【WBO世界Sフライ級戦】井岡一翔が4階級制覇について【パリクテを10回TKO】
さあ、戯れ言《
【引用元――スポニチアネックスより(撮影:長久保 豊)】
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井岡、見事なKO勝利
6月19日
会場:千葉、幕張メッセ
WBO世界Sフライ級王座決定戦
TKO10回1分46秒
勝利 同級2位
井岡一翔(30=Reason大貴)
戦績:24勝(14KO)2敗
VS
敗北 同級1位
アストン・パリクテ(28=比)
戦績:25勝(21KO)3敗1分
※)井岡は日本人男子初の4階級制覇を達成
井岡が見事に悲願を結実させた。
束の間の引退を挟み、約2年2ヵ月ぶりとなる日本のリング。前戦、大晦日マカオでの敗北により、仮にこの日に負け連敗を喫してしまうと、その内容如何では否応なしに「引退」の二文字を突き付けられてしまう、いわば運命のリングでもあった。
そういった経緯については、以下の記事を参照ねがう。
◆合わせて読みたい◆
まずは「おめでとう。素晴らしかった」と称えさせて欲しい。
パウンド・フォー・パウンドのトップを競っている3階級王者、井上尚弥は別枠にしても、亀田興毅、長谷川穂積、八重樫東という歴代の3階級王者達を超えて、日本人初の4階級目の世界王座に到達だ。最速3階級王者の田中恒成は、彼自身の4階級目を賭けて井岡との決戦を希望している様だが、当の井岡は海外でのビッグマッチ路線を目指す意向。
これで世界戦も15勝(9KO)2敗となり、具志堅用高の14勝を超えた。
世界戦での勝利数については、13勝(12KO)の井上尚弥に最終的には抜かれるだろうが、当時は新設階級で層が極端に薄かったLフライ級のみでの勝ち星の具志堅と比べて、Sフライ級でのKO勝利も加えた井岡の方が、単なる通算数のみならず内容(質)でも上回っていると、個人的には思っている。意地の悪い言い方をすれば、当時であっても具志堅はSフライ級の日本王者にも勝てなかっただろう。
井上と田中、という規格外の才能に隠れがちであったとはいえ、日本ボクシング史上において、傑出している名王者である事に、誰も異を唱えない筈だ。まあ、階級の層と人気を考えれば、1階級のみでもSフェザー級以上の王座に価値は劣るかもしれないけれど。
何はともあれ、井岡は背水の陣であった。
ドニー・ニエテス戦での4階級アタック失敗は、井岡の商品価値を下げる様な内容ではなく、むしろ上がったとさえ評価されていたが、今回の対戦相手のパリクテはそのニエテスとドロー。パリクテとのリマッチ(指名試合)を嫌ったニエテスが井岡との試合で獲得したWBO王座を放棄したので、井岡は再起戦がダイレクトに世界タイトルマッチとなる。
ニエテスと引き分けた相手に勝てば未来への道は拓ける一方で、仮に惨敗でもしようものならば、その先の試合は良くて高級咬ませ犬だろう。負けて全てに近いモノを喪う――という意味では井岡にとって初めての試合といえた。
井岡はパリクテに激勝する。
それは日本人初の4階級制覇という偉業や、再起に成功という意味合い以上に、井岡の商品価値を更に高めて、海外での対立王者たちとの統一戦をはじめとした、ビッグマッチ路線への参加許可証(チケット)を手に入れたという事でもあった。
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戦前の予想
個人的には全くの五分だと予想していた。
期待は井岡の4階級制覇。けれど、井岡のKO負けも充分にありえると思っていた。
パリクテはその戦績とKO率に相応しい強打を誇っており、フレーム(体格)面でも井岡を明白に上回っている。世界王者未経験者ではあるものの、前途したニエテスと引き分けており、世界ランカーとしては最上級の相手なのは間違いない。
難敵で強敵だ。
ただし、ボクシングには単純な三段論法は適用されない。
相性の方が大きかったりする。井岡にとって防御スキルが五分で、左の差し合いと攻撃のバリエーションで劣っていたニエテスよりも、パワーと強打で荒々しく押してくるパリクテの方が相性が良く、与しやすい相手である。ニエテスよりも持ち味を発揮できるのだ。
展開はボクシングファンならば容易に予想可能である。
両者のスタイルが明白に咬み合うからだ。
