【フィリピーノフラッシュ】ノニト・ドネアについて【5階級制覇】
さあ、戯れ言《
ノニト・ドネア
ドネアといえば、(日本の)ボクシングファンの間では親日家として知られている。ゆえに日本には彼に親しみを覚え、彼のファンが非常に多い。
それは時に、現状の彼を世界のトップボクサーだと誤認識してしまう程に。
ノニト・ドネア(36=フィリピン)
通算戦績45戦40勝(26KO)5敗
世界戦は21戦17勝(11KO)4敗
珍しい事に、敗戦を除けば通算と世界戦でのKO率(6割くらい)にほぼ差がない(通算KO率8割を超えるボクサーは例外中の例外)。それはドネアのKO発生が対戦相手の(防御)レベルよりも、彼のボクシングスタイルに因るところが大きいからであろう。
躍動感あふれる前後の動きと一瞬で距離を詰める大胆なステップイン+左フックでのカウンターが主軸(武器)であるが、KO狙いが過ぎたり、相手を見過ぎて待ちのボクシングになる事もしばしば。KOパターンから展開が外れると、手数が不十分になってしまい、結果、自慢の1発が空砲化してKOを逃してしまう。逆に言えば、ツボにさえ嵌れば、その破壊力からどんな相手でも倒してしまえるポテンシャルを秘めている。
獲得した世界タイトルは――
IBF世界フライ級王座(防衛3=返上)
WBA世界スーパーフライ級暫定王座(防衛1=返上)
WBC世界バンタム級王座(防衛1=返上)
WBO世界バンタム級王座(防衛1=返上)
※)WBCとWBOは統一タイトルとして保持
WBO世界スーパーバンタム級王座(防衛3)
IBF世界スーパーバンタム級王座(防衛0=返上)
※)IBF王座はWBO王座との統一戦で獲得
WBC世界スーパーバンタム級ダイヤモンド王座
リングマガジン誌スーパーバンタム級王座
WBA世界フェザー級スーパー王座(防衛0)
WBO世界スーパーバンタム級王座(防衛1)
WBA世界バンタム級スーパー王座(防衛1、継続中)
こうして並べると壮観だ。5階級に渡り、10本もの主要4団体のベルトをコレクションしている。意外にもリングマガジン誌のベルトは1本のみだが。
そんな偉大なるフィリピン人ボクサーのこれまでを、簡潔にまとめつつ、僕の主観と私見を交えて述べていこうと思う。異論や反論は認める。
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アマチュア時代から世界王座獲得まで
アマチュア時代から、ドネアは輝かしい記録を残している。
階級はライトフライ級だった。
15歳でナショナルシルバーグローブ優勝。翌年の16歳時には、ナショナルジュニアオリンピックで優勝している。注目度の低い軽量級とはいえ、ミドルティーン時代からボクサーとしての将来を期待されている逸材だったのは間違いない。
17歳時にはUSナショナルトーナメント優勝を飾っている。ちなみにドネアはフィリピン生まれのフィリピン人であるが、ドネアが11歳の時に家族と共に渡米(ゆえにフィリピン国籍とアメリカ国籍を保持)している。アメリカに渡った後、僅か4年ほどでナショナルシルバーグローブを制するまで頭角を現しているのだから、その才能は後の戦績を裏付けるのに充分だ。
そんな才気溢れるドネアであったが、しかし2000年のシドニーオリンピック国内予選選考会で敗退。五輪出場を逃す。ドネアは4年後を待たずに、プロ転向を選んだ。
アマチュア通算戦績:76戦68勝(5KO・RSC)8敗
プロ転向は2001年。階級はフライ級でスタートする。
第2戦目で判定負けを喫し、いきなり躓いてしまう――が、そこからレコードを立て直し、16連勝する。その時点での戦績は18戦17勝(10KO)1敗
ドネアは19戦目で待望の世界タイトル初挑戦を迎えた。対するIBF王者はビッグ・ダルチニアン(オーストラリア)だ。この時のダルチニアンは全勝負け無しで、キャリアを通じて絶頂期である。
不利予想を覆して、ドネアは5回TKOで難敵を撃破。
後の世界タイトルコレクターであり、5階級制覇王者となるドネアの第1歩が始まった。
このIBFフライ級タイトルは3度防衛(全てKO)し、返上。V2戦では元IBFフライ級王者、ムザラネ(南アフリカ)を破っている。
ドネアはクラスを上げて2階級制覇に挑む。ドネアにとって世界タイトルはゴールではなく、スタート。減量苦を抱えながら無理に王座にしがみつく理由はなかった。
