【現役PFP1位】ロマチェンコはライト級にアジャストしたのか、について【最速3階級&現ライト級2団体王者】
さあ、戯れ言《
4月12日(日本時間13日)
会場:ロサンゼルス、ステープルズ・センター
WBA(S)&WBO統一世界ライト級タイトルマッチ
TKO4回58秒
勝利 2団体統一王者
ワシル・ロマチェンコ(31=ウクライナ)
戦績:13勝(10KO)1敗
VS
敗北 1位(元WBA同級王者)
アンソニー・クローラ(32=英国)
戦績:34勝(13KO)6敗3分
“Hi-Tech(ハイテク、高性能)”こと、パウンド・フォー・パウンド現役1位――ワシル・ロマチェンコについての記事は、これが2つ目となる。
オールタイム(歴代)でも、フロイド・メイウェザーJr.と1位2位を争う強さだ。より上の複数階級で通用したという点(実績)を鑑みれば、メイが歴代1位だろうが、ベストウェイトでの純粋な強さならば、僅かだがロマチェンコに軍配が上がりそう。
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本来ならば、ロマチェンコにとっては王座をキープする為だけの試合であり、わざわざ記事にしようとは思っていなかった。元王者が相手とはいえ、WBAからの指名試合を消化したに過ぎなかったからだ。ハッキリと咬ませ犬に近く、オッズも18対1だった。
そして僕は、この試合にはさほど興味が持てず、大差の判定か終盤のストップ勝ち、あるいは『ロマチェンコ勝ち』が久しぶりに見られるかも、と予想する。ちょっとでもロマチェンコが手こずれば、クローラとしては大善戦だろう。
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ライト級に転向して3戦目
フレーム的にこれ以上の階級アップは無理がありそう、そんなイメージのロマチェンコにとってのライト級。これまでの2戦は、Sフェザー級の頃の神懸かり的な圧倒感が薄れ、僕はファンとして階級の壁を懸念していた。
仮に4階級目となるSライトに進出するのならば、ボクシングスタイルの再構築、あるいは攻防の比重に変更を強いられるのは確実だ。前途したメイウェザーも、Sフェザーやライト級の頃は抜群のパンチャー(KOも多かった)であり、Sウェルターでも充分にパンチ力自体は通用していたが、相手のサイズとパワーが上がっていくのに合わせて、無駄なパワーブローを封印し、カウンター&ディフェンシブな戦い方へとシフトしていった。要はリスクを排除していったのだ。
初戦の相手は、ホルヘ・リナレスだった。
フレームでは明らかにリナレスが上回っていたが、リナレスもフェザー上がりの3階級王者であり、加えて打たれ弱い。
見事な10回TKOでリナレスを倒したが、逆にいえば打たれ弱いリナレスを仕留めるのに、10Rも消費してしまった。しかも善戦まで許してしまうオマケ付きで。
ロマチェンコへの善戦で負けても株を上げたリナレスは、4階級制覇を目標にSライト級で再起、手頃な中堅を相手にテストマッチを行った。その結果、フロックでも交通事故(不運な出会い頭)でもなく、普通にパワー差とフィジカル差で1回KO負けという。ある意味、リナレスらしい。で、引退か、階級を戻すかの選択となり、リナレスはライト級へのリターンを決断した。
このリナレスのポカで、「あれ? ライト級でリナレスをKOしたといっても、あの内容じゃ、この先は厳しいのでは?」と僕は感じた。
ライト級2戦目の相手は、ホセ・ペドラザだった。
WBO世界ライト級王者であり、元IBF世界Sフェザー級王者だ。前の記事でも書いているが、IBFタイトルはデービスに7回TKOで奪われており、この試合の焦点はデービス以上のKO劇を演出できるか否か、であった。
結果は、圧倒したが決定打に欠いての判定勝ち。
連続KOも8でストップした。
大舞台での華やかなビッグマッチでの勝利や、歴史的ボクサーへの足固めを目指しているロマチェンコにとって、ライバルの1人であるデービス以下の試合内容は、彼にとって理想に遠かった、不本意だったに違いない。
流石に“ハイテク”ぶりは健在だったが、ライト級ではSフェザーの様な最強のイメージを発揮するのは困難なのでは? という疑問符を抱かせる余地を周囲に与えてしまう。
