【現役PFP1位】ワシル・ロマチェンコについて【最速3階級&現ライト級2団体王者】
さあ、戯れ言《
ロマチェンコ、2団体を統一
12月8日(日本時間9日)
会場:ニューヨーク、MSG
WBAスーパー&WBO世界ライト級統一戦
判定=3-0(119-107、117-109、117-109)
勝利 WBAスーパー王者
ワシル・ロマチェンコ(30=ウクライナ)
12勝(9KO)1敗――統一と初防衛に成功
VS
敗北 WBO王者
ホセ・ペドラサ(29=プエルトリコ)
25勝(12KO)2敗――初防衛に失敗
上記の通り、現在パウンド・フォー・パウンド(体重同一視仮定ランキング)において、ほぼ全ての発信元から第1位にランキングされている《ハイテク》ことロマチェンコが、ライト級世界王座の2団体統一に成功した。
ロマチェンコというボクサー
オールタイムでもその技術は世界最高峰ではないか、と評される程の超絶テクニシャンである彼は、アマチュア時代にオリンピック2連覇を果たしており、世界選手権でも2度、栄冠に輝いている。
アマチュア通算――397戦396勝1敗
唯一の敗北は、2007年の世界選手権決勝だから、とんでもない成績だ。
プロ転向にあたり「デビュー戦で世界戦がしたい」と希望するのも当然か。
けれども、流石にプロ戦績ゼロで世界ランクにねじ込むわけにはいかなかったので、仕方なしにデビュー戦でWBOインターナショナルタイトル戦を行った。
無難に4回KO勝ちで世界ランキングをゲットすると、次戦でWBOフェザー級タイトルにアタックする。
対戦相手はボクシングファンにはお馴染み、オルランド・サリドであったが、たった2戦目の相手に世界タイトル獲得されてしまうという不名誉な記録に名を残したくなかったのか、体重超過で試合前にタイトル剥奪となってしまった。
世界タイトルマッチで意図的な体重超過は、まずやったりしない。
試合前からタイトルを剥奪されて、後にペナルティーを受けるというのに、意図的に体重超過するバカは極僅かだ。皆無ではないが、仮にその場合は割と普段からウェイトコントロールがルーズなボクサーだったりする。
あの『日本限定でだが』悪名高きルイス・ネリにしたって、ドーピング云々はともかく体重超過は単なる調整失敗で最後に水抜きが利かなかっただけだ。しかも前戦で4回TKOで勝っている相手なのだから、故意に増量する必要性もない。
だが、この時のサリドは意図的に体重超過して、増量していた可能性がある。
そして試合振りもラフでダーティーだった。
よく言えば、プロの試合運びであった。
それでも最後の方はロマチェンコに追い込まれていたが。スコアも1-2のスプリット(115-113、113-115、112-116)と競っていた。
しかしサリドはロマチェンコの2戦目での戴冠を阻止。
そのまま引退までロマチェンコとのリマッチから逃げ切った(笑
再戦したら、確実に負けていただろうから正解だ。
その2戦目でのプロの洗礼は、ロマチェンコにとっても決してマイナスではなかった。
3戦目に順当ともいえるWBO世界フェザー級タイトルの獲得。
そのタイトルは3度防衛の後に返上した。
WBOタイトルの初防衛までの戦績は――3勝(1KO)1敗
数字上はパッとしないが、全てがタイトルマッチであり、3試合が世界戦だ。
次の5戦目からロマチェンコはKOを重ねていく。
7戦目で2階級制覇に挑戦し、成功。
元2階級王者のローマン・マルチネスを5回でKOする。
あのドネアをKOしたニコラス・ウォータース(元WBAフェザー級王者)も全く問題にせず、7回終了での棄権(TKO)勝ち。同級での元WBA王者のジェイソン・ソーサも9回終了時にギブアップ。次の対戦相手も7回を終えて8回のゴングに応じる事はなかった。
この3連続での棄権TKO勝ちという現象に、ジョー小泉氏は「ロマチェンコ勝ち」と名付けたものである。
そんなにサイズやフレームに優れているわけではないのだが、ロマチェンコはとにかくサイドを主体として縦横無尽にポジショニングする。そしてステップワークが細かい。
対戦相手はロマチェンコの位置取りとスピード、およびテンポについていけずに、正確なパンチを数多くもらい続ける――という絶望感を味わう事となる。
いつ、反応できないKOパンチが叩き込まれるのか、分からない。
加えて自分のパンチが当たらないのだ。ゆえに途中で試合を投げてしまうのだろう。
ロマチェンコの評価はうなぎ登りであった。
この時点での戦績は――9勝(7KO)1敗
見栄えも良くなっている。多くのPFPも彼を3位以内にしていた。
待望のビッグマッチ、リゴンドウ戦
そして丁度、約1年前だ。
