【球詠】野球マンガとしての面白さと、キャラ好きの非野球ファンが求める作風とのギャップを考察

この記事は2026年04月19日が初アップです

【引用元――球詠(作者:マウンテンプクイチ、芳文社)より抜粋】
作品としてのレベルは確実に上がっている
もうじき連載10周年を迎える本格野球マンガ『球詠』。
アニメ化もされたが、知名度アップには繋がったものの残念ながら「きらら系アニメ」としては不出来の部類にカテゴリされてしまう。ぶっちゃけ、円盤も売れなかった。単純に作画がクソだったからだが。手描き部分と3D部分、どちらもアカンかった。担当した監督に原作愛や原作リスペクトなど皆無で、3DCGでどこまで安価に野球を表現できるのか否かの実験作アニメと後に明かされる始末である。事実でもそんな内実を言うなよ。
1年目の夏大会、2戦目の3回戦である梁幽館との試合までアニメ化されたが、初期の最高傑作がその梁幽館戦だ。だが、そこから先も試合を重ねて、試合内容としては梁幽館戦を超える内容がいくつも生み出され続けている。
なぜ一部の読者とのギャップが生じたのか
作者は百合畑出身で百合マンガの側面も持つ
百合マンガ出身かつ『球詠』も百合の側面を強く持つ作品だ。
そして『球詠』は女子野球モノではなく、男性が存在しない世界(通称・きららワールド)での野球を描いた特殊な設定でもある。女子野球だと男子野球およびプロ云々での対比が避けられないが、女子だけの世界なのでそういう要素はゼロだ。まあ、球速表示を避ける等の工夫はされている。結果としてフォーシームのインフレ抑制にもなっていると思う。
野球マンガとしては「美少女のガワ」を被っているだけの普通の野球マンガ(高校野球メイン)であり、プロ野球やドラフトやスカウトも存在しているのだ。
この作品の百合要素をメインに楽しんでいる読者層も、野球のルールや野球の世界、そして作中世界の設定は理解している。
だが、百合やカップリングをメインに楽しんでいる層はそこまで野球そのものに興味があるわけでもなく、野球描写が深くなっていくに従って「キャラもの」以外のファクターに付いていけなくなっているのかもしれない。それは試合内容が専門的かつマニアックになっていくに比例して、顕在化してきた傾向であろう。
あくまで初期の選手9人路線が好きな人
物語のスタート自体、不祥事により休眠廃部状態だった野球部を、9人の選手と1人の指揮官(マネージャー)で復活させて立て直す、というコンセプトだった。
チームスポーツ系でよくあるフォーマットの1つではある。
まあ、仲間集めはサクッと終わり、野球どころかスポーツ素人の息吹の育成も含めた「1からのチーム作り」が行われた。投手も主人公のエースのみだったので、サブ投手として理沙と息吹を抜擢する。
つまり初期メンバーは全員に試合での出番があった。
というか、全員がスタメンだ。控え選手ゼロだから。
実際の野球に興味が薄い読者層にとっては、それは望ましい事である。
昔の野球マンガの多くは「メインのレギュラーとそれ以外」「主要キャラ選手とモブ選手」にハッキリと分かれており、チーム内でのレギュラー争いがあったりレギュラーの入れ替えがある野球マンガは極僅かであった。
初期9人のままなら「全員がレギュラー」である。
それが良いという読者層にとって、レギュラー争いは試合に出られないキャラが出てしまう火種でしかなかったのだ。つまりチーム内の競争は望んでいなかった。
最初のメンバーのままで各々が強くなる展開が良かったのである。
進級前の選手(キャラ)追加による変化
夏に続く秋大会も既存の9人で戦い、その後、主人公たちは2年生に進級、控え選手として新1年生達が追加されてくる。レギュラーは変わらず、新1年生はみんな控え選手――
というケースが王道で、まあ、実際にレギュラーナンバーは既存の初期9人のままであり、背番号の変更もなかった。
しかし、その前に当時2年生である川原 光が追加入部する。