階級を戻すことを示唆
そんな状況にあっての今回の防衛戦。
試合前、ロマチェンコは報道陣に対し、以下の様にコメントした。
「今はライト級で戦っているが、この階級は自分にとって理想の階級ではない。目標はライト級4団体の王座を統一することだが、その後は階級を下げ、スーパーフェザー級の王座を再び獲得することになるかもしれない」
階級の壁を実感していたのは、誰よりもロマチェンコだった。
打たれ弱いリナレス相手に10R、ペドラザは仕留め切れず――この結果と内容を考慮すると、長くライト級に留まったり、Sライト級にアップは賢い未来とはいえない、と彼は判断したのだろう。
そして、3戦目の相手であるクローラはリナレス、ペドラザと比較してもイージーなボクサーであり、そんな彼に凡庸な内容で判定までいってしまえば「ライト級のロマチェンコ」としての評価はお世辞にも突出したものとは云えなくなるのだ。
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ライト級へのアジャストを証明
試合展開自体は、誰もが予想した範疇から大きく外れる事はなかった。
クローラは唯一の利点であるサイズを活かしてガードを重視し、ロマチェンコは普段通りの彼を披露する。まるでダンスを踊るかの様に、アップテンポかつ変幻自在に打ちまくる。スピード、ポジショニング、ステップワーク、コンビネーション、バリエーション、戦略性、そしてディフェンス――最高峰の結晶だ。いつものロマチェンコというか、このレベルの相手ならば縦横無尽に実力(性能)を発揮できた。
それは別に、ロマチェンコにとっては「当然の事」に過ぎない。
スピードとスキルに依存した判定勝ちに終わっては、実質的な敗北だろう。
だが、その日の彼は過去のライト級2戦よりも、明らかにキレていた。
動きはキレキレで、パワーも感じさせる。
3ラウンドに入ると、クローラは完全に人間サンドバックだった。劣勢からのロープダウンをTKO(レフェリーストップ)とロマチェンコが勘違いする一幕があったが、むしろ試合を止めないレフェリーのミスジャッジだと印象に残った。
そして迎えた第4R――
完璧なパワーショットがクローラのテンプルを強襲。
前回のペドラザ戦では成しえなかったKO勝利を呼び込む。パワフルなだけではなく、綺麗にナックルが返った正確無比な右フックは、芸術の域に達していた。そんな一撃が的確で高速な軽打(コンビネーション)の中にトラップとして潜まれている――それは、相手にとって認識不能の凶器だ。
前のめりに崩れ落ち、頭からキャンバスにダイブしたクローラは、そのままの姿勢で試合終了を迎えた。稲妻のごとき光景は、神からの鉄槌に平伏した様にも映った。
ライト級での階級の壁を実感していたロマチェンコは、誰よりも彼自身が強く待ち望んでいた瞬間(KO)で、己への懐疑を払拭してみせる。
前戦で失いかけたものを、この一戦で完全に取り戻してみせたのだ。
試合後のコメント
Sフェザー級に戻るかも、と発言したロマチェンコは其処にはいなかった。
改めての4団体制圧を宣言し、WBC王者マイキー・ガルシアとの対戦を熱望。
「この階級でできるだけ頑張りたい。王座を統一したい」
現実的には、年内にもIBF王者リチャード・コミー(32=ガーナ)と対戦してIBF王座の吸収を目指すことになりそうだ。
また、前回の試合が判定に終わってしまった要因については――
「右肩を100%回復させてくれた医師にありがとうといいたい」
フィジカルが万全に戻り、ライト級仕様の肉体改造が成功したのかもしれない。
確かに、この日の身体は過去2戦よりも筋肉の付き方が違っていた。
最後に、敗者であるクローラのコメントを。
「自分の体以上にプライドが傷づいた。最善を尽くしたかったが、彼は驚異的だ。頭頂部を打たれたとき、状況は理解していたが、立ち上がることができなかった」「彼は非常にスペシャル。ショットを無駄にすることがない。彼は支配を続けるだろう。そして、このスポーツで彼が望むことを何でもやってのけるだろう」
潔い脱帽だった。
同感だ。ロマチェンコはまさしくスペシャル。リングを支配する男だ。
これからも『ウクライナの至宝』の活躍が楽しみでならない。