この時点での戦績は22戦21勝(14KO)1敗
世界戦では4戦4勝(4KO)とパーフェクトレコードだ。
2冠目の相手(ターゲット)はラファエル・コンセプシオン(パナマ)である。コンセプシオンとWBA世界Sフライ級暫定王座決定戦を行い、12R判定勝ちでタイトルを獲得する。そこからノンタイトル戦で元WBOミニマム級暫定王者のバルガスをKO。次のV1戦で元WBAフライ級王者のマルケスをKO(その後、王座を返上)。
そしてドネアはバンタム級に進出するのであった。
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3階級制覇し、名声と栄光の絶頂期へ
バンタムの初戦は、WBC地域タイトルをシドレンコ(ウクライナ)と争う。
シドレンコは元WBAバンタム級王者だ。池原信遂と防衛戦を行い判定で退けている。その元王者を圧巻の4回KOで葬ってみせた。衝撃的かつ圧倒的な強さで、ドネアのベストファイトの1つだろう。
戦績を26戦25勝(17KO)1敗に伸ばす。
世界戦での通算は6戦6勝(5KO)となっている。現役の世界王者を1名、元世界王者を4名も撃破という破竹の勢いだ。
この時点でドネアの名は日本のボクシングファンにも知れ渡っていた。
満を持しての3階級アタック。
相手は日本でもお馴染みとなっていたフェルナンド・モンティエル(メキシコ)である。フライ、Sフライ、バンタムのWBO3階級王者だ。そして長谷川穂積のV11を阻止(4回TKO)して、WBC王座も吸収しているWBC&WBO世界バンタム級統一王者である。
『日本のエース』長谷川を見事に一蹴したモンティエルであったが、下馬評では圧倒的に(挑戦者である)ドネアが有利。
その予想を覆す事なく、モンティエルは2回TKOに散る。
まさに“閃光の左”としか形容できない稲妻めいた左フックが、モンティエルの側頭部を無慈悲に打ち砕き、彼をキャンバスに沈めた。
そのダウンシーンは、ドネアにとって最高の一瞬となる。
このKOシーンは衝撃をもって世界中に拡散、認知され、同年のリングマガジン ノックアウト・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。ダルチニアンをKOした試合に続き、2度目の受賞となり、これは元ヘビー級統一王者、レノックス・ルイス以来となる2度受賞となった。また、この試合はWBC年間KO賞にも輝いている。
IBFフライ、WBAスーパーフライ(暫定)、WBC&WBOバンタム。3階級制覇と共に、ドネアはアジア人では初となる主要4団体のベルト全てを手にした。余談だが、日本でも高山勝成がミニマム級で4団体全てのベルトを獲得している。1度目のWBO獲得については「?」だけれど。
V1戦は井上尚哉との一戦で日本ボクシングファンにも記憶に刻まれている、WBOフライ&WBOスーパーフライの2階級王者、オマール・ナルバエス(アルゼンチン)を迎え撃つ。これまでのキャリアで最高の強敵だ。
この試合、ダウンこそ奪えなかったがドネアの完勝。判定にてナルバエスに初黒星を擦り付けた。なお、このナルバエスを僅か2回で粉砕した井上尚哉は、この時点のドネアと比較しても遜色ない戦力といえよう。
統一王座V1をもって、ドネアは3戦でバンタムを卒業(通過)する。
戦績は28戦27勝(18KO)1敗
世界戦だと8戦8勝(6KO)となる。
対戦相手の質こそ劣るものの、ナルバエスという同じ相手とも試合している井上(同じ3階級制覇、バンタム級2戦)の戦績――17戦17勝(15KO)無敗、世界戦12戦12勝(11KO)は、ムチャクチャなレコードだと改めて実感した。
で、ドネアはSバンタム級へとアップする。
実にとんとん拍子だ。乗りに乗っているボクサーの典型かも。
元3階級王者で、日本でもお馴染み――横田広明(判定)、葛西裕一(1回TKO)、渡辺雄二(5回TKO)との試合で来日――ウィルフィルド・バスケスの息子であり、元WBO世界Sバンタム級王者(史上4組目の親子世界王者)と、WBOスーパーバンタム級王座決定戦を行う。
辛くもスプリットデシジョンで判定をものにし、ドネアは4階級制覇を達成。
だが、フライ級スタートの4階級目で、流石に圧倒感は薄れてきたか?