本業ではないサブ投手であった理沙と息吹の負担を激減させた本業ピッチャーの加入だ。これ自体は先の展開として必須要素であった。昔とは違い今の時代は高校野球であっても球数制限や連投に対して厳しくなっているからだ。エース1人が連続で先発登板する時代は終わっている。実際、夏大会はベスト8で敗退したが、仮にベスト4に進出したとしても、先発投手は理沙か息吹の二択であり、どうシミュレートしても序盤から炎上火達磨で試合が壊れて終わってしまう。ハッキリ言って、準々決勝で負けさせるしかなかったのだ。
エースで主人公の詠深と2番手サウスポーの光が、交互にマウンドを分け合っているだけならば、そんなに変化はなかっただろう。
だが、光は違った。
チーム内にて希に次ぐ強打者で、クリーンアップとして野手スタメンするのだ。
当然、光が野手スタメンする場合、他の誰かがスタメンから弾かれる。既存の読者は「誰が控えなのか」とヤキモキし、特にアニメから入った読者層は「愛着のあるキャラを押し除けてスタメンで中軸を打つ」光に対して、拒否反応を示す者までいた。
光という選手の必要性
詠深と同じく「打てない投手」にしてしまえば、野手スタメンする面子がスタメン落ちするケースを防げた。しかし、それでは兼業でサブ投手をやっていた理沙と息吹という穴が埋まるだけで、チームとして全く変わり映えがないと言える。
つまり、代打を使えないのだ。
夏大会と同じく代打がゼロは流石にキツい。
代打がゼロ=継投くらいしかベンチワークができずに、攻撃面は完全に運任せになってしまう。巡ってきた打者での出たとこ勝負しか選択肢がなく、犠打やエンドランくらいしか能動的な指示を出せないのだから。
そして新越谷は基本的に貧打線である。
センターラインに代打を出せるレベルの選手層ではないので、必然として代打を出されるのはコーナー4ポジションに限られる。だが、光はサウスポー。サードは除外されるし、中軸の1人であり長距離砲の理沙に代打を出すケースはほぼないと言えるだろう。
要はチーム事情で希がお休み、以外だと外野両翼の白菊と息吹に代打という事だ。
長打力こそ乏しいが、出塁率が高い息吹は代打を出しにくい。
逆に長打力こそズバ抜けているが、出塁率というかコンタクト率が悪い白菊は、相手投手に合っていなければ代打を出される枠だ。一部の読者から「打の白菊」と持ち上げられているが、一度として上位打線を任されたことのない打者である。当たれば飛ぶ、というだけの下位打線のバッターなのだ。
打者としての光の設定は色々と選択肢があった様に思えるが、チームナンバー2かつプロ注レベルの強打者――とされた。
つまり詠深と光のエースナンバー争いはあっても、光を希に次ぐ格の選手とすることでチーム内のレギュラー争いを事実上、無くしてしまったのだ。光がベンチスタートする際は、あくまでリリーフ待機優先や休養という事情や作戦ですよ、と。
そして実際に「代打・白菊」が作戦の肝だったのが、秋大会準決勝の美園学院戦だ。
相手のリリーバー黒木の配球の傾向を読み切り、高確率で出塁で繋げられる息吹に代わって初球「逆転3ラン」狙いのロマン砲を送り込む。実際、フェン直2塁打で成功した。
これは夏大会にはできなかった戦術である。
まあ、策もベンチワークも、それで品切れになったが。
息吹を引っ込めて交代要員ゼロになったら、もう物理的に手を打てない。
美園学院戦に関して話は横道に逸れる。打率よりも出塁率が重要視されている近代のセイバーメトリクスであるが、美学のエース園川の球速を苦にせず、かつ長打狙いに失敗したら怪しいコースは全てカットし、最後は決め球のゾーン外に逃げるスライダーを見切って「園川をマウンドから引きずり下ろす」フォアボールをもぎ取ったのは、白菊をライトのスタメンから弾いた光であったのは興味深いと思う。
野球に興味がない層は「ヒットを打たれていないのに何故?」と思うかもしれない。
実は逆だったりする。
ノーコン状態でのフリーパス四球を別にすると、打球が飛んだ位置という運に左右されないフォアボールの方が、三振とホームランと同等に打者の実力を測るのに適した指標、という解釈もあるのだ。
いいコースに投げた良い球をヒットにされたならば、点差があるので、もう少しだけ様子見してもいい状況だ。打った打者が良かったと。相手打線は下位に向かっていくし。
