終える。
この時点での戦績は23戦全勝20KO
この報にネリアンチな人達はめっちゃ拒絶反応を示していた。負けたアングロ自身が不満を述べているわけでもないのに。
フリオ・セハ
元WBC世界Sバンタム級王者。
ネリVSロドリゲスと同興行のセミファイナルで、4.5ポンドも超過してみせた。
メインはデオンテイ・ワイルダーのV10戦だったのでキャンセル可能といえば可能だったかもしれないが、対戦相手のブランドン・フィゲロアは試合を受けて立つ。
この試合はWBA世界Sバンタム級(正規)タイトルマッチで、セハは挑戦者の立場であった。結果はドローで、無敗のホープであるフィゲロアが防衛に成功した。
再犯であったネリの体重超過ばかりが注目されていたが、あまり報道されなかったこちらも何気に酷いオーバーである。
アンドレス・グティエレス
体重超過の超新星が爆誕した。
前WBO世界フェザー級王者オスカル・バルデスがSフェザー級に進出した第1戦目の相手として用意されたグティエレスが、なんと11ポンドも超過という離れ業を演じて見せた。笑顔だったが、どんな気持ちで公開計量に臨んだのだろうか?
ちなみにバルデスはV4戦で体重超過したクイッグ(元WBA世界Sバンタム級王者)との試合を受け、勝利したものの、顎と歯を骨折するという代償を支払っている。
最新レコードで27戦全勝21KOというバルデスは「5キロオーバーでも受けて立つ」との強気な姿勢だったが、クイッグ戦での負傷もあるし陣営は止めた。コミッションも即座に試合中止を決定した。なお、代役を7回TKOで倒しバルデスは27連勝を飾る。
グティエレスも26歳のホープで元プロスペクトと形容してもよいボクサーなのだが、これが2度目の体重超過との事。
フリオ・セサール・チャベスJr.
偉大なる父、チャベスシニアの後継者にはなれなかったダメ息子、二世である。
それでも世界タイトルホルダーにはなった。3度の防衛に成功したWBC世界ミドル級王座である。ただし過度の減量によって体格的な有利を得るスタイルだったので、強敵には勝てなかった。ミドルの試合で、なんとライトベビー近くまでリバウンドさせていたのである。そしてチャベスJr.は体重超過の常習としても知られている。体重よりもあからさまなドーピングの方が問題視されているけれど。
12月20日(日本時間21日)のダニエル・ジェイコブス(米)戦では、Sミドル級リミットを4.7ポンド(2.1キロ)もオーバーしてしまい、ファイトマネーの3割を超える1億円以上の罰金を支払う羽目に。その上、試合も5回終了TKO負けと散々であった。得したのは1億円の臨時ボーナスをゲットできたジェイコブスというオチである。
計量失敗のペナルティーについて
タイトルマッチならば試合前に王座を剥奪+超過分の罰金+当日計量での増量制限、というのが罰則に当たる。
けれど世界タイトルの権威よりもボクサー本人の商品価値が上回っている場合、上記は罰則として機能しているとはいえないのが現状だ。カネロの様なビッグネームに至っては、世界タイトルの認定団体から彼にすり寄っていく。
またノンタイトルのキャッチウェートで行われるビッグマッチだと、前途したメイウェザーVSマルケスの様に、必ずしも体重超過された側が被害者とは限らない。単純に超過幅によって細かく規定した罰金を契約に盛り込めて、体重を守った側がより多くの報酬を得られるシステムだからだ。プロボクシングはアマチュアスポーツとは異なり、スポーツマンシップよりも興行が優先される。
日本人には理解できない感覚かもしれないが、海外の多くのボクサーは金(生活)の為にリングに上がっている。自分の報酬(取り分)が増えるのならば、相手が少々の体重超過してもオッケーという者も多いのだ。
ニワカ層の勘違い
メジャー4団体(WBA、WBC、IBF、WBO)を運営団体と勘違いしている節が見られる。これらの団体はプロレス等の団体とは異なり認定団体である。
よって所属という概念がない。
JBCが加盟している認定団体ならば、JBC所属(管轄)下のボクサーを各認定団体が実力と戦績に応じて、それぞれ勝手にランキングする。個人がWBCに所属とかIBFに所属とか、そういった感じではないのだ。ただし慣例として各認定団体の世界タイトルマッチに出場が決まれば、「通常は」他の認定団体のランキングから除外される。カネロみたいに同時に3階級の世界タイトルを保持、なんてケースもあるのだが。