ロマチェンコの評価を不動にする対戦相手とのビッグマッチが行われた。
ギレルモ・リゴンドウ戦である。
アマチュア戦績には諸説あるものの、ロマチェンコと同じく五輪2連覇および世界選手権も2度制している。
元WBA&WBO統一世界Sバンタム級王者。
ロマチェンコ戦までの戦績は17勝(11KO)1NC
日本の大晦日で天笠相手に試合をした事もあったりする。
このリゴンドウ、とにかく不人気で試合枯れが日常だ。
僅か5000万円ポッキリ(推定)で日本に来てくれた程に。
超絶テクニシャンなリゴンドウは、ほぼ減量無しのSバンタムでも小柄なのに、ロマチェンコのSフェザー級に上げる事を条件に、この夢の対決が実現。
共に五輪2連覇をしている、まさに「究極の技術(テクニック)対決」だった。
試合自体は一方的に終わる。
リゴンドウはロマチェンコに研究し尽くされていた感が強く、しかも体格差があり過ぎである。体重の重い軽いではなく、根本的にフレーム(骨格)がまるで違う。
かくして為す術がなかったリゴンドウも6回終了時に、試合続行を拒む。拳の怪我を言い訳にしていたが、その後のSNSで思い切りウソがばれていたし。
これで4連続のロマチェンコ勝ちである。
圧勝とはいえ、ヘヴィ級でもないのにあまりのサイズ差に、観ていて「これはボクシングではないのでは?」という虚しさもあったが、リゴンドウ戦での勝利で、いよいよロマチェンコの評価は盤石といえるものになった。
満を持しての3階級制覇
Sフェザーでも相応の相手が残っていたし、個人的にはまだこの階級に留まって欲しかったのだが、最速での3階級制覇という記録を狙い、ロマチェンコは王座を返上して、ライト級にクラスを上げる。
ターゲットは日本ボクシングファンならば誰でも知っている者だ。
ホルヘ・リナレス(帝拳)。
3階級王者で当時の戦績は44勝(27KO)3敗
円熟期に入っているリナレスは強いといえば、強い。
かつての2連続KO負け(スランプ)から完全に復調している。
ただしリナレスもロマチェンコと同じくフェザーからの3階級制覇で、正直にいえばリナレスを圧倒できないのならば、ライト級より先は厳しいのでは? と思っていた。
リナレスとの試合は素晴らしい好ファイトであった。
予想以上の健闘をみせたリナレスは、ロマチェンコからダウンも奪った。
ほぼ互角に近かった。
10回にKOされたが、世間でのリナレスの評価は落ちず、むしろ上がった。
反面、僕はライト級でのロマチェンコに不安を覚える。
しかもリナレス戦で右肩を負傷して短いながらもブランクを作ってしまった。肩の関節鏡視下手術であったので、そんなに深刻ではないだろうが。
リナレス戦の内容は肩の負傷込みだったのか。
ライト級でもSフェザー級時代の無敵感を発揮できるのか疑問だ。
答えは、冒頭に書いたWBO王者との統一戦で明らかになる。
相手のペドラサはIBFスーパーフェザー級タイトルを、メイウェザーの秘蔵っ子、G・デービスに奪われている。それもワンサイドのKOで。
デービス戦の実現(安易にメイウェザーは受けないだろうが)よりもライト級を主戦場にする方を選んだロマチェンコであったが、このペドラサを持て余す様だと、ライト級以上は黄信号だ。
試合は、ペドラサとの明白な体格差が原因なのか、いつもよりもサイドへの動きが乏しかった。普段より被弾もみられた。ポイント的にはワンサイドといって良い出来だったが、明らかにこの階級ではパワーレスである。
11ラウンドにダウンを奪ったがKOには結びつかず。
階級の壁に当たっている。
ロマチェンコが採れるスタイルチェンジは二択だろう。
フィジカルをライト級仕様にバージョンアップさせ、ライト級でもSフェザー級の頃に近いボクシングを完成させる。
もしくは、フィジカル差を受け入れて、タッチ&ランを徹底する。
個人的には後者がいいと思う。
ペドラサ戦でのロマチェンコだと、G・デービスやマイキー・ガルシアには苦戦は必至だろうし、ましてやスペンスJr.やテレンス・クロフォードといったウェルター級との戦いは絶望的であろう。
来年はマイキーとの統一戦を希望しているロマチェンコ。
無敵感が復活するのか、はたまた階級の壁に阻まれて評価が落ちるのか。このままだと、PFP1位から陥落するだろう。
2019年は、ライト級のロマチェンコに注目だ。
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余談だけど、和氣慎吾の対戦相手が日本人相手のノンタイトルで決定した模様であるが、世界戦の目処が立っていないのならば、日本タイトルを返上しないで、防衛戦をやっておけば良かったのに。東洋タイトルより経費は安上がりだし。