【最速3階級制覇】田中恒成VS田口良一について【元統一王者】
さあ、戯れ言《
一度は田中の負傷(試合での眼窩底骨折)により、流れてしまった国内ドリームマッチが形(立ち位置)を変えて実現する。
3月16日(岐阜メモリアルセンター)
WBO世界フライ級タイトルマッチ
王者 田中恒成(WBO世界3階級王者)
12戦12勝(7KO)無敗
VS
4位 田口良一(元WBA&IBF統一LF級王者)
32戦27勝(12KO)3敗2分
年齢は田中(畑中)が23歳、田口(ワタナベ)が32歳である。
田中はまだまだキャリアの序盤から中盤にさしかかった時点だ。対する田口は現代の基準だとロートルとは定義できないものの、キャリアの終盤にある事は否めない。すでに32戦を消化しており、肉体年齢以上にボクサー年齢が進んでいると思われる。
海外のボクサーとは違い、日本のボクサーは世界タイトルを一区切りとする傾向が強く、田口もLフライ級統一タイトルから陥落した際、引退か現役続行かで揺れた。そういった心理状態からして、最高のライバル相手の2階級制覇挑戦に失敗した場合、そのままグローブを吊す選択も充分にありえるだろう。
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本来は統一戦で激突する予定だった両者
前途した通り、この2人は王者同士で激突する筈だった。
当時、WBA世界Lフライ級王者であった田口に、WBO同級王者の田中が統一戦のラブコールを送り、田口がそれに応えた、という経緯である。
試合決定はまだ(放映権の問題とか未処置)であったが、実現はほぼ規定路線であり、ミニマム級で実現した井岡一翔(WBC王者)VS八重樫東(WBA王者)のWBA&WBC統一戦に次ぐ、日本人同士によるアルファベット団体統一戦が、ファンに待たれていた。
しかし田中のV2戦で異変が起こる。
戦前の予想では楽勝と思われていた相手であったが、割と強かったというか、その気の強さから不用意に田中が打ち合いに付き合ったのが原因なのか、9回TKOで勝つには勝ったが、両目を負傷してしまう。
これにより統一戦は流れて(頓挫して)しまい、田中もタイトルを返上、ターゲットを3階級目となるフライ級に定めた。
“中部の怪物くん(中京の怪物)”改め“ドリームボーイ”をニックネームとする俊才、田中ならばメジャー4団体の王者全員に分が良いと僕は思っていた。日程の都合とミニマム&Lフライで獲得していたWBOが最も懇意であったので、結果、フライ級もWBOへアタックした。
そして田中は3階級制覇を成し遂げる。
その一方で、田口はというと。
WBOとの統一戦が実現しなくなり、IBF王者のメリンドとの統一戦に臨む運びとなった。そして見事にユナニマス・デシジョン(3-0)で統一王者に輝く。
けれど統一王座の初防衛(WBAはV8戦)に失敗し、無冠となり、再起戦でフライ級に上げて、2階級制覇を目標に田中のWBO王座にアタックする事となったのだ。
王者同士の統一戦から王者VS挑戦者へ。
格からすれば統一戦だと田口が格上だったが、現在は田中が格上として田口を迎え撃つ形となっている。
田口良一のこれまで
アマチュアエリートではなく叩き上げの彼は4回戦デビューから全日本新人王というルートを辿っている。そこから地道にキャリアを積み上げ、17戦目に日本タイトル挑戦権をかけた最強後楽園トーナメントの決勝にて、後のWBC同級王者、木村悠(帝拳)に6回TKO勝ちした。
後のWBC王者とはいえ、微妙な判定でのタイトル獲得、V1戦で即陥落、しかも相手も大した王者や挑戦者ではなく、内容も今一つだったので、ぶっちゃけ木村悠の世界王者としての評価は最低ラインだったりする。マニアによる「最弱日本人世界王者」において、必ず上位に名前が挙がるボクサーだ。要するに、とりわけ殊勲の星でもなかった。
で、18戦目で日本タイトルに初挑戦。
そこそこ世界レベルでも強豪といえる黒田雅之(川崎新田)にドローで退けられる。WBAフライで世界挑戦(レベコ相手に判定負け)し、再びフライで世界挑戦(IBFのムラザネ)する黒田相手の引き分けは、田口のキャリアでも評価されるべき一戦だろう。