また日本でお馴染みのジム制度は、海外の多くでは用いられていない。プロモーターやTV局とボクサーは個人で契約し、ジムは単なる練習場所だったりする。最近では日本人ボクサーも海外のプロモーション(主にトップランク社)と契約するのが珍しくなくなっているけれど。
なぜロドリゲスは試合拒否したのか
話をネリVSロドリゲスに戻す。
基本的にボクサー本人は対戦相手が体重超過しようと試合をしたがる。
試合をしないと報酬がゼロになるからだ。
敗戦濃厚でない限り試合に臨む。
こればかりは契約上どうしようもない。あまりにも体重超過幅が目に余るようならば、計量オーバー側が失格となり、(可能ならば)代役の対戦相手が用意される事となる。最悪で公開スパーリングに変更に。代役は前途したバルデスのケースだ。この場合はバルデスが報酬を手にして、失格になったグティエレスの報酬はゼロ(というか、厳しいサスペンドを食らう)だろう。
セハも大幅に報酬をカットされる筈である。フィゲロアは正規の報酬に加えて、超過分のセハからの罰金を手にした。
ロドリゲスは試合をキャンセルという選択を採る。
得られる報酬を蹴った。
スポーツマンシップとして称賛の声を得たが、報酬はネリと共にゼロだ。1ポンド分のペナルティーを支払うという契約を蹴った以上、報酬ゼロは仕方がない。興行側としても1ポンド超過で試合をキャンセルされてしまうのは、正直いって困るだろう。
事情を知らない者からすれば「1ポンドはリバウンド(リカバリー)幅の誤差の範疇」なのに、どうして上乗せされるギャラを蹴って試合を拒否したのだ? と不可解に思うかもしれない。超過幅を考えればロドリゲス側には美味しいビジネスである。
報酬面からしても、ネリが約3200万円でロドリゲスが約750万円だ。これが両者の立場であり、おそらく実力もその通りだろう。仮にネリ側のギャラ2割を罰金としてゲットすれば、ロドリゲスは報酬を約640万円も上乗せできる。
それでもロドリゲス陣営はこの試合を回避した。
経緯は以下だ。
- ロドリゲスはKO負け後の再起戦
- WBCから挑戦者決定戦の打診
- 試合を受諾
- 相手はウォーレンだった
- ウォーレンが怪我で代役が相手に
- 相手はWBC1位のネリ
要するに「最初からネリと対戦するエリミネーター(挑戦者決定戦)ではなかった」のである。ウォーレン相手ならば「分が良い」と思って試合を受けたら、ウォーレン側のキャンセルで、気が付けば「ネリの咬ませ犬というポジション」になっていたという経緯だ。ぶっちゃけ、ロドリゲス側からすれば詐欺みたいなものである。こういう場合はウォーレンより格下の相手が代役になるべきなのに。
対するネリは、すでにWBC1位で指名挑戦権を保持している。にも拘わらずリスクをとって「わざわざ」エリミネーターへの出場を決めたのは、ロドリゲスをリスクと判断しなかったからに他ならない。負けるかもと判断したら試合を受けないだろう。
元々からして「好カードであっても」ロドリゲスに不利な試合であったのだ。
というか、パヤノ戦同様ほぼ確実に勝てると陣営が判断したから、ネリはやる必要性が薄いエリミネーターを受けたのであって。
こんな経緯で2000万円に満たない目先の報酬の為に、ロドリゲスは2連続KO負けでキャリアを大きく後退させる必要性はない。ネリはバンタム戦線から自滅していなくなってくれたので、次のチャンスを狙う方が得策というわけである。
これはロドリゲスが逃げた云々ではなく、この状況で試合を受ける方が損なのだ。ウォーレンの代役というかたちではなく最初からネリ相手の試合で、勝つ自信があるのならばギャラを上乗せしてもらって試合をしていたに違いない。
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ネリが体重超過するわけ
減量苦というよりは、信じられない程にルーズな性格で節制や自律できないのだろう。
一部のニワカが云う様に「強敵ほど大幅に多重超過する」というのは、ハッキリいって真逆である。追い込んだ練習をしていないから、身体を絞り切れないのだ。