序盤は確実にパリクテが出てくる。井岡を攻めるし、井岡は後手に回って防御主体になるだろう。その序盤で井岡が致命的なダメージを負えば、中盤以降にKOもしくはストップされる危険性が高い。逆に序盤を凌ぎ、パリクテの距離とタイミングを覚えれば、井岡が堅実にポイントをピックアップしていく。
パリクテが倒すか、井岡がゲームメイクするか。
試合展開はこの2パターンにしかならないと、僕は思っていた。
試合内容を振り返る
序盤の1回から3回。
リーチ差から井岡は自ら距離を詰める事を選択。これは妥当だろう。
対するパリクテは迎撃の際のアッパーが印象的であった。
強い。やはりパリクテはパンチがある。ガードの上からでも効いている感じだ。
スピードはほぼ互角だろう。誰もが予想した通りの序盤戦だった。
ポイントはパリクテ。けれど井岡も効果的なアピールシーンが散見できた。
中盤の4回から6回。
井岡がペースを握っていく。
ギアアップというよりは、パリクテを学習し終えたのだろう。仮にだが、井岡に井上尚弥の様な強打があれば、この中盤で倒していたと思う。
とにかくディフェンスが堅実だ。
反面、やはり天性のパンチ力に欠けているのが目立ってしまう。
事故らない限り、このペースを維持したまま、井岡が小差から中差でポイントアウトするんだろうな、という雰囲気が濃厚に。強打を空振りし続けた影響で、パリクテのスタミナが落ちている。互角だったスピードも井岡より失速した。
勝敗を分けた7回。
このままだと判定で試合を落とす――と悟ったパリクテは、思い切って井岡を倒しに来た。KO狙い。スタミナと力を振り絞った連打で、一か八かの大博打だ。で、コーナーに追い詰められた井岡はダウン(倒れた時にパンチは当たっていなかった)するも、スリップ判定。井岡もダメージを被ったが、それ以上にパリクテは体力を使い切った様子である。ぶっちゃけ、この時点で勝負あり。
スリップ後に打ち合いに応じた井岡が、ワンツーや左ボディと強烈なパンチをパリクテに叩き込む。解説の内藤大助が大興奮であった。これには苦笑。
本来、井岡はクロスレンジでの打ち合いは上等だし、当て勘もロングよりある。Sフライに上げてからは、無理にいかなくなっただけで。けれど、ここで打ち合いを選択した勇気が、後のKO決着に繋がった。
終盤8回からKOラウンドまで。
8回は両者、ややスタミナ回復に努めた印象か。
9回で井岡が明白に攻勢に立つ。前進する井岡に対して、足が動かないパリクテには余裕が一切なくなっていた。井岡の試合巧者ぶりが輝く。素晴らしいボクサーだ。
そして10回。――幕切れは唐突に。
緊迫した攻防の中、右ストレートがヒットし、パリクテにダメージを与えたその後、井岡は猛然とラッシュして相手を人間サンドバッグに。危険な状態に陥ったパリクテをレフェリーが救出して、井岡の劇的なTKO勝利となる。
雄たけびを上げた井岡はコーナーポストに登り歓喜を爆発させた。
おめでとう、井岡一翔
そして、素晴らしい試合をありがとう。
多くのボクシングファンはこの思いを胸に抱いた筈だ。
予想通りのファイトプランであったが、それを完璧にゲームメイクした。ここまで適切に戦略を実行に移せるボクサーは、その高い技術と相成って世界でも稀有だろう。
Sフライでは体格負けしている印象が「まだ」拭えないが、この日のKO勝利により、井岡の技術に力強さが伴ってきているのは間違いない。
試合後の一問一答の一部を、スポニチアネックスより抜粋。
――ベルトの感触は。
井岡「いろんな意味で重たい。大みそか悔しい思いして、今回チャンス巡ってきた。そこから、このベルトをとるためだけを考えて生きてきた。自分でも4階級制覇は、復帰してからも簡単ではない険しい道でしたけど。大みそかの続きをこういう形で意味があることを証明できた。4階級のストーリーができた」
――ここから思い描くものは。
井岡「死にものぐるでこのタイトル獲ったので、このWBOのベルトを海外にいくチケットとして海外の他団体の王者と戦いたい」
――今だからいえるしんどさはあるか。
井岡「プレッシャーでしょ。ここまでやるって言って。ボクシングに踏み入れた以上、口だけで終われない。リングの上で証明するしかない。一度、引退して復帰して、より大きなこと言っているので。言って、大みそかがあって。それで今回、ただならぬ気持ちで人生を懸けて。負けられないというプレッシャーがある。相手が強いの分かっている。そうとうなプレッシャーがあった。どんなときも強い気持ちを持って、一日一日、わかりやすく言えば、明日のことを考えずに全力でチームで練習をこなそうと思った」
――感情が高まったのは久しぶりか?