ところが、それまでの流れかつ決め球が外れての四球となると、ベンチの判断は変わってくるのだ。それに、初球のフォークを「相手が狙っていたフォーシームなら」ドンピシャでもっていかれるフルスイングを見せられている。かつ初球の長打狙い大振り以外に空振りも取れなかった。すでに球数も重ねているしギアチェンして出力を上げる余力もない。つまりここで「限界だ」とベンチが見切りを付けるのに十分な要素が揃っていたし、作中で言及されていた通り、ここで無理をさせて炎上してしまうと今後に響く。
新1年生たちによって試合の幅が広がる
例えば女子野球マンガ『花鈴のマウンド』であると、下級生は外野3名を除き全員モブの控えである。ベンチ入りメンバーが埋まる程度にはなんか一杯いるのだが、誰一人としてネームドがいない。3年生のスコアラーの子、センターとレフトがモブ寄りの2年生、ライトがメインキャラの1人である1年生、他は全員が3年生という構成になっている。
この女子野球マンガ、レギュラーは常にスタメンで、両チーム共そのスタメンだけで正面激突するという作風だ。『MAJOR』並みにホームランがポンポン出る野球マンガでもある。
レギュラー=スタメンは、女子野球だとそんなもんかもしれない。
主人公チームが夏の全国(地区予選ないけど)の準々決勝で対決した月光高校なんて、野球部員9人ギリギリしかいなかった。しかも全員が1年生。
そんなチームでどうやって勝ち残れるのかというと、その9人はずっと一緒に野球をやってきた仲間で、月光高校女子野球部はこの9人のために作られた部という事情だ。
全員が1年生だけあり、とにかく貧打線で、なんとか1点か2点をもぎ取り、その点を〈北の妖術師〉と異名されるエース――エースというかガチで投手は彼女一人しかいないのだが――が、完封勝利するという綱渡りスタイルであった。
主人公チームの星桜高校に負けたスコアもタイブレークでの0対1。
大会通算で失点はタイブレークでの1のみという投手だ。春と夏で全国優勝を分け合っている彩愛女学院と京都雅の2強(主人公のライバル強打者がいるチーム)という設定があるのだが、その京都雅に練習時代でノーノーをやっているスーパー投手である。
作中で唯一の失点もタイブレークからのタイムリーだったが、技あり的なその値千金タイムリーを打ったのは「その試合限定」で助っ人してくれた3番ショートの子で、難病で欠場を強いられた本来の3番ショートのキャプテンより才能が上の子(元野球部のチア部)と、入念に「バッティングセンス抜群の助っ人以外は、〈北の妖術師〉は打てませんでしたよ」と強調していたという。
『球詠』は女子野球ではないので、二桁背番号のスタメンは敵味方で割とある。
強豪チームは先発投手を三枚揃えているし。
あと新越谷の『ベストメンバー』は、練習試合にて1番センター怜、2番セカンド菫、3番ライト光、4番ファースト希、5番サード理沙――と明示済みだ。
で、新越谷も新1年生が入った事により二桁背番号のスタメン機会が増える。これ自体は高校野球として普通だ。現3年生が引退後の新チーム構想も関わってくるので。
それに加えて、新越谷の新1年生は数こそ6名と少ないがモブが一人もいない。
・代走と外野守備固めに使える京子
・コーチャーとして優れている美咲
・5ツールプレイヤーで強打者の瑞帆
・控え捕手で投手以外全てできるユーティリティーかつ強打者の詩織
・一発病はあるが本格派右腕の小町
直球とスラーブのみの未熟な投手、蘭々を除く5名は十分に戦力になっている。
特に詩織は光が先発投手の際、白菊を押しのけてライトでスタメンする事もある。
この時点で「連載初期のコンセプト」は完全に作品内での役目を終えており、スポーツ系として試合内容もさらに専門的に深堀りしていく方向性を強いられるのだ。
少し話を戻すが、1年目の秋大会であるが、プレイヤー10人だと自軍のベンチワークがまともにとれない影響で――
・姫宮(一戦目)戦:怜と理沙の元チームメイトとの因縁
・深谷東方戦:希・光・松岡さんのプロ注レベル3名と、特別ではない「その他」
・咲桜戦:詠深の中学時代の深堀とトラウマ克服