その後、世界挑戦の為に黒田が返上した日本タイトルを、田口は20戦目で獲得する事となった。遅咲きといって差し支えない。
そして初防衛戦が田口のキャリアの大きな転機となる。
マスコミ注目の“モンスター”井上尚哉をV1戦で迎えたのだ。
焦点は井上が何ラウンドに田口をKOするか。
しかし田口は内容的には完敗だったとはいえ堂々とフルラウンドを戦い抜いてみせた。これにより日本タイトルは失ったが、それ以上のもの(評価)を田口は得たのである。
逆に(減量苦の影響もあり)田口をKOできなかった井上は、若干ではあるが評価を落とす。井上が“モンスター”として其の名を轟かせたのは、Sフライに上げての初戦――ナルバエスを2回で粉砕し、WBO王座を奪取、2階級制覇を果たした時である。
井上戦で知名度と評価を上げた田口に、念願のチャンスが訪れた。
WBA世界Lフライ級王座への挑戦である。
3-0の判定で、このチャレンジを成功させた田口は24戦目で悲願の世界王者に登り詰めたのであった。
けれど、当時のワタナベジムの先輩王者――WBA世界Sフェザー級王者、内山高志とのセット販売を余儀なくされ、内山の世界戦でのセミファイナルを延々と続ける事となる。
V1戦からV3戦までKO防衛。
ただしV3戦の相手、ボクオタにすら懐かしのファン・ランダエタには「亀田興毅よりも弱かった」と評されてしまう。
元WBAミニマム級王者、宮崎亮(井岡)を相手にしたV4戦はKOを逃すも完勝した。区切りのV5戦も判定、V6戦ではKO防衛、IBF王者のミラン・メリンド相手にV7&IBF王座の吸収を果たす。
順調に防衛を重ねる中、内山が引退し、田口は後輩王者(IBFミニマム)である京口紘人と共にワタナベジムを牽引していく存在となる。
そんな田口の前に立ちはだかったのが、ヘッキー・ブトラー(南アフリカ)であった。
IBF王座を返上せず、日本ボクシング界で初となる統一王座の防衛を目指すも、ブトラーに敗北(判定負け)してしまう。
そのブトラーはIBF王座を返上、WBA(統一の為、スーパーに格上げ)王座のV1戦を、オプションの関係で京口(IBFミニマムは返上)と行い、10回(終了)TKOで失ってしまった。
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これにより2階級制覇を果たした京口(12勝9KO無敗)に実績面でも抜かれる形に。
16日に迎える田中戦は、過去最強の相手(世界的にも田中の評価は抜群に高い)というだけではなく、田口にとってはボクシング人生の総決算的な意味合いも持つだろう。
ブトラーへのリベンジよりも減量苦からの解放を選んだ田口が、捲土重来を果たせるのかどうか、田口ファンは固唾を飲んでいる。
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田中恒成のこれまで
アマチュアエリート(高校4冠)である田中は、怪我によるブランクを除けば順風満帆のキャリアを歩んでいる。
太いタニマチが経済的に彼を支え、また中部ローカル局であるCBCも田中を全力でバックアップしているので、東京のキー局に無理して進出する必然性が薄く、西日本をメインに戦ってきた。
テレ東に『ツヨカワ(強くて可愛い)』を売り(キャッチコピー)にされたイケメンな田口(本人的には不本意だったろうが)とは違い、その、なんだ、あの、申し訳ないけれど決して不細工ではないのだが、お世辞にもイケメン系ではなく、気の強さが顔立ちに出ている田中には、全国的な知名度の割にアンチが多かったりする。
アンチとはいっても、ルックスと一部の言動のみに理由が集中(妬みもあるのだろう)しており、田中のボクサーとしての才能、技術、スピード、実力に文句を付けたり疑問を投げかけるアンチは皆無といっていい。
それ程に、田中恒成はボクサーとして光り輝く存在だ。
崖っぷちというか、16日の一戦が集大成かもしれない田口とは異なり、田中にとっての田口戦は、ズバリ、通過点だろう。
デビュー戦、2戦目と世界ランカーを狩る。
4戦目で原隆二(大橋)を難なく10回TKOで破り、ミニマム級のOPBF王座を獲得。4戦目は男子では最速記録だ。
次の5戦目で日本最速となる世界タイトル獲得記録を樹立した。
WBO世界ミニマム級の王座決定戦での事だ。