テクニシャン型ではなく、スピードはあってもパンチャー型(しかも連打系ではなく1発&カウンター系)であるので、間違いなく階級の壁は存在する。
初防衛戦はIBF世界Sバンタム級王者のマゼブラである。統一戦でもあった。この試合もKOを逃し、判定でのV1&王座統一となった。
Sバンタムは2戦して0KOだ。
戦績は30戦29勝(18KO)1敗
世界戦だと10戦10勝(6KO)である。あれれ?
KO率が下がり、トップ・オブ・トップとしてみると、気のせいか凡庸な数字になってきている。最初(フライ級)の4連続KOした試合を除くと、(Sフライ級以上での)世界戦は6戦6勝(2KO)となり、ファンがドネアに抱いているイメージよりも倒していないではないか。
そうはいっても連勝(この時点で28)が止まったわけではないし、対戦相手の質も高いので、ドネアの評価は落ちていない。
V2戦はご存じ、“スピードキング”西岡利晃である。
WBCタイトルを返上(V7)して、WBC名誉王者に認定された西岡は花道(引退試合)としてドネアに挑んだ。日本人ボクサーがパウンド・フォー・パウンドに連なる海外でのトップクラスと試合をするという、いわばパンドラの箱を開けた一戦でもあった。
日本のマスコミはWBC名誉王者とWBO王者(IBFは返上済み)の統一戦と喧伝したが、名誉王者は譲渡不能な称号なので、WBO2位として西岡が普通に挑戦しただけである。まあ、WBCダイヤモンド王座とリングマガジン王座も掛かっていたので、統一戦という表現はあながち外れでもないが。
西岡を9回TKOで粉砕し、V2に成功。
続くV3戦では、当時ですら懐かしというか「まだ現役だったのか」という印象のホルヘ・アルセ(メキシコ)を、3回KOで難なく下す。この2戦はミスマッチだった。
戦績は32戦31勝(20KO)1敗
世界戦レコード12戦12勝(8KO)無敗
階級別にみると――
フライ級:4勝4KO
Sフライ級:2勝1KO
バンタム級:2勝1KO
Sバンタム級:4勝2KO
各階級で50%のKO率はキープしている。
しかし。
ぶっちゃけ、ドネアの栄光はここまでであった。
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痛恨の敗戦、低迷、そして……
ファンが抱いている命題――
果たして“フィリピンの閃光”は、同じフィリピンの英雄、マニー・パッキャオ(実質、8階級制覇)の後継者になれるのか?