山中との再戦で計量オーバーしたネリに、山中が「ふざけるな」と目尻に涙を浮かべたのは、ネリが真面目に減量するどころか、トレーニングすら真面目にやっていなかった可能性があるのを分かっていたから。
第1戦目で完勝していた山中との試合にネリは乗り気ではなく、WBCからの司令で渋々日本に来たという話もある。ネリの事だし、練習、手を抜いていたんだろうなぁ。
ロドリゲス戦のネリも同様だ。
トレーナーであるフレディ・ローチの話によると、キャンプ中に3度も勝手に母国メキシコに帰っていたとの事。信じられない話であるが、これが真実ならば危機感ゼロというか、ロドリゲスを舐めまくっている。強敵と認識していない。
しかも計量前日の夜に(高エネルギー高カロリーである)レッドブルを飲む。
一晩寝れば水分が抜けて体重は落ちるが、糖分たっぷり高エネルギーなレッドブルを摂取すれば、そりゃ体重は落ちなくて当然だ。翌朝、ネリはローチに「寝たのに体重が増えているんだ」と云ったのだという。ダメだこりゃ。
このエピソードを耳にしたインタビュアーが「翼は生えませんでしたね」とジョークを言ったらしいが、笑い話にしている場合ではないだろう。
ネリがこんなルーズなザマでは、Lフライ級時代、Sフライ級時代に減量苦を味わい、それを乗り越えてきた井上尚弥が激怒して「ボクシング界を追放でいい」とSNSでツイートするのも道理だ。
この失態で、井上尚弥VSルイス・ネリは限りなく遠のいた。
ネリVSリゴンドーは実現するか?
バンタム級では確実に戦えなくなったし、ネリはSバンタムに行くしかなくなった。
Sバンタムでも相手は多いので、マッチメークには苦労しないだろう。けれど、ここまでルーズな性格だと、タイトルマッチは組みにくい。再びの体重超過を可能性として盛り込む必要があるからだ。僕がプロモーターならキャッチウェート戦一択だ。
一部で取り上げられたリゴンドーとの試合は実現すれば興味深い。
リゴンドーは金の為に戦っているので、ネリが何ポンド超過しても「喜んで」違約金を手にして試合に臨む。その点では安心できる。何しろビッグマネーの為に(無謀にも)Sフェザー級でロマチェンコと試合した男だ。
実現すればリゴンドー有利とみるが、果たして?
まとめ:体重超過を減らす為には
ネリについては、山中慎介が被害者という事もあり、必要以上にクローズアップされてしまった印象が強い。仮に被害者が(現役を続けていたと仮定して)亀田興毅だったのならば、大毅VSソリス戦と大差ない注目度であったと僕は推察する。
山中の名誉の為に記述しておくが、彼は「体重超過がなくてもネリには勝てなかった。彼の方が強かった」と潔かった。上記した松本、大森、大毅だって「相手の体重超過を敗戦の言い訳」にはしていないと付け加えておく。
前途した様に、意図的に上の階級の身体を作ったケースはサリドVSロマチェンコの1件だけだと思っているし、他は調整失敗だったり、自己管理できないルーズさが原因だろう。
体重超過対策としては――
- しっかり罰金をとる
- 超過された側の報酬アップ
- 超過幅によっては断固として中止
- 当日計量によるリバウンド制限
- 代役ボクサーの準備
- 違反側にサスペンドを課す
現実問題として、この6つを徹底するしかないという結論だ。
もっと切り込んでいくと――
水抜き減量法を禁止
という選択肢もある。
計量直前に一気に体内から水分を抜いて、計量後に水分を戻すというやり方だ。成功すれば、大幅にリカバリーできるし、節制する期間も短くて済む。ストレスも軽い。
成功すればメリットは大きいが、一種ギャンブル的な側面をもつ調整方法であり、水抜きするつもりが水を抜けない身体になってしまうと、大幅に体重超過してしまうのだ。要は調整ミスである。
この水抜き減量法が広まってから、明らかに減量失敗が増えた。
ネリ、セハの減量失敗はこの水抜き法を行っているからだと思われる。まあ、11ポンド超過はそれ以前の問題だが。
水抜きを禁止すれば、多くのボクサーは調整法を根本から変えざるを得なくなるし、クラスを変える者も出てくるだろう。けれど、ある程度の期間をかけて計画的に体重を落とさなければならなくなる(あるいは減量幅を減らす)ので、 減量失敗は激減すると思われる。
もっとも水抜き減量法を失敗していないボクサーにとっては迷惑な話なので、完全に禁止は現実的ではなく、体重超過者に限定して水抜き禁止にしては如何だろうか?