このタイトルを、後の世界王者となるビック・サルダール相手に6回KOで守る。そして返上して2階級制覇へ駒を進めた。
8戦目での2階級制覇は、WBO世界Lフライ級王座決定戦にて、強敵と目されていたフェンテス(メキシコ)を5回で粉砕して成し遂げられた。
このフェンテス撃破により田中の評価は更に高まる。
V1戦では当時16戦全KO勝ちのアンヘル・アコスタとの大一番を迎え、堂々の判定勝ちを収め、田中はその実力を世に知らしめた。なおアコスタは田中が返上したタイトルの後継王者となり、現在は20戦19勝(19KO)1敗のレコードを誇っている。
V2戦での負傷により、田中は田口との統一戦を諦め、3階級制覇に梶を切った。
ミニマム級、Lフライ級は王座決定戦であったが、このフライ級にてようやくチャンピオンとの対戦が実現する。
対戦相手は、WBO世界フライ級王者、木村翔(青木)――
雑草王者を自認する木村は、異色のレコード(戦績)を経ている。
デビュー戦は1回KO負け。
この時点で1戦1敗だ。
その後、9戦目まで2分を挟んでオール判定である。
9戦6勝(0KO)1敗2分。
勝率こそ悪くないものの、よくこの戦績で諦めなかったものだ。
で、ここから快進撃が始まる。
15戦目まで6連続KO勝ちを飾るのだ。
12勝(6KO)1敗2分
KO勝率が5割に。見栄えのする戦績になってきた感じ。
16戦目で坂本真宏(六島)との決定戦でWBOアジア・パシフィック王座をゲットする。これでタイトルホルダーに。次戦のノンタイトル戦でKO勝ちを収め戦績は――
17戦14勝(7KO)1敗2分
ここでゾウ・シミン(中国)から噛ませ犬として呼ばれる。
中国、上海にて大番狂わせの11回TKO勝ちで脚光を浴びた。
第2のホームタウンと定義できる程に、木村は中国で絶大な知名度と人気を獲得し、2連続KO防衛を果たすのであった。
V1戦では元WBC同級王者の五十嵐俊幸(帝拳)を9回TKO、続くV2戦では青島にてフローライン・サラサール(比)を6回KOにて破ってみせた。
戦績は20戦17勝(10KO)1敗2分
10戦目以降に限ると――
なんと11勝(10KO)となるのだ。
まさに途中からは破竹の勢いといえるだろう。
戦前の予想はほぼ互角で、やや田中有利の声があったくらいか。
そんな王者、木村との大激闘を制し、田中は3階級制覇を遂げた。
WBOの年間最高試合に選ばれる激闘にて、だ。対戦相手の質と階級からロマチェンコと並んだとは形容できないが、それでも12戦目での3階級制覇は世界最速タイである。
まだ23歳、12戦しか消化していない田中はキャリアの序盤と形容していいだろう。最終的にはバンタム級までの5階級まで視野に入れている田中は、今、第一次の黄金期――充実の一途といえよう。
試合の結果予想
世間の反応(予想)は木村戦に近い。
勝って欲しいのは木村だが、田中がやや有利だろう。
僕も同じ見解だった。そして、この田口戦も木村戦と同じく、田口に勝って欲しいが、勝のは田中という声が多い。木村戦以上に。
木村をKOは難しいと思っていたし、田中を相手に想像以上に木村が強いボクサーだと証明された。敗戦しても木村の評価と商品価値は上がったのだ。
では、田口は?
ズバリ、11回前後のTKOで田中の勝ちを予想する。
序盤から圧倒されて、終盤に捕まるというワンサイドだと思う。
フライ級でテストマッチなしで田中戦は、正直、無謀だろう。
CBC公式チャンネルより記者会見の様子を――
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そして、栄光の勝者は――
KOこそ成らなかったが、実力差を示しての大差判定(117-111、117-111、119-109)で、田中に軍配が上がった。
展開的には、まあ、多くのボクオタが予想した通りに推移した。
だが、ここまで明白にほぼ全ての面で田口を凌駕していたのに、仕留め切れずに判定までいってしまうとは。田口の健闘といえば健闘だったが。
僕は田中のポテンシャルはもっと上だと思う。
田口をKOできなかった今日の出来だと、Sフライ級は厳しそうだ。
更なる進化を田中に期待する。
そして田口は(引退にせよ、現役続行にせよ)お疲れ様でした。