その問いに対する答えとしての第一関門を、ドネアは迎える。
WBA世界Sバンタム級王者、ギレルモ・リゴンドウ(キューバ)との王座統一戦だ。しかし、この試合に限っては世界王座は飾りに近い。
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純粋にリゴンドウという超一級品のボクサーに勝てるか否か。それのみを問われる試合であり、試練であった。ドネアの未来と真価が試される時が、ついに訪れる。
逆に言えば、この試合をクリアできなければ、パッキャオの後継者など夢物語だ。フェザー級はともかく、6階級目のSフェザー、7階級目のライト、パッキャオに並ぶ8階級目だとSライト、この階級まで到達できるとは到底、思えないから。
ドネアのキャリアでの強敵は、ダルチニアン、ナルバエス、バスケスJr.、大甘にみて西岡、シドレンコ。これくらいだろう。彼等に比べると、リゴンドウは遙かに格上だ。
そしてドネアにとっては初となる『真の』ビッグマッチである。
結果――、ドネアは判定で完敗。
パッキャオの後継者は無理という残酷な現実を突きつけられた。
不調だった右肩の手術明けとなった再起戦(フェザー級に上げた)で、かつてフライ級で対戦したダルチニアンとのリマッチに臨む。9回TKOで返り討ちにするも、以前は完勝した相手に大苦戦した。
リゴンドウ戦で一気に落ちたな。そんな印象が強く残る。
復活のイメージがないまま、ドネアは5階級目となるフェザー級で世界挑戦した。相手は、かつて長谷川穂積のWBCバンタム級タイトルに挑み、1回TKO負けしている、シンビウィ・ベチュカ(南アフリカ)だ。
衰えが顕著だった名王者クリス・ジョン(インドネシア)から、WBA世界フェザー級スーパー王座を奪取したベチュカであったが、5回早々の負傷判定にて、ドネアに5階級制覇をプレゼントしてしまった。
ちなみに息の長かったジョンであるが、佐藤修、武本在樹、榎洋之、木村章司、細野悟との防衛戦を含めてV18に成功している。在位期間は約10年だった。
一応、5階級制覇である。
戦績は35戦33勝(21KO)2敗
世界戦だと14戦13勝(8KO)1敗となった。
まだまだ見栄えする数字といえよう。
5階級制覇したドネアであったが、次戦でフェザー級での実力が露呈してしまう。
WBAスーパー王者とWBA正規王者での団体内統一戦だ。
相手は後にロマチェンコと戦い、6回終了時にギブアップして「ロマチェンコ勝ち」を贈呈した、あのニコラス・ウォータース(ジャマイカ)である。
圧倒されたあげく、6回でKOされてしまう。
初のKO負けである。というか体格的、パワー的に「フェザーじゃ厳しいだろう」という雰囲気がプンプン漂っていたので、別に衝撃でもなんでもなかった。至極順当に「あ、やっぱり負けたか」という何の感慨もない感想のみが、僕の中に残った。
この試合後、ドネアは「深刻なダメージを被る前に、6回で綺麗に倒してくれたウォータースに感謝している(意訳」というSNSを発信しており、フェザーから撤退およびSバンタムへのリターンを示唆した。
戦績は36戦33勝(21KO)3敗
世界戦で15戦13勝(8KO)2敗
階級別だと世界戦は――
フライ級:4勝4KO
Sフライ級:2勝1KO
バンタム級:2勝1KO
Sバンタム級:4勝2KO1敗
フェザー級:1勝0KO1敗
で、ドネアは宣言通りにSバンタムに戻る。
再起戦、再起第2戦を連続KOでクリアして、WBO世界Sバンタム級王座決定戦に漕ぎ着ける。その試合を判定で勝ち、世界王座に復帰、Sバンタム級でのドネア第二王朝へ発進したと思われた。
しかし無名相手に3回TKOで初防衛に成功するものの、Sバンタムに復帰後で初となる強敵――ヘスス・マグダレノ(アメリカ)にタイトルを奪われてしまう。
この時点での戦績は41戦37勝(24KO)4敗
世界戦に限定すると18戦15勝(9KO)3敗
さらに階級別だと
フライ級:4勝4KO
Sフライ級:2勝1KO
バンタム級:2勝1KO
Sバンタム級:6勝3KO2敗
フェザー級:1勝0KO1敗
身も蓋もなくいえば、マグダレノに負けるまで無名相手に勝ち星を重ねた(追加した)反面、残り限られている現役の時間を浪費しただけの様な……
マグダレノに実質的な引導を渡された。
そんな世間のイメージの中、ドネアは迷走し始める。
なんとフェザー級に階級を戻したのだ。
ンな無謀な。