井岡「試合前からいろんな感情がこみ上げてきた。泣きそうになるじゃないですけど。奮い立つものが常にあった。それをみんなに分かってほしいじゃないけど、ずっと追われてている気持ち。追い詰められている。でも、自分でやっているし、これだけの舞台を用意されているのは、限られた人しかいない。このリングでできることを幸せをかみしめて、結果で感謝を示す気持ちでやった」
――今後は海外か?
井岡「そうですね。今日は久しぶりに日本で試合ができて、力をもらえた」
――パワーと技術の融合は?
井岡「だいぶ分かってきた。階級を上げて、この階級での大事なところとスキルアップしないといけないことがマッチした。成長しないと勝っていけない。今回もできることを準備しただけでなく成長できたから勝てた。次、勝つためにも成長できるようにまた頑張りたい」
――海外で戦いたい相手は?
井岡「いや別に…。エストラーダ選手ですかね。ずっと近いところにいる。すごい彼は世界的に評価されている。メキシコでも、アメリカでも人気。一緒の興行でもやっている」
WBOの指名挑戦者として(フライ級V2後に)田中恒成が名乗り上げるかもしれないが、正直にいえば、井岡VS田中はあまり見たくないかな。けれど、井岡が大晦日に穴を開けた際、田中が代役的にLフライ級での防衛戦を行った経緯があるので、その借りを返す為にも井岡は田中との対戦に応じざるを得ないかも。
個人的には、井岡にはアンカハスと統一戦をしてIBFのベルトをゲット⇒エストラーダ⇒ロマゴン、というマッチメークでいって欲しい。
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京口、KO逃し判定でV1
同日、セミファイナル
WBA(S)世界Lフライ級タイトルマッチ
判定3-0(117-111×2、117-112)
勝利 スーパー王者
京口紘人(25=ワタナベ)
戦績:13勝(9KO)無敗
VS
敗北 同級10位
タナワット・ナコーン(26=タイ)
戦績:11勝(5KO)1敗
※)京口はV1に成功
試合前の公約通りに、京口がKO防衛すれば単独記事の予定だった。伊藤雅雪も単独記事を書く前に陥落しちゃったし。木村翔も負けた。
強打とKOが売りなのに、V1用の咬ませ犬をKOし損ねるとは。
残念だ。
ブドラー(南ア)を攻略した時の期待感(この階級で最強やビッグマッチを狙う)が霧散してしまう内容である。統一戦を目指すといったところで、今の知名度では興行的に旨味はないだろう。WBO王者のアコスタとの試合は(たぶん今のままだとKOで倒されるけれど)見てみたいが。拳四朗戦はまだいいかな。
現状、Lフライ級のタイトルホルダーの中で1番低評価になってしまった。
つーか、世界戦5勝(2KO)である。
しかも綺麗にノックアウトしたKO勝利ではなくストップと棄権。
世界レベルだと果たして一級品の強打者なのか少々怪しげかも。