【WBA世界Lフライ級戦】京口紘人のV2について【1位の久田哲也に辛勝】
さあ、戯れ言《
京口、日本人対決を制しV2
令和に入ってから初となる男子世界戦での日本人対決――軍配は王者だった。
内容自体は非常に接戦だったが、スコア的には文句の付けようのない中差が付く。
対照的なキャリアを歩んできた両雄が交わったが、勝負とは残酷なまでに結果のみにスポットが当たり、時間と共にそのコントラストも鮮やかになってしまう。家族愛に彩られた感動という名の奇跡は起きなかった。
10月1日
会場:エディオンアリーナ大阪
WBA(S)世界Lフライ級タイトルマッチ
判定3-0(115-112、116-111、117-110)
勝利 スーパー王者
京口紘人(25=ワタナベ)
戦績:14勝(9KO)無敗
VS
敗北 同級1位
久田哲也(34=ハラダ)
戦績:34勝(20KO)10敗2分
※)京口はV2に成功
久田は46戦目での世界初挑戦
プロデビューは2003年だ。19歳だった。
アマ経験はない。
約16年近くを費やしての46戦――ここまで試合数の多い日本人ボクサーは近年では非常に珍しいといえる。あの《平成のKOキング》こと坂本博之でも通算で47戦だ。しかし坂本は途中で4度も世界挑戦している。坂本の場合、39勝(29KO)7敗1分であるが、元世界王者のコッジに判定負け、その後、世界戦に4度失敗、OPBF戦での敗戦、と7敗のうち5敗はタイトルマッチだった。最後の7敗目(ノンタイトル戦)は衰え切ったキャリア晩年である。他に平成以降で思い付く世界挑戦者は、坂本博之のライバルでもあったリック吉村か。47戦38勝(20KO)7敗2分。ただしリックが45戦目まで世界挑戦できなかったのはスポンサーの関係であり、通常ならばもっと早くに世界戦に到達できていた(見事な戦績の)ボクサーである。
※)久田に負けた堀川謙一(三迫)は39歳で56戦40勝(13KO)15敗1分だったりするが、堀川が世界戦をする事は現時点ではちょっと考えられない。
対して、久田のキャリアは波乱万丈だ。
デビュー戦はKO勝ち。
2戦目で判定負け(西日本新人王敗退)。
翌年の西日本新人王戦でも判定負け。
5戦3勝(2KO)2敗
さらに7戦目、11戦目でも判定負け。
11戦7勝(3KO)4敗
日本タイトル挑戦まで到達できれば御の字といった数字である。
しかし、そこから5連続KOを含む10連勝(6KO)を飾った。これで通算戦績は随分と見栄えが良くなる。21戦17勝(9KO)4敗
先(未来)に光明が差してきた。
ところが次戦で後の世界王者——田口良一に判定負けを喫してしまう。
更には、その後に連敗までする。3連敗は免れたものの、世界挑戦経験のある久高にはキャリア初となるKO負けを食らってしまった。
25戦18勝(9KO)7敗
普通だったら、ここでグローブを壁に吊るす。
再起戦はKO勝ちしたが、また次で判定負け。
27戦19勝(10KO)8敗
数字がドンドン悪くなっていく。もう普通に現役続行は無理だ。
しかし久田は諦めずに、再起戦でKO勝ち。
ところがそこから2戦連続でのドロー。
で、またしても判定負け。3戦連続で勝ち星なし。
31戦20勝(11KO)9敗2分
よく引退しなかったものである。
だが、ここから起死回生の快進撃が始まった。
最終回、左フックが爆発しての大逆転KO勝利で久田は覚醒するのだ。
再起後はなんと6連続KO勝利。
37戦26勝(17KO)9敗2分
A級トーナメントで優勝して日本タイトル挑戦へ。
判定で日本タイトルを獲得。悲願の王座である。
防衛5度(2KO)で世界ランクを上げ、いよいよ世界挑戦が見えた。
調整試合をKOで消化して、勝ち星を34勝(20KO)に。
年齢は34才になっていた。
2015年5月からは――
13勝(9KO)となっている。
奇しくも対戦する王者、京口紘人の通算戦績と同じであった。
執念で漕ぎ着けた世界戦の舞台。久田は「尊敬する」という若き王者に、それまでのボクシング人生の全てを掛けて挑んだ。これまで支えてくれた妻と3人の子供に、世界チャンピオンの自分をリングの上で見せる為にも。
京口紘人のチャンピオンロード
25歳の若き2階級覇者。
しかもデビューから1年3ヵ月という最速記録で世界王座(IBFミニマム級、8戦目)に到達した。挑戦者とは対照的な無駄のないキャリアである。
デビューから6連続KOの快進撃でOPBFミニマム級王座。
防衛戦で連続KOは途切れたものの、次戦で念願の世界王座を獲得(判定勝ち)。
8戦8勝(6KO)無敗
2度の防衛後、減量苦を理由にタイトル返上。
10戦10勝(7KO)無敗
Lフライ級でのテストマッチをKOで飾る。