再起戦でWBC世界フェザー級シルバー王座を獲得する。これでWBCタイトルの指名挑戦権を得た筈だが、次戦でWBOフェザー級の暫定王座決定戦を選び、しかも判定で落としてしまった。
対戦したカール・フランプトン(アイルランド)は元IBFスーパーバンタム級王者、元WBAスーパーバンタム級スーパー王者、元WBAフェザー級スーパー王者であり、衰えたドネア(しかもフェザー級で)に勝算なんて無かった様に思えるが……
流石に潮時、もう引退した方が良いのでは。
戦績は43戦38勝(24KO)5敗
世界戦は19戦15勝(9KO)4敗
さらに階級別だと
フライ級:4勝4KO
Sフライ級:2勝1KO
バンタム級:2勝1KO
Sバンタム級:6勝3KO2敗
フェザー級:1勝0KO2敗
5階級も制覇した割りに、実相はショボい数字になっている。
Sフライ級以上:11勝(5KO)4敗
バンタム級以上:9勝(4KO)4敗
Sバンタム級以上:7勝(3KO)4敗
上の階級にいけばいく程、世界戦での結果は付いてきていない。
振り返ってみれば、世界戦でKOできた強敵って、フライ級時代のダルチニアンただ1人だったのでは? 逆にKOされたのはウォータースのみというのは立派だが。
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WBSSでラッキーマンになる
現役続行、ドネアの迷走は加速する。
なんとバンタム級のWBSSにエントリーしたのだ。
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確かにバンタム時代のドネアは光輝いていた。ドネアのベストはバンタム級だと主張するファンも多い。まあ、実はたったの3戦しかバンタムでは試合していなかったりするが。しかし、その3戦すべてがインパクト抜群だった。
過去の選手として認識されているドネアの役割は、トーナメントの枠を埋める事と、屈辱であるが――噛ませ犬。いわゆる「高級かませ」というやつである。
ルイス・ネリ(メキシコ)の体重超過(WBC王座を剥奪)および信頼性の関係で、WBC王者は不参加というかWBSSシリーズ開幕当初はWBCは空位で、かつネリの参戦も見送られた。
よって、主催者側からすると準決勝はこうなると想定だ。
準決勝その1
WBA正規王者 井上尚哉(日本)
VS
IBF王者 エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)
準決勝その2
WBAスーパー王者 ライアン・バーネット(英)
VS
WBO王者 ゾラニ・テテ(南アフリカ)
まあ、こうなれば盛り上がるだろう。
WBCを除く世界王座統一戦トーナメントっぽいし。
井上側のブロックは想定通りの顔ぶれとなる。
順当に王者2名が勝ち進み、準決勝で統一戦と相成った。
問題は反対側のブロック――テテ側だ。
決勝の顔合わせは井上尚哉とゾラニ・テテを第一に考えたトーナメント組み合わせであったが、バーネットとドネアの試合で番狂わせというか、波乱というか、アクシデントが起こってしまった。
バーネットが持病の腰痛を3Rで悪化。
ドネアをコントロールし切れなくなっていく。
そして4Rに空振った反動で、とうとう腰がクラッシュ。しゃがみ込んでダウン裁定となってしまう。ダメージもへったくれも関係なく、重度の腰痛は地獄の苦しみだ。
4回終了でバーネットは棄権して、ドネアのTKO勝ちになった。
日本のドネアファンは「ドネア、復活!」と大喜びだ。
いやいやいやいや。
試合をちゃんと見たのか? 腰をやる前までドネアはバーネットにコントロールされていたし、4回終了時点での採点でも優勢なのはバーネットだった。
そもそも採点とか試合内容以前に、腰を痛めちゃったバーネットを倒せないって、ドネアとバーネットには相当な地力差があるだろうに。
皮肉な事に、このTKOがドネアの全キャリアを通じて、最も強い相手を倒したという記録になってしまう。
ボクシングにアクシデントは付きもの。気持ちを切り替えよう。
テテ対ドネアだって充分に魅力的なカードだ。
普通にテテがドネアを完封するだろうが、ドネアだって1発があるので、ひょっとしたら、ひょっとする。前途した通り、よくよく分析すると本当の強敵相手にその1発が当たった事は皆無だけれど。
ドネアとしても残り少ない現役の時間。
勝算は僅かでも、テテと統一戦をしたかったに違いない。
しかし、だ。
そのWBO王者であるが、試合直前に故障して、トーナメントを棄権(キャンセル)してしまったではないか!