野球の試合内容以外にスポットを当てるしかなかった。
上の3試合はゲームとしては大味だ。
試合内容として凝っていたのは、敗退する美園学院戦しかなかったのである。
だが、2年生編に入り、プレイヤーが一気に増えたことによって、自軍のベンチワークにかなりのオプションを持たせられるようになった。敵チームだけではなく、自チームも能動的に動かせるようになった事で、試合内容をより専門的にできるのだ。
本格野球マンガとして楽しんでいる読者層
この層は、2年生編以降の方が1年生編よりも楽しめていると思う。
作者であるプクイチ先生の技量の上達が、試合内容の濃さに反映されているからだ。
野球マンガとして付いていけなくなった読者層
ぶっちゃけ、野球に興味が薄い読者層にとっては、明らかに分かり難くなっている。1年生編の試合展開や内容はシンプル過ぎではあるのだが、野球が好きでない読者にとっては塩梅が丁度よかったと思われる。
最新の椿峰戦でも、某掲示板作品スレッドにて「(椿峰は)馬宮枠だよな?」という書き込みがあったくらいだ。
馬宮高校とか影森高校という初期の敵チームは、もう二度とスポットが当たる事はないだろう。その頃を懐かしんでいる読者層である。ちなみにCシード椿峰は初期から名前は出ていたが、後付け設定的に〈埼玉3強(梁幽館/咲桜/美園学院)〉に近年は後塵を拝しているが、ベスト4の門番で全国出場経験もある格上強豪、になっていた。
ここまで3試合連続での無失点コールド大勝。
今の今まで当たらなかったのが不思議であるが、まあ、後付け強豪だから当然か。
試合内容は過去一で凝っている。
相性の良さでスタメンする二遊間コンビ(背番号4と16)に、ショートのスタメンを弾かれてファーストでスタメンする背番号6、そしてファーストのスタメンを弾かれたが代打で登場する背番号3、と完全に計算されていた。
データ野球で解析されており、打者3巡目から詠深は「強力椿峰打線」に捕まり始める。
現時点で勝敗は不明だが、完全に負ける流れだ。
―追記だが、辛うじて逃げ切った―
というか、3年生編をやるのであれば、ここいら辺で負けておかないと次の新1年生が大量に入ってしまうので、その都合での「まさか」の敗退かもしれない。決勝での敗北とか全国での敗北、となってしまうと新1年生が殺到しないと不自然であるから。
連合戦の頃から某掲示板作品スレでは、明らかに試合内容に関して議論するレスが減った。珠姫のリチャードネタに気が付いたレスもつ1つだけという状況。試合への議論があってもリアル野球に詳しくない漫画やゲームでしか野球を知らない層の書き込みがメインになっていた。しかも的外れなものが大半という悲しさ。
1年目の夏から秋にかけての頃より、試合や野球について語る難易度というか、野球に関する造詣(専門的知識)が必要になっている影響が大きいと思われる。
詠深の無双が見たいという希望
来年からDHが導入されるのが『球詠』世界でも確定済みだ。
設定として詠深は打てないのが魅力であり、椿峰戦も全打席三振を芳乃は見越している。下手に出塁して消耗するよりも、サクッと自動アウトの方が総合的にはいいという考え方もあるし、光が3番ピッチャーか5番ピッチャーの強打者なので差別化もできている。詠深が強打者だったら、逆に光はヘボ打者という設定にされていた筈だ。
椿峰戦を圧巻の完封劇で締めて欲しかった読者層。



『花鈴のマウンド』18巻の主人公覚醒シーンであるが、こんな感じの圧倒的ピッチングを詠深にもして欲しかったんだろうなぁ、と思う。
ちなみにフォーシームは完成に近づいても、まだ変化球――〈花鈴ボール〉は未完成だったりする。準決勝の京都雅戦、決勝の彩愛女学院戦で完結と思われるので、〈花鈴ボール〉の完成はもう少し先だ。
主人公出生の秘密と、生き別れだった双子の姉妹バレは準決勝でやると予想。
未読の人に伝えると『花鈴のマウンド』は、人間関係ドラマはかなりドロドロしている作品である。ぶっちゃけ、色々と重い。
それから『MAJOR2nd』の〈睦子ボール〉とか〈マリオボール〉もそうであるが、自分の名前を冠したオリジナル変化球は、ちょっとネーミング的に恥ずかしいと思う。