そしてジムの先輩王者、田口から統一王座を奪った(IBFは返上)ヘッキー・ブドラー(南ア)を10回終了TKOで下し、2階級制覇を達成した。
だが、V1戦は格下相手に不本意な判定勝ち。
13戦13勝(9KO)無敗
世界戦は5勝(2KO)無敗
強打とKOが売りだが、世界戦でのKO率は40パーセントに留まっている。
京口が日本人と対戦したのは3戦目のみ。
ここ(日本人対決)で圧勝できないと、対立王者でありLフライ級で最強との評価を固めているWBC王者、拳四朗(16勝9KO、世界戦7勝4KO)との差は、開く一方である。この日本人対決に圧勝して、拳四朗や他の王者達に存在感を示したいところであった。
スポンサーリンク
試合展開と内容
V6戦を1位の強敵相手に、4回に鮮やかなKO葬を披露した拳四朗。
京口も同じ1位相手の指名試合とはいえ、久田の実績面を考えると中盤までに圧倒的なKOで決めてアピールしたいというのが本音であろう。久田のレコードから推察するに、仮に今の拳四朗と久田が戦えば、中盤前後でのKOか大差の判定でWBC王者が格の違いを見せつけるのが必至だろうから。
第1ラウンド――ほぼ互角。
あえて振るならば、京口のジャブである。
第2ラウンドに山場がやってきた。なんと京口が2度もグラつく。しかも2度目は大きく腰砕けになって、ロープ際までよろめいた。ダメージは深刻だった。京口の右に合わせた、インサイドからの右クロス。久田は京口のボクシングをよく研究しており、早い段階からカウンターを合わせるタイミングを探っていた。売りの左フックよりも、この日は右アッパーと右ストレートが冴えていた。
KOチャンスであったが、ここで一気にいけなかったのが、振り返ってみれば久田にとっては最大の敗因だっただろう。効かされた京口は前に出て応戦という選択肢を採ってくれたのだから、玉砕覚悟で倒しにいくべきであった。
3回から京口が立て直しを図る。
頭を良く振って的を絞らせない京口であるが、打つ際にも必要以上に頭を振ってしまい、パンチが必要以上にワイルドになっていた。狙われている右は見せパンチに使い、ジャブと左ボディ、そして左アッパーを効果的にアピールしていく。
両者の実力に差はないが、京口が上手くポイントを拾うという展開が続いた。
第6ラウンド――京口の右が久田のこめかみ上を掠り、これが効く。今度は久田が大きくグラついた。この時点で、判定までいけば久田は苦しくなるという印象。
第8ラウンド――久田の右アッパーが芸術的に決まる。ただし倒せなかった。
第9ラウンド――京口がダウンを取る。右アッパーから打ち下ろしの右を叩き込む。スリップに見えるほど豪快に、久田は前のめりにキャンバスにダイブした。だが致命傷ではなく、立ち上がって応戦する久田。KO狙いでラッシュを仕掛ける京口であったが、フラフラながらも久田が頑張り、決着ならず。京口はダウンの追加も、レフェリーストップに追い込む事もできなかった。
ここから先はシーソーゲームに映る。
しかし明白に久田に振れるラウンドは少なく、10ポイント・マスト・システムを考慮すれば、判定で久田が勝つのは不可能――もう逆転KOを狙うしか道はない。
両者スタミナを消耗し、11回からは泥試合に。
ラストラウンドは王者が足を使って流し、判定へのゴールテープを切った。
実力を出し切り、強打とタフなハートを見せつけた久田であったが世界王座には届かなかった。WBA正規のカニサレス、WBCの拳四朗、IBFのアルバラード、WBOのソト――この日の京口に勝てないのならば、これらの4王者の攻略は無理であろう。おそらく、このまま引退すると思われる。
地元大坂での人気、声援は京口を上回っていた。
彼は世界タイトル(と大金)以外の全てを、ボクサーとして手にしたのではなかろうか。
生き残った京口は――
この2019年はもうリングに上がらない意向だ。
来年以降はカニサレスとのWBA団体内統一戦に向かう公算が高い。拳四朗との統一戦を見てみたいが、ほぼ確実に負けると思う。前戦、今戦と評価は下がりっぱなしだ。ブドラーを倒して得た評価の貯金も底を突いてしまった。カニサレスと戦って明白に勝てるのか? この辺が今度のターニングポイントになる。
世界戦6勝(2KO)無敗
Lフライの世界レベルでは強打者ではないかも。
単発ならば拳四朗の方がパンチあるだろう。
パンチは世界レベルでは並と自覚して、今とは違ったボクシングスタイルを模索するのも良いかもしれない。まだ若いのだ。少なくともジャブを軸とした技術面は確かだし。
引導を渡した久田の為にも、もっとステップアップやマッチアップして、単独地上波での舞台に上がり注目を浴びて欲しいものである。