おいおいおいおいおい。
で、ドネアは代役のステファン・ヤング(アメリカ)を6回KOで破った。
世界初挑戦のヤングはWBA5位、WBO9位のランキング。22戦18勝(7KO)3分という戦績で、NABA北米バンタム級タイトルを獲得している。
この相手に苦戦する程、ドネアも錆びついてはいなかったというわけだ。
ドネアファンは狂喜乱舞する。
「圧倒的なKOでドネアが決勝に進出した!」
日本のファンも一部は喜ぶ。
「テテよりも知名度のあるドネアが勝ち上がって、井上と戦う事になって良かった」
「井上尚哉とドネアの試合が観たい」
ただし、贔屓目なしでフラットにみる事ができる日本のボクシングファンは、冷めた意見を述べている。
「バーネット故障、テテ故障じゃ、テテ側のブロックの意味ないじゃん。井上側のブロックだけでいいし、WBSSの意義も薄れてしまった」
正直いってパンチ力こそ健在だが、その他のファクターは全盛時よりも明白に落ちており、結論するとバーネットが故障しなければ、あのまま負けていただろうし、テテと試合しても、やっぱりドネアは勝てなかっただろう。
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井上はドネアに圧勝できるか?
WBSS決勝――井上VSドネア。
断じて夢のカードなどではない。
モンティエルをKOした頃のドネアならともかく、井上が今のドネアに苦戦するのは論外といえよう。Sバンタムでリゴンドウに完敗、バスケスJr.とスプリット、マグダレノに判定負け。そしてフェザーではまるっきり通じず。おまけに加齢によって衰えている。これがドネアというボクサーの現在の実像だ。
ドネアに苦戦した時点で、井上のSバンタム進出は黄信号、フェザー級に至っては絶望的といって過言ではない。等の井上自身、Sバンタムが上限でフェザーは厳しいという旨の発言をしているが。
仮に井上がドネアに負けでもしたら、評価は急降下だ。
もしもドネアにKOされたら、遺憾だけれど(バンタム級での)井上は過大評価だったという事になる。ナルバエスを物差しにすると、あり得ないとは思うけれど。
明白な判定か、あるいは中盤前後にKO。
井上尚哉が“モンスター”として、我々ボクオタおよびファンに夢をみ続けさせてくれるのならば、今のドネアが強敵であってはならないのだ。
もっとも、ドネアとの決勝よりも準決勝で対決するロドリゲスの方が強敵だし、その試合が事実上の決勝だろう。ロドリゲスはドネアとは違い、決して楽観視できる相手ではないと、この記事の最後に付け加えておく。
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バンタム級でドネアが復活・復権
無敗のウバーリをKO撃破で戴冠
令和3年5月29日(日本時間5月30日)
会場:米カルフォルニア州カーソン
WBC世界バンタム級タイトルマッチ
TKO4回1分52秒
勝利 同級1位
ノニト・ドネア(38=比国)
戦績:41勝(27KO)6敗
VS
敗北 王者
ノルディーヌ・ウバーリ(35=仏)
戦績:17勝(12KO)1敗
※)ドネアがバンタム級で3度目の戴冠
ウバーリには勝つだろうと予想はできていたが、なんていうか、ここまで鮮やかに復調してしまうとは。考えてみれば、ドネアの旧バンタム級時代は非常に短く(実は5戦でSバンタムに上げた)、この階級に腰を据えたキャリアではなかった。
減量はキツイかもしれないが、フェザーでは明らかに小柄でパワーレスだったので、ドネアの適正階級はバンタムだろう。38歳での戴冠はバンタム級で史上最高齢。しかし、今のドネアに落日を悲観されたかつての老いは感じられない。
世界戦は23戦18勝(12KO)5